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The Kettle of Happiness 
分福茶釜(1394~1428)老僧の守鶴が愛用の茶釜、汲めども尽きぬ不思 議な茶釜、守鶴は住持(住職)に狸の化身であることを見破られ、寺を去ったという。
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Once upon a time, There was a monk, and he lived in a temple called Morinji Temple.

昔々のお話です。皆さんがご存じの金閣、銀閣が建てられ、武士達が勢力争いをしていた頃の話です。都から遠く離れた関東地方に茂林寺という山寺がありました。

Near this temple, there was a town where the monk know would sometimes go to shop, and one fine spring day, the monk went there to look for a kettle.

そのお寺の和尚さんは、寺で使う物についてはお参りの皆さんに見て頂くものだからと、自分で店まで出かけて選ぶようにしていました。その日は茶釜を買いたいと思って山道を下り、麓の村まででかけました。のどかな春の陽ざしが辺りの景色を柔らかく包んでいました。途中、野良仕事の村人たちと立ち話をしたりして、のんびりと村までやってきました。

He went from shop to shop, but he could not find one that he liked. All the kettles there were either too big, too small, too heavy or too ugly.


村には日常で使う物を商っている店があります。茶釜を作っている鍛冶やもありました。和尚さんは茶釜を売っていそうな所を見て廻りました。
「これは大きすぎるぞ、これは小さすぎる、これは重すぎる、これは形がよくない、、」ブツブツと独り言を言いながら茶釜を見て廻ったのですが、なかなか気に入った茶釜が見つかりません。


But just as he was about to give up and go home, he saw the perfect kettle.
" I'll take that one ," he said to the shopkeeper straight away.


疲れてしまい、諦めて帰ろうとしたときです、店の隅の暗がりにある茶釜が目にとまりました。「あれを見せてくれ」和尚さんは店の主人にそう言いました。手にとってみますと、重みといい形といい刻んである模様まで、どれをとっても満足できる出来でした。

「おお、これだ!これだ!」和尚さんはすぐさま店の主人に言ってその茶釜を買い求めました。
(2014.5.02.)


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He paid for it, took it home and put it in the alcove of his room.

和尚さんはお代を渡すと、『今日はイイ買い物が出来たわい」と、いそいそと寺に戻って来ました。そして茶釜のために空けて置いた床の間に、美しい木目の板を敷き、その上に茶釜を置いてしばらく眺めていました。

"Going to town always makes me so tired," he said , yawning.
"I think I'll have a short nap".

「やっぱりいいなあ、、」と独り言を言っていましたが、そのうちに大きなあくびをしました。
「街まで出かけて買い物をしてくるとやっぱり疲れるなあ、、」

そう言って和尚さんは今に戻ると、ゴロリと横になりました。
「ス~ス~、、」和尚さんはすぐに眠ってしまいました。


About an hour later, he was woken by the sound of yelling. "What is it ?" he asked , sitting up. what 's happened here ?.

半刻も眠ったでしょうか、和尚さんは悲鳴を聞いて目を覚ましました。

「いったい何が起こったんだ?、どうしたんだ?」
和尚さんはむっくりと起き上がりましたが、その後なんの音もしません、和尚さんは茶釜が気になって茶釜を見にいきました。するとどうでしょう、、小僧さんが茶釜の前でひっくり返っているではありませんか、、。(2014.5.9.)
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A young monk was lying on the floor. He was unconscious. The monk splashed water on the young monk's face , slapped him a couple of times, and waited for him to wake.

小僧さんは気を失っていました。
「どうしたんだ?何があったんだ?」和尚さんは驚いて呼びかけました。でも返事がありません、慌てた和尚さんは床の間の花瓶を持ってきて、小僧さんの顔にバシャッと水をかけました。それから平手で頬をピシャピシャとたたきました。やっとのことで小僧さんは目を覚ましました。


"I came to ask you if I could borrow your new kettle", began the young monk, once he had returned to his senses. "I opened the door , and, master, I saw the kettle moving. It was moving along the floor toward the door. And I was so scared, L fainted " .

