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映画 アバター 

アニメーションやファンタジーにはあまり興味がなかったので、こういう映画を鑑賞する気持ちはなかったのですが、新しい3D映像ということに惹かれて、今話題の映画アバターを観ました。僅かな期間で興行成績を更新したというニュースについつい誘われたといったところです。

この新作映画は、CG画像に動きを与え、俳優が台詞をアフレコするといった従来のやりかたではなく、出演者が多くのカメラに囲まれながら全ての動きを演じて、その動きや表情をCGにしていくパーフォーマンスキャプチャーという新しい手法で作られた映画なのだそうです。

そして、その作られた映像を特殊な眼鏡をかけて鑑賞すると、スクリーンに広がりと奥行きが出て、立体的空間が出現するということでした。20年ほど前に流行ったステレオグラムを思い出しました。もう廃れてしまいましたが、当時はこれが見えるか見えないかで一喜一憂、両眼の視力差で像がうまく形になって飛び出すと、それは嬉しかったものでした。

今回の「アバター」も、このようなステレオグラムの原理を進化させて使っているのでしょうか、、現実をはるかに越えた雰囲気の映像が映し出されていました。欧米の人達が舞台としての背景画像を想像して人工的に作り出していくときは、こういう風になるのかと驚かされる映像であふれています。

豊富な色彩と奥行きのある魅力的な立体映像がふんだんに使われていて、ディズニー映画に似たファンタジックな背景なのですが、ファンタジーと言ってしまうと少し違う、毒々しさや危険が感じられる悪魔的な美しさをもった戦争映画です。

物語の舞台であるパンドーラという神秘の星は、宇宙空間にあるアルファケンタウリ系のガス惑星ポリフェマスの衛星であるという設定です。ここには人間の3倍はあろうかという大型人間風な先住民ナヴィが住んでいます。

大気には毒性があり、大地は大きな磁場をもち、超伝導物質アンオブタニュウムが蓄えられています。この物質は、一握りで20億ドルはするという希少価値があり、それを狙ってすでにある国(アメリカと思われる)が基地を作っていて、先住民の追い出しを画策しているのです。ここに両足の力を失った一人の海兵隊員が派遣されてきます。

お話は単純です。彼はナヴィと人間のDNA結合体として科学的に作りあげられた分身、すなわちアバターとなってナヴィの世界に入り込みます。先住民ナヴィを追い出す工作をするという任務でしたが、若く美しいナヴィのヒロインと恋に落ちてしまいます。そしてナヴィを滅ぼすために自分たちが仕掛けた戦いを、ナヴィを侵略から守るための戦いに変えていくというのがこの映画のストーリーです。単純な筋書きで、しかも使い古された筋運びです。

先の見えたお話に興味を失いかける観客をつなぎとめるのは、巨大な熱帯雨林風背景の幻想的魅惑的な映像です。透明感のあるブルーを基調とした色彩とあいまって、それはそれは幻想的な耽美な世界が映し出されます。まるでゲームの中のような非現実的な光景が展開していきます。

手塚マンガに出てくる「火の鳥」のような巨大な赤い始祖鳥のごとき鳥レオノプテリクス、6本の足を持つ巨大な馬ダイアホース、発光する大きな補虫植物の花々、、浮遊する木や山、それらの色彩は煌びやかで美しく、極彩色の絵本のような幻想的な画面が3Dの手法で目の前に迫ってきます、圧巻としか言いようがありません。そして終盤に繰り広げられる両者の戦闘画面は、壮絶、壮観、あり得ない映像を駆使した速い動きで、ただただ時間を忘れます。

パンドーラ星の中心にある大木「聖なる木の精」は、全ての生物とリンクして繋がっている「魂の木」であり、ナヴィ達にとってそれは命とも言うべき偉大な存在です。ここにはエイワという神が居て、この星に張り巡らしているネットワークの中心となっています。

この木の前の広場は、彼らの儀式の大切な場所になっています。この広場で大勢のナヴィ達が祈りながら腕をのばし、蜂の巣のように繋がって揺れている光景は、昔観た西部劇の中のインデアン達の祈りを思い出させました。

彼らは巨大なダイヤホースに乗って狩りをして食物を得、花の蜜や湧き出る水を飲料として生きています。木の精霊を敬い、仲間達とのつながりを大切にして暮らしています。ここへ侵攻してくる人間が使う武器は、科学的に研究された極限の完成度をもった飛行兵器ですから、太刀打ちできるはずはありません。彼らの武器は毒を塗った矢だけなのです。

しかし、地下深くに超伝導物質を抱えた磁場の上に立つ「木の精」は、彼らに大きな力を与えます。磁場を知り尽くした利を生かし、巨大鳥バンシーに乗って空中を縦横無尽に飛びまわり、次第に膨大な侵略軍の近代的な飛行兵器を落としていきます。力の限りをつくした粘り強い戦いが続きます。

やがて侵略軍はこの星の毒性を含む大気と、強力な磁場に翻弄されて、次第に追い詰められていきます。近代兵器と鳥に乗ったナヴィが放つ毒矢との戦い、、ここらあたりの戦闘場面では、あの「ベトナム戦争」を思い起こしてしまいました。

物語は、地球から来た人間達の敗北で幕となります。

全身がブルーの先住民ナヴィの目や耳は異常に大きく、体は発光していて、ウエストが極端に細く、飛行する際に乗る大きな鳥バンシーと繋がるために、おさげの長い髪をもっています、それに長い尻尾も、、、一種異様な形態であり、決して綺麗で美しいとは言い難い体形です。

その上、この星には天からも地からも襲ってくる巨大で獰猛な動物がいっぱい生息しています。これらとの危険な戦いの毎日があり、生き延びていくのは容易ではありません。

パンドーラにうごめく危険な動物や鳥、魅惑的な巨大補虫植物群は、まさにぶちまけられたパンドラの箱の中身です。パンドラの箱は、きっとこの星に飛んできて蓋が開けられたのではないだろうかと思わされました。だからこの星が「パンドーラ」と名付けられることになったのでしょう、、。

神話によれば、慌てて蓋を閉めた箱の中に希望だけが残っていたということですから、このパンドーラという星の世界で、ナヴィ達はこれからもなんとか生き延びていけるのかもしれません。

核が詰まったパンドラの箱2の蓋が、地球という星の上で開かないことを祈りたい気持ちです。箱の底にはもう希望すら残らないと思いますから、、

ともあれ、このアバターの3D映像は、6年ほど前にUSJで観た「ターミネーター」の3D映像をはるかに凌ぐ壮大な規模でした。人を幻惑する華麗な色使いで眼の底に焼き付くものでした。

映像の進歩は限りがないように思います。 2010.2.


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