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テレビの見方 
木村太郎氏講演
元NHKのニュースキャスターであり、退職後は民放のニュース番組も担当された木村太郎氏の講演がありました。NHK特派員時代にはワシントンD.C.に住んだ親米派であり、また、パリに在住したことから、フランスに対する思い入れもひとしおという国際派です。75才、まだまだ元気いっぱい、、という感じでした。

「テレビの見方」という演題です。NHKの駆け出し記者時代に接した大きな事件、「浅間山荘事件」や「日航機御巣鷹山遭難事故」の時に、民放のCH8フジテレビに機器の使い方で負けた話は、臨場感たっぷりで、当時を知る年齢の女性が多い会場の聴衆をしっかりと引きつけました。

CH8はスポーツ中継がメインの局であったために、当時まだ少なかったビデオ機器を用い、中継車を使ってリアルタイムに放送することをやっていたのでしたが、スポーツ中継で使うこの機材を、ニュースの現場で活用するという機転があり、それを実行できたのが大きな違いだったのだそうです。

NHKはじめ他の局は、カメラ取材班を現場に行かせ、そこで撮影したフィルムを大急ぎで手近な局にバイク便で届け、それを現像し、本社に送って放送するといった手法をとっているなかで、CH8はビデオカメラと中継車を使って3時間も早く放送することができたということでした。自衛隊ヘリによる生存者の救出画面を、いち早く放映できたのですから、もの凄い特ダネです。1980年頃からPCに興味を持ち、機器を扱ってこられた氏は、このことを今でも、とてもとても悔しそうに話されました。

デジタル機器の進歩で、このような話は、昔話になってしまったのですが、振り返って現在のTV番組に目を向けてみると、TVの主力であるバラエティ番組に品がなくなり、いじめや差別を感じさせる画面も多くなっていることから、視聴者から呆れられ、若い人や知識層のTV離れがひどくなっているということでした、さもありなんと思います。

ニュースは今やインターネットにおくれを取り、スポーツも特定の局の都合によって、放映されるものが偏ったりしています。TVの主力であったバラエティ番組も、かっての「夢であいましょう」のような品の良いものはなくなり、芸人達の裏話や悪口、はては下ネタなどでしめられています。これでは見る人が減り、最終的にTVが衰退していくのは当たり前でしょう。事実、広告収入なども、すでにネットに接近されていると言うことでした。

これからのTVは、ニュースをいかに見せるか、スポーツをどこまでリアルに写すかということが主な仕事になっていくということでした。しかし、あの東北大震災の時の福島原発事故報道でも、TVニュースはネットよりはるかに遅く、写真もなく、その場しのぎであったことは事実ですから、今後のニュース部門は、はたしてどうなのでしょうか、、大いに疑問です。官僚達の作文や政府発表を、嘘っぽいと見抜く力が、今の記者達に残っていることを期待したいものです。

視聴者がそれぞれの観たい物を勝手に選択し、いつでもどこでも見ることができるようなお膳立てをしつらえることが出来るかどうかが、これからのTV存続の鍵となるのでしょう。ここで氏は映画配信のHULU(フールー)を紹介されました。時々利用されるのだそうです。

アメリカではすでに10年以上も前から、一日中裁判所の公判を写し続けるものや、ニュースや料理番組や各種映画をず〜っと流しているものがありました。日本でもこれからはスポーツクラブは自前のチャンネルを持ち、自分のチームの試合を映し続けるというようになるでしょう。視聴率がなんの指標にもならない時代が、もう始まっているのかもしれません。

今現在、TVを見ている時間が最も長い人たちは、「60才以上の老人男性」なのだそうです。退職し、これといった趣味もなく、TVしかお友達がないジジ男性が、これからドンドン増えていくと思うだけで、なんだかげんなりしてしまいました。

便利なようで様々な危険を内蔵しているインターネットの行方も、茫洋とした灰色の雲が立ちこめているようで、あまり明るくはありません。カラ景気で浮かれている世の中のように、いつダメになるかと不安だらけで、落とし穴がいっぱいあるように思いました。(2013.5.14.)
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