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日本の再生(困難の中をどう生きるか)鎌田 實氏講演から



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医師であり作家であり、イラクやチェルノブイリへの医療支援でも知られている鎌田實氏の講演(浜松市)がありました。

東日本大震災から2ヶ月が経ち、復興に向けて後処理のピッチが上がる中で、取り残されてしまった福島原発周辺の市町村へも医療派遣をされている氏の現場からの情報は、現地の映像もあり、被災された方々との会話の実際にも触れることが出来て迫力がありました。

会場は日頃の講演会とはおもむきが違い、大勢の聴衆を入れるために椅子を増やし、かなりの詰め込みになっていました。「困難の中でどう生きるかー日本の再生」と題された演題に多く人が関心をもったからでしょう。

自らの複雑な出生と生い立ち、貧しい生活、医学部進学をめぐっての養父とのあらそい、そして貫いた自分の覚悟と強い意志、それらをさらりと語る熟練の語り口は、講演のプロを感じさせるほどで、少し鼻白む感じもありましたが、災害地の救援にいち早く駆けつける身の軽さは、医師としての必要条件の一つですから、天性のものを持っておられるのでしょう。独自で続けてこられたチェルノブイリ事故後の汚染地域への支援は、今回の福島原発事故に対しても大きな経験となって生かされたのではないでしょうか。

東日本大震災の救援活動のなかでの人々とのふれ合い、幼い子供を津波で失った若い母親との切実な会話や避難所トイレの酷い衛生状態のことなど、現場を知る氏のお話は、ひとつひとつ心を打つものがありました。

今必要なことを迅速に行うことが被災地の救援には一番大切なことであり、その見極めがしっかりと出来なければならない、、これは当たり前の事ながら思うように実践されてはいない、被災地の下水道の復旧を急がなければならない、ということでした。まったくその通りだと思います。

遠い国の話と思っていた原子炉の事故は、その収束に日本の存亡がかかるところまできてしまいました。目に見えない放射能への恐怖は、そこに住む人々の生活を一変させ、「風評被害」というおまけまでついてきています。そのうえ先日のアメリカによるウサマビンラデンの殺害は、更なる脅威として「原発を襲うテロ」の危険も加えることになりました。

全ての日本人が自分のこととして考え、状況を深く見つめることで何が大切かを考えなければならないでしょう。流言飛語で右往左往することはおろかですが、流されないように出来るかと問われれば、毅然として「ハイ」とは言えないのがまた哀しいところです。

さて、静岡県の浜岡原発が今日(2011.5.14.)停止されました。現政権がやった唯一の英断とも言われています。向こう30年の間に87%の高い確率で起こると言われている東海地震への備えが万全ではない浜岡原発の停止を、おおかたの県民は当然のことだと思っています。

しかし、県内各地域の首長達は、周辺地域にあるさまざまな利権、そして原発雇用が減ることによる市町の衰退などを考慮してか、原子炉停止に対しては歯切れの悪い感想を述べていました。たった一人、湖西市の市長だけが「脱原発」を鮮明にしました。勇気ある発言と言えるでしょう。

原子力発電は他の発電より安価であると言われてきました。今回の事故の全容はまだ分かってはいませんが、その損害金額は兆がつくことは間違いないことです。新規建設をするにしても、廃炉にするにしても莫大な費用がかかります。それに地元への多額の交付金などを考えれば決して安価ではありません。

使用済みになった核燃料の最終処分場すらない狭い日本です。今まで重要視されてこなかった自然エネルギー開発に「電源開発促進税」を振り向けて、もう一度日本の新しい技術を世界に知らしめることが出来たなら、それにまさることはないと思っています。
(2011.5.14.)
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