*ピラミッドの街ギザからダハシュール、サッカラへ
ピラミッドは、突然街の喧騒の中から顔を覗かせた。関空からシンガポール、ドバイ、と丸一日の長旅にボーとした目に、いきなりそれは立ちはだかってきた。
カイロの西にあるギザの三大ピラミッド(クフ王、カフラー王、メンカウラー王の手になる三基)は、斜めに並び、お互いに太陽を遮らないように並んでいると言う。近くに寄ってみると、それはもはや三角形の稜線が鋭角ではなく、下は崩れはじめた石が重なった小山の状態になりかかっている。しかし、パノラマ・ポイントからみるこの景色は息をのむほどの感動をもって迫ってきた。
悠久の時の流れに屈することなく四千年に及ぶ歴史を見つめ続けてきたこの巨大な建造物は、そこに込められた王の執着と怨念ともいうべき思いに答えて、いまなお尋ねる人の胸を打つことをやめない。
古代からエジプトの人達は「全ての世界は時の流れには逆らえずひれ伏す、しかし時の流れはピラミッドの前にひれ伏す」と考えてきたというが、この巨大な最古の建造物が人々の小さな力の結集であることを思えば、時の王達の権力の大きさと、来世にかける夢のすさまじさに言葉を失う。
今日はクフ王のピラミッドに入れてくれるらしい。一日三百人程度しか入れないとのことで、ガイドのハッサンの薦めで、朝の内にどれか一つのピラミッドに入る事になった。
予定ではいったんホテルに入り、落ち着いてからだったはずなのに、兎に角ピラミッドに入るのが大事と予定はドンドン変更され、あれよあれよという間にクフ王のピラミッドの前に着いてしまう。しまった!ホテルに荷物を置く時に靴を履き替えるのを忘れた!さっきまで感じなかった暑さを初めて意識する。砂漠気候は太陽と共に動き、日差しはジリジリと強くなって来た。
同行した友人は、泥縄式で覚えてきたビデオカメラの操作に手間取り、あちこちいじくりまわして首をかしげながら、これでいいか?これでいいか?と聞いてくる、そんなもの、私にもさっぱり解らないよぅ・・・日本で練習したんとちゃうの?
ピラミッドの下の方に入口がぽっかりと口を開けている。ハッサンはここで待っているか
ら入って来いと言って、ニヤリと笑い、皆のカメラを預かる。
「あれっ?ガイドなしでこんな狭い暗い所へ入るの?」
「出てこられなかったらどうするのさ?」
「大丈夫、いつか出られる」・・・
冗談じゃない・・こちらは立派な「閉所恐怖症」なんだから・・高い所なら平気だけれど、狭くて暗い所は大嫌い、寒気がしてくるのに・・(幼い時にいたずらをしては押し入れに放り込まれた後遺症だ)
入った途端に道は狭く、暗くなる、目がなれないせいか余計に暗い、中腰で両側の手すりにすがってそのままの形で進む。足元は板敷きでガタガタしていて、なにしろ腰を伸ばして立つことが出来ない、これは大変だ、肩に下げた鞄が前にずり落ちて首にひっ絡まる。いくら行っても何も無い・・・もう引っ返したい、と思ったらぽっかりと空間が広がった、そこにはガランとした石の部屋があった。
そこで腰を伸ばし、また登る。もう引き返せない、後から後からいろんな国の人達が並んで入って来るから、狭い回廊でのすれ違いは出来ないようになってしまっている。まるでチューブの歯磨きのように押し出されて前へ行くしかなくなってきた。ようやく広い所に辿り着くとそこが玄室の跡らしく、花崗岩の石の桶がポツンとある。
これだけーっ?」「なーんだ、何にも無い」あーしんど・・・」下からの人の切れ目を狙って降りはじめるが混んでいてなかなか降りられない。中腰での歩行は長旅の後ではこたえる、みんな黙ってしまう、あちこちでゴツン!ゴツン!と頭を打って、「イターッ」と言う声がする、疲れてつい頭が上がってしまい思い切りぶつけてしまうのだ。やっと二股になった所へ出てきた先頭の人が怒鳴る
「どうする?又登りだけどーっ?!」
「もういいわ、下の方にしょう!」
と怒鳴りかえす。
「O K下の道にする! 」
ドタドタドタドタと明かりに向かって中腰のまま進むと、ポコンと外に出た!すかさずハッサンが「お疲れ様でした」!「何も無かったよー」「ああしんどい」
何も無いって言ってくれたらいいのにと言うと、彼は「そんなことを言ったら、誰も入らないから、僕は何も言わない」 |