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ケンタロウの美味しいお話 

ケンタロウのトークショウに参加しました。
小林健太郎こと「ケンタロウ」という名前をご存じの方は今や多いかもしれません。かの有名な料理研究家小林カツ代氏の息子です。小林カツ代氏は15年ほど前に、非常な忙しさの中で倒れ、その後はメデイアで姿を見ることがなくなっていますが 、料理は豪快で、レシピはわかりやすく単純明快、出来あがった味は確かでした。

バブル華やかなりし頃の料理対決番組で鉄人と言われた男性料理人をなぎ倒した腕は本物だったと思います。 家庭の味を大切にするということをモットーにしていた彼女の料理は、ゆたかで温か味があり、誰でもがんばれば出来るような、ごくあたりまえのものでした。それを受け継いだケンタロウは独自の持ち味を生かして母親の料理を自分流に磨き上げつつあるといったところでしょうか。

いつものように普段着とおぼしきチェックのシャツによれた帽子といういでたちで現れたケンタロウは、街のどこにでもいるフリーターのようでした。母親の味はと聞かれ、即座に「唐揚げ」と「ラザーニャ」と答え、自分で作っても母親の味と比べると95点より上には行かないと、少し照れながら話していました。料理の勘所というものは簡単にまねをすることが出来ないという言葉に、母親への尊敬を感じました。母親冥利です。見かけはオッサンっぽい人ですがまだ40歳、ナイーブでシャイな一面をのぞかせて、見かけによらず繊細さも感じました。

電子レンジの原理が理解出来ないから、レンジは家では使わないという発言に、料理人の意地のようなものを感じました。確かにレンジは温める以外にはさほど優れた器械ではありません。ここぞと言うときにはやっぱり調節自在な「ガス」が一番だと思っている私は、ここに大いに共感しました(笑)。

外食は決まった店にしか行かない、そのわけは、1年にたった365回しかない晩ご飯を、1回たりとも失敗したくないからだという、、食べるときはひらすら食べる、話に夢中になって料理が冷めたり、まずくなるのが一番イヤだから、、と。

食材も希少価値のあるものより、どこでも手に入るものでいいし、器具も良く切れる包丁1つでいいということでした。料理人としての自信がうかがえます。

TVのロケでお店や農家へ行き、今初めて会ったかのように挨拶をしたりする「演技的なこと」 がとても出来ないので、本番までは相手に会わないようにしているということでしたが、ごまかしが嫌いだという人間性のあらわれでしょう。おおざっぱさと細かさが同居している両極端な性格だと、覚めた目で自己分析も出来る異色の料理人の素顔をかいまみたような気がしました。ナカナカの人です。

本当の意味で母親を超えるにはまだまだ修行がいるのでしょうが、茫洋とした見かけと同じように、そのおおらかな持ち味の料理は、すでに彼独自のものとして一人歩きを始めているのでしょう。

作ることとと食べることとどちらが好きかと聞かれて、「それは、食べることですよ」と答えた笑顔が印象的でした。
2012.1.23.


(いつもは会場入り口前に並ぶ本の販売台もなく、いかにもケンタロウらしい)
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