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逆突 (ギャクトツ?!


軽自動車が出口へ差し掛かっていた。なにしろ小さなマーケットの駐車場だから、細い一本道が出入り口につながっている。入ってくる車があれば鉢合わせになってしまう、早く出ないと、、と思い、その車の後ろについた。そこからすぐに右折するようになっているが、間の悪いことにその細い道に進入してくる車があった。ウインカーも点滅していないから行き過ぎる車だと思っていたら、突然、前の車がバックするような気配を感じた、アレッ?バックするの?と思う間もなく車が下がってくる、アカン!クラクションを鳴らすと同時にグシャッとフロントバンパーに前の車のおしりがくっついていた。

この間アッと言う間で、どうしようもない。後方を確認せずにバックギアを入れるなんて、、考えられないけれど、現実はそうなのだから仕方ない。あ〜ぁと思いながら車を出て、

「後ろも見んと、急にバックしはるんやもん、、どうもならんわァ、、」と、大阪弁丸出しで言った。(ワタクシは、事故の時は最初が肝心やからと思うイヤなヤツなのです)

慌てているのだろうけれど、決してそうとは見えないオバさんが降りてきた。何にも言わない、驚いて何も言えなかったのかもしれなかったけれど、黙っておられるとこちらも困る。

「保険ヤに電話するから、、」と彼女は携帯を取り出しているけれど、動転した風で、一向につながる気配もない、後部座席で2歳くらいの赤ちゃんが泣き出した。

こちらの車の傷は大したことはないけれど、このままにしておく傷でもない。困ったナ、、

いろいろなことが頭をかすめた。ここは駐車場なのだから、警察は関与しないのかな、、でも保険を使って修理するなら「事故証明」がいるし、、とりあえず何処かの警察へ届け出ないと、とは思うけれど、いかんせん土地勘に乏しい、サテ、、どうしたもんだろう、、やっぱり110番するしかないか、、

携帯を握っているオバさんに「110番するけどいい?」というと黙って頷いて赤ん坊を引き出している。こんなことで110番なんて、いかにも大げさだと思いながら、番号を押した。いままでで2度ほど電話したことはあるけれど、いつもよその人のためだったからどうと言うことも無かったけれど、今回はまず緊急性がないことを最初に言わねばなるまい。

「ハイ!こちら110番!!どうされました?」

「ハイ、最初に申し上げておきますが、決して緊急ではありません!ただ警察の番号も場所も分らないものですから、110番しました」

「ハイハイ、わかりました、どうしたんですか?」今の状況を説明すると、

「いいですよ!110番でいいんですよ、まず、怪我はないですか?」

「怪我?!接触しただけですから双方怪我はアリマセン」

「ではこの電話は静岡県警に入っていますから、浜松の現場の地図を出しますよ〜、ハイ、そこはどこですか?」

「あのゥ、浜松市の浜名湖花博のあったガーデンパークのそばです」

「町名と番地を言って下さい」

えっ?そんなもん知らへんし、、聞いてくるしかない、会計のおねえさんに頼んで正式の住所と電話番号の書いてある紙をもらってきた。

「モシモシ。M町○番というところです」

「そう言われてもボクもわからんのでね、担当に電話しますから、このまま携帯を切らずにね!切らずにね、待っていてくださいね」とおっしゃる。

「モシモシ、待たせましたね!M町M交番へ2台で行って届出て下さい」

M交番??そんな遠いところ、知らないし、、交番でいいのだったら、雄踏にも交番はある。

「あの〜雄踏の交番なら知っていますから、そちらでもいいでしょうか?」

「それならそこでもいいですよ、こちらから電話しておきます、あのね、Iさん!行く前に相手の電話や住所をしっかり聞いておくんですよ!途中でいなくなってからではどうしようもないからね!」

全くおっしゃるとおりです!さすが警察官、行き届いて疎漏が無い、そのようにいたします!(携帯でナンバーはすでに写し撮っていたけれど)

「有難うございました!お世話様でした」110番の警官さん!スミマセンデシタ!

