トップページエッセイ集目次ジャカランダの花の咲く頃

ジャカランダの花の咲く頃 本文へジャンプ
ジャカランダという花木をご存じでしょうか。薄紫色の花を咲かせて世界三大花木の一つといわれ、熱帯の桜とも呼ばれている花木です。南米原産で暖かい気候を好むこの木は、冬の厳しい日本の北では見ることがなかったのですが、4年前に浜松に移ってきた時に、近くのガーデンパークでこの大木を見つけました。温暖な東海地方では美しいブルーの花も見られることを知り、念願だった木でもあり、嬉しくなって苗木を求めて鉢植えにしたのでした。

何しろ20センチほどの小さな苗でしたから、最初の冬は囲われたベランダに置いても、強い空っ風を受けて死にそうになっていました。室内に入れてみましたが、あまり元気がでないまま春になり、それでも数センチは伸びたのかな、、という程度でした。そのまま1年が経ちました。ちっとも大きくならないので、東側の朝陽の当たる所に、鉢ごと土の上に置いてみたのが良かったのか、それからはズンズン伸びて、今年は私の背丈を超えるほどになりました。ちょこんと葉っぱも出て来て、棒っきれのようだった木が、何とか自力で生きて生長していることがわかりました。

大きくなれば、紫色がかったブルーの花をいっぱいに咲かせ、まるで桜の木のようになるのですが、大木にならないと花をつけないところが桜とは違っています。

昔、アメリカの西海岸に旅をした時、ロスの街はいたる所でこの花が満開でした。もう30年も昔のことです。当時忙しい家業に振り回され、昼も夜もない生活が続き、無理がたたり入院する羽目になった時、田舎から出て来て看病してくれた母親に、せめてもの恩返しにと計画した二人旅でした。地元のガイドに聞いたジャカランダという耳慣れない木の名前が、この時から何となく記憶の底に残ることになったのです。

車の中から、満開になって異郷の空イッパイに広がっていたこの花を見て、母親はキレイ!キレイ!と大喜びし、是非ともこの苗木を持ち帰りたいと言いましたが、植物検疫のこともあり、その時は断念せざるを得ませんでした。

その後、母のたっての希望で、カリフォルニアで暮らし始めた息子の所へ二人で訪ねる機会がありました。この時にも、ジャカランダの花が満開でした。街路樹として植えられ、大きな木になったジャカランダの花は、華やかなサンフランシスコの街にも鮮やかなブルーの色をばらまいて、それはそれは印象的なおしゃれな感じで美しく咲いていました。

大きな木に咲くブルーの花は日本では「桐の花」くらいでしょうか、そういえば子供の頃には実家の裏庭に大きな桐の木があって、リンドウのようなカタチをした花がいっぱい枝についていたことを思い出しました。

ジャカランダの花は移民として日本からアメリカに渡った人々にも愛され、桐の花に似ているところから「桐もどき」と言われるようになったのだと聞きました、きっと枝イッパイに咲く日本の桜を思い出させるような花だったのでしょう。

青色が大好きだった母は、このブルーの花のさく木、ジャカランダを持って帰りたいと又々言いました。園芸店に行き、尋ねてみたのですが、店の売り子は、ジャカランダは暖かい土地でないと育たないし、冬が5度以下になる所では無理、と言って肩をすくめたのでした。残念そうな母親の様子から、息子と私は、いつかは種を見つけて持って帰り、母の庭に蒔いてあげようと話したのでした。

しかし、この木を植えて花を愛でるまでにはかなりの年月がかるのに、種を持ち帰るチャンスのないまま数年が過ぎてしまいました。そして母はこの花を自分の庭で見ることもなく、あっという間に亡くなりました。今年でもう13回忌となった梅雨入り前の6月はじめのことでした。その時、彼女の孫である息子と、娘である私は、この花を「祖母の花」「母親の花」としようと、暗黙の内に思ったのです。

小さく細いジャカランダは、昨年の冬には葉が落ち、一本の柴のようになっていましたから、もう半ば諦めていましたが、4月になって暖かい日が続いたある日、何気なく東側に回ってこの木を見て驚きました。なんと、いつの間にかヒョロッと伸びて、少し太くなっていたからです。これは根付くかも知れない!

今は植え替えるには絶好の季節6月ですから、ためらうことなく家の表側である西に移動しました。つっかえ棒をして風に備えましたが、この弱々しい細い木に花が咲くまでにはまだまだ年月がかかることですから、そういう自分もきっと花を見ずに逝くことになるのでしょう、それもまたいいか、、と思ったりもしています。

今、この木は、緩い西風にゆ〜らゆ〜らと心地よさそうに揺れていますが、冬までにもっと頑丈になって太くなり、強く根を張らなければ、冬の遠州灘からの強烈な風に耐えることは出来ないでしょう。

たくさん水を吸い上げて、強い大木になり、いつの日かあの煙るような美しいブルーの花を枝イッパイに咲かせてほしい、、6月に逝った母の身代わりのような強い木になり、弱音を吐かず、何事にも動じなかった母を思い出すよすがとなるような美しい花をいっぱい咲かせてほしい、、、心地良さげに揺れている細い若木を見ながら、そんなことを願う4年目の雨の季節になりました。
(2010.6.20.)



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