心配そうに覗き込んでいる和尚さんの顔に気付くと、起き上がってこう話し始めましたました。
「私は和尚様の新しい茶釜をお借りしてもいいかどうかをおたずねしようと思ってやって参りました。そして障子を開けたんです。和尚様、、そうしたら、茶釜が動いていたんです。私の方に向かって、茶釜がズ~ッ、ズ~ッ、と近寄って来たんです。私はゾッとして気を失ってしまいました」


The monk sight. "Kettles don't move by themselves," he explained to the young monk emphatically. "They can't".

「ヤレヤレ、、和尚さんは溜息まじりにこう言いました。
「茶釜がひとりで歩き出したさと?!そんなことがあるものか!絶対にない!」

"But this one did. I saw it. "

「でも、見たんです!私はこの目で確かに見たんです!」

"No, it didn't , and get out of my sight . before you make me angry."

「いつまで馬鹿なことを言っているんだ!さっさと自分の部屋に戻りなさい!」

The young monk left.


和尚さんが少し声を荒げて言いましたので、小僧は渋々部屋に戻っていきました。
(2014.5.16.)
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"What rubbish young people say these days !" thought the monk, taking the kettle, filling it with the water and putting it over the fire . He sat down to read until the water boiled.

「近頃の若者はなんで訳の分からないことを言うのだろう、、」和尚さんはブツブツと独り言を言いながら茶釜を取り上げ、「お茶でも立ててみるとしようか」と、水を入れ火にかけました。それから炉端に腰を下ろして、読みかけの書物を取り上げ、湯が沸くまでと読み始めました。

There was a scream of pain. The monk jumped into the air in fright .

突然、「うわあ~」という悲鳴が耳元でしました。和尚さんは驚いて飛び退きました。ぺったりと腰を下ろし、両手を後についたまま、恐ろしげに声のした方を見つめました。

"Take me off, Take me off " he heard the person scream.

「私をおろして下さい!私をおろして下さい!」早く!早く!」
こんどははっきりと人間の声が聞こえました。


"Who are you ?"the monk asked , terrified.

「お前はだれだ?!」和尚さんは少し落ち着きを取り戻して尋ねました。

"I'm the kettle . Take me off the fire. It's too hot".

「私ですよ!私ですよ!茶釜です!火からおろして下さい!熱くてたまりません」
( 2014.5.30.)
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The monk yanked the kettle off the fire, dropping it on the floor.

和尚さんは茶釜をぐいっと引き寄せ、自在鉤から外すと、ドスンと床の上に置きました。

As it rolled across the room, it grew four legs, a tail and a head, like the legs, tail and head of a badger.

するとどうでしょう、、茶釜は床の上をゴロゴロと転がっていくではありませんか。和尚さんがあっけにとられて見ていると、茶釜から手が出て、足が出て、頭も尻尾もでてきました。
まるで茶釜を背負った狸です。


This time , it was the monk's turn to scream.
"Get away, you monster," he yelled.

ビックリ仰天、和尚さんは腰を抜かしてへたり込むと、身をのけぞらせて引きつったような声で怒鳴りました。

「あっちへ行け!この化け者め!」
(2014.6.06.)  トップに戻る

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" Pleas ,listen to what I have to say," bagged the kettle.

「どうしても和尚様にお話しなければならないことがございます、どうか私の話を聞いて下さい」
狸の茶釜はすがるような目つきで和尚さんを見つめてそう言いました。

The monk stared at the kettle in silent amazementt.
"No,
I will not listen to a taking kettle," he said eventually.
"It is not right that a monk of my standing listen to a kettle.


「何だって?!茶釜の話なんか聞けるか!わしはこの寺の住職なんだぞ!」
それまでびっくりしてじっと茶釜を見つめていた和尚さんでしたが、茶釜のはなすことを聞いて落ち着きを取り戻したのか、急に威張ったような声で話し出したのです。

I'm taking you back to the shop straight away" So he wrapped the kettle up and took it back to the shop.