オバさんにそれを伝え、ありあわせのレシートの裏に名前と住所などを聞き書き、もう一枚にこちらの住所などを書いて渡した。つれだって交番へ行った。

あちらの車ではお腹が空いたらしい赤ちゃんが、泣きやまないから気の毒になったけど、どうしようもない。車検証や免許証をコピーしたりする事務手続きをしていると、外廻りの警官が帰ってきた。
事故の状況を聞きながら紙に事故図を書いてくれるのだが、一向に要領を得た図にならない、、たまりかねたから、ペンをもらって説明しつつ図を描いた。フムフムと、どうやらわかってもらえたらしく、事故証明がすぐに出るようにしておくとの確認をしてくれた。これで終了。ヤレヤレである。時計を見るともう1時間以上も経っている。

交番の前でかのオバさんと別れる際に

「帰られたら、すぐに保険ヤに電話しておいて下さいね」と念を押した。

「わかりました、電話します、スミマセン、、」と、やっとおっしゃる。

「いいえ、オツカレサマでした。気をつけてね!」

帰ってからゆっくりと見てみたら、やはり少し傷がついて黒くなっている、バンパーの下に連れ合いが擦った時の傷がついているが(この方がもっと大きい引っ掻き傷なのだけれど)、何と行っても今回は真正面だから、目立つ、トヨタに直行することにした。出てきた係員は、車を見るなり、ナンバープレートも曲がってるし(これも連れ合いが日本平の駐車場で富士山に見とれて前の石に当った時のものだけど、、)、バンパーを取り替えますと○×円ほどかかりますが、と言う、バンパーを替える?こんな傷なんて塗ったら終わりとちやうのん?しかし、中を開けてみないと芯が狂っているかもしれないし、なんて言う。

「あの程度に当っただけで芯が狂うようになってるんですか?」と思わず聞き返したが、かなり大げさだ。相手の保険が使えるからって、それはちとオーバーなんじゃないのん?
しかし、帰宅してすぐに相手の保険会社から電話がかかり、トヨタに見積もりを出してもらうから、代替車も手配するというではないか、しかも、

「こちらのお客様が、「逆突」(バックしてぶつかることを「ギャクトツ」と言うらしい、初めて知った日本語だった)して、ご迷惑をおかけし、申し訳アリマセン」と謝ってくれるのだ。
どうして保険ヤさんが謝るのかと思った。この低姿勢はなんだ?ただのマニアル通りなのかもしれないけれど、驚いてしまった。

トヨタの係りから電話で、車検証のコピーをもらうのを忘れたし、車体の色番号の確認もしたいのでお宅へ伺うという、家の場所が難しいからと丁寧に道順を言ったのに、ナビで行けるからと、いい加減に聞いていて結局は到着出来ず(ここは特殊な所で、並みのナビでは来られませ〜ん(笑))。やっとおいでになった係員に車検証のコピーを渡すと、修理期間が一週間ほどかかるから同程度の代替車も出すと言って帰っていった。ずべてキレイにしてくれるらしい。しかし、何だか過剰に大げさな感じで、釈然としない。顛末を聞いていた連れ合いが、

「アハハハ、、アンタは何かやるっていうたら、大概三月やナ!あの時も三月だったしナ」

40何年か前、初対面だった連れ合いの車を運転することになり、ペーパードライバーの未熟運転のせいでT字路交差点で衝突してしまい、当時としてはチョイと洒落たリアエンジンの彼の車の前半分を大破させてしまった事故のことだ。もう一つは、信号で止まっていた時に、よそ見運転の車に追突されたのだったが、これも三月!そして今回の「ギャクトツ」、これで三回目の三月だと笑う。

「お彼岸なのに、お父さんの墓参りにいかへんかったから、バチ当ってるんかもしれへんワ」

「いいや違う!うちのオトウチャンは、そんなことで怒ったりせえへん!イイヨメはんやと思うとる!」

「・・・エッ?!今、ドサクサになんて言うたん?」

「な〜んも言うてへん!バチなんか当ってへんって言うただけや!」

「車も小傷が直って、きれいに新品のバンパーがつくらしいし、ケッコウやないか!」

一日たった今日、電話のベルが鳴った。出てみると、

「モシモシ、車をぶっつけたYという者ですが、お宅へ行こうとしてるんですが道がわからないので、、」

「エッ?まだ何かありましたか?」

「いいえ、何もないけど、ご迷惑をかけたし、謝ろうと思って、、」

玄関に見知った(笑)車が到着した。オバさんが昨日とは別の人のような笑顔で、お詫びに土地の名物をくださるという、おまけに自家畑の玉ねぎも好きならば又届けるとおっしゃる。お茶でもとすすめたが、嫁さんが入院中で赤ん坊の世話があるからと、急いで帰っていかれた。胸のどこかが温かくなったように感じながら、傷のついたままの彼女の車の後ろを見送った。

「あんたは何か起こっても、それがすぐイイ方に変わっていく、不思議やナ!」と連れ合いが言う。

「そうやね!けっこう大変なことが起きるんやけど、なんとなくうまくおさまっていくんやワ、なんでやろね!」

もし、あの43年前の事故が無かったら、多分、今のこの夫婦はなかったもんね、、
でもそれがホンマに「イイ方に」だったのかどうかは、まだまだわからへんけど、、、とんだ浜松ギャクトツ顛末でした(笑)


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