Homeエッセイ集目次>ムスカリの花に
  ムスカリの花に   

家を造るときに、庭は最低限の広さにしました。今の我が家には三歩と五歩くらい歩けばおしまいの狭い庭しかありません。それでも越してきたときに公園の売店で見つけた「つるバラ」を4本、フェンス添いに植えましたが、そのうちの1本は、接ぎ木の土台の木の勢力が本来のつるバラを凌いでしまい、薔薇の花とはまったく違うショボイ花を一斉に咲かせるということになってしまいました。最初はいろいろな花を小さな庭に植えてみましたが、なかなか上手くはいきません、それに草取りもしんどくなってきて、段々と荒れ放題になり、たまに帰って来た息子がたまりかねて整備するということを繰り返していました。

2年前に彼が埋めていった球根から、紫色の「ムスカリ」がどっと咲くようになりました。青紫の小さなビンブラシのような花は、少し暖かい日が続くと春を告げるように一斉に天に向かって花を伸ばします。香りはあまりありませんが、密集して咲くのでとても賑やかです。好きな青色ということもあって、咲く時期を楽しみにしていました。雨に降り込められた日でも、この花の鉢の周りだけがポッと明るく華やいでいるのがなんとも言えません。1年間、この日のためにひたすら力をためて、今咲いていると思うと、風に吹かれながらこぼれるように花を揺らす風情がいとおしくなるのです。

ムスカリはユリ科の多年草で、地中海沿岸、西南アジアが原産地ということです が、目立つ花ではありません。花壇の縁取りやアクセントに植えられていることが多い花です。でも春の気配をいち早く感じてブラシ型の花を集団で規則正しく伸ばす可憐さが マスゲームをする少女の一途さのように感じられて、まことに気に入っているのです。

ムスカリは短い花盛りが過ぎて役目を終え、垣根のピンクと白のバラがチラホラ咲き出す気配です。フェンスを乗っ取って居座った小さな与太花が、一番元気にジャンジャン咲くのが、いかにもしゃくに障るのですが 、手入れの行き届かない小さな小さな庭ですから、そんな与太花も咲いてくれれば一興かもしれないと思っています。今年も命あって、つるバラの満開を待っている日々です。
(2016.4.17.)

エッセイ目次へ
Home 旅目次 エッセイ集 花目次 浜松雑記帳 料理ワイン2016