「お前のような茶釜は今すぐに返品だ!」そう言って書き損じの紙に茶釜をくるむと、それを持って買った店へと出かけて行きました。血相変えてやってきた和尚さんを見て、店の主は言いました。

"What seems to be the problem?" asked the shopkeeper when the monk entered his shop.


「どうかなさいましたか?何か不都合でもございましたか?」

"This kettle is unsatisfactory ", said the monk angrily.

「この茶釜は気に入らん」和尚さんは怒った声で言いました。

" Why ? It Looks fine to me ."

「なぜでゴザイマス?私にはとても上等に思えますが、、」

" It is half - badger, that's why. It grows the legs, the tail and the head of a badger, and I do not want a kettle that does that. "
How can I drink my tea in peace if it walks around everywhere?"


「これは狸の化け物だ!この茶釜から狸の頭と尻尾、それに足まで出るんだぞ!どうやってわしは心静かにお茶を楽しむことが出来るんだ?!こんな茶釜が、家中歩き回ったんではかなわん、、こんな茶釜をわしはいらん!」
和尚さんは、そうまくし立てました。(2014.6.13.)トップに戻る


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"I'm sorry , but...

「そうでしたか、、でも、、」

" And it talks. All I wanted was a kettle that boils water. and it doesn't even do that".

「おまけに、こいつはしゃべるんだ!わしの欲しい茶釜はお湯さえ沸かせればいいんだ!その他のことは何もせんでいい!」

So the shopkeeper took the kettle from the monk. and the monk left in a huff.

そこで、店の主人は茶釜を受け取って、代金を返しました。それでも和尚さんは怒りが納まらず、ぷんぷん怒ったまま店を出て行きました。

That night, the shopkeeper took the kettle into his room.
" Talk to me ", he said.

晩、店の主人は、茶釜を自分の部屋に持って行き、和尚さんの言っていたことが本当かどうか調べてみることにしました。主人は茶釜を手にとって、あっちこっと眺めて見ましたが、何も変わったところはありません。

" Tell me who you are ".
The kettle grew its legs, toil and head, and it said to the shopkeeper,

「茶釜がしゃべると言ったが、本当か?しゃべってみろ!一体お前はだれなんだ?」
そう言って茶釜をしげしげと見ていると、茶釜の横がふくらんできて、そこから足が出てきました。主人はビックリ仰天、茶釜を床の上にほっぽり出しました。茶釜は四本の足で立っています。その上、頭も尻尾も出て居ました。
(2014.6.20.) トップに戻る

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"I'm sorry to cause so much trouble. I'm a badger. I came into town, looking for food. I didn't want to be caught by you human's so I turned myself into a kettle".

「面倒をかけてすみません、私の話を聞いてください」
「実は私は狸なんです、食べ物を探しに町までやってきました。でも、あなた方人間に捕らえられるのが恐ろしくて、茶釜に化けていたのでございます」


The shopkeeper felt sorry for the badger. " I'll give you food," he said "but you'll have to earn it. How about this ?

心の優しい店の主人は、狸がかわいそうになってきました。そこで、どうしたんもんだろう、、といろいろ考えているうちにいい考えが浮かびました。

「私はお前に食べ物をあげよう、でもお前にもちゃんと働いてもらうよ」


I'll put on a show, and in that show, you'll perform as The Dancing Kettle. I'll then use the money from that to buy you food."

見世物をやるというのはどうだ?お前は踊る茶釜ということでみんなに踊ってみせるんだ、そしたら入ったお金で食べ物を買ってやろう」

The badger nodded enthusiastically. "I'll do that . But I have a better idea. My sense of balance is very good, so why don't I walk on a tightrope instead,"

狸は頷きながら熱心に聴いていました。
「そうしましょう!こんなのはどうでしょう、、」
「私は運動神経がいいのです、綱渡りは得意なんですよ、綱渡りをしながら踊って見せるというのはどうでしょう、、」

"Excellent idea ."
The badger and the shopkeeper shook hand.


「それはいい!そうしよう!」
主人と狸は手を取り合って自分たちの考えを喜び合いました。  (2014.6.27.)

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So he next day , the shopkeeper set up a stall. " Roll up , roll up , " he shouted .
"Come and see the fabulous, the amazing, the absolutely extraordinary tight rope-walking kettle".


次の日「善は急げ」とばかりに店の主人は小さな見世物小屋を建てました。

「いらっしゃい!いらっしゃい!さあ、いらっしゃい!信じられないような見世物だよ~!中身は見てのお楽しみ、さあいらっしゃい、、茶釜の綱渡りだよぅ!茶釜がエッチラオッチラ綱渡りをするんだよぅ!見なければ損をするよ、話のタネに一度みてごらん!たったの五文だよぅ!もうすご始まるよぅ」

「ありがとうございます!3人様ご見物!」
「茶釜の綱渡りがすぐにはじまるよ~!早い者勝ちだよ~さあいらっしゃい!」

And people came . Hundreds of people came form around the country and paid to see the kettle walking along the tightrope with a large red umbrella in one paw. Week after week, the street of the small town were filled with crowds of people wanting to see the show.

こうして分福茶釜の綱渡りの噂はすぐに周りの村々に広まりました。
一度見てみよう、、何百人という人々が茶釜の綱渡りを見に押しかけてきました。
村の通りは来る日も来る日も、見物人で大賑わいになりました。その人たちを目当てに、店ができました。お菓子や弁当を売り歩く人もいます。縁日のような毎日が続きました。

茶釜に化けた狸は、大はしゃぎ、金糸で縫い取りをした紫色のチャンチャンコを着て、赤い傘を手に持ち、それはそれは面白おかしく踊りながら綱渡りをしました。見物人が手拍子を打てば、それに合わせて踊りのリズムを変えるといった具合です。みんな大満足で帰ったので、ますますお客は増えて行きました。「大入り袋」をお客様に持ち帰ってもらうようにしたことも人気を呼びました。

In a few months, the shopkeeper and badger were very rich.

このようにして、店の主人と狸は何ヶ月もしないうちに大金持ちになりました。(2014.7.4.)
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One day, the shopkeeper said to the badger. " I have more money than I'll ever need , and it's thanks to you, my friend. You deserve a rest after all the work you've been doing. Let's stop doing the show. I am going to ask the monks at Morinji temple to keep you. I think they'll treat you well now. With all the visitors to this town, the temple has received a lot of donations."

そんなある日、店の主人は狸に言いました。
「お前のおかげで、これからの暮らしに困らないほどのお金を蓄えることが出来た、本当にありがとう、お前はえあしのいい相棒だった、もう十分に働いてもらったから、見世物はこの辺で終わりにしよう、お前にはゆっくりと休んでもらいたいんだ、わしは、茂林寺の和尚さんに頼んでお前をあづかってもらおうと思うのだが、どうだろう、お前のおかげで大勢の人は村にやってきて、茂林寺にもお参りする人がお奥、寺でも有難いことだと思っているはずだ、だから、こんどはお前を大事にしてくれると思うよ」 (2014.7.11.)
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So the badger was taken to the temple. There, it was treated very kindly, put in its own very special alcove, and named The Kettle of Happiness. From that day on , the badger never showed its face again. The kettle forever remained a kettle.


そんな訳で、狸はお寺へ連れて行かれることになりました。以前のことがありましたので、狸は少し気がかりでしたが、寺に着くとびっくりさせられてしまいました。店の主人がよく話してくれていたのでしょう、立派な部屋の床の間に絹の赤い座布団が敷かれそこに置くだけになっていました。「幸福の茶釜」という意味で「分福茶釜」と銘の刻まれた御影石まで置いてありました。その上に置かれた茶釜の狸はフワフワの座布団の上がすっかり気に入って、ぐっすりと寝込んでしまいました。
この日以来、狸はもうたぬきの姿に戻ることはありませんでした。

分福茶釜の福を分けてもらおうと、今もまた茂林寺はお参りの人々で賑わっています。
終わり (2014.7.18.)
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