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映画夜話

第109話

ホルテス作

■エアフォース・ワン (97年アメリカ作品2時間4分)


 「アメリカが我が母なる祖国をマフィアと売春婦の巣窟にした」ゲーリー・オールドマンが演ずるテロリストの怨念のこもった怒声をアメリカ大統領役のハリソン・フォードに投げつける。祖国のためなら誰でも殺す、自分の娘はわかってくれると信じている、その信念を貫くように、無抵抗の女性報道官を撃ち殺す。アメリカの権威にたてつく悪魔を、本当に憎たらしくやれるゲーリー・オールドマンはやはり怪優、すかっとするくらいはまっている。俺的アカデミーでは、助演敵役賞もので、頭のおかしい敵役をやらせたら右に出るものはいないな、最後、パラシュートで首くくられて空をさまよう絵は間抜けだったが。
 以上でだいたいのストーリーがわかってもらえたかと思うが、まとめてみると、テロリストが大統領専用機「エアフォース・ワン」を乗っ取って、ロシアに逮捕されたテロの親玉である大統領(これはチェチェンの大統領?)の釈放を要求するのである。でもこの映画、ブルース・ウィリスもスティーブン・セガールも乗っていない、ではどうしたか、ハリソン・フォード大統領がテロリストと対決するのだ、これくらいでまあいいでしょう。まとめ終わり、足りない場合には本編をご覧ください。
 この大統領、一応ベトナム帰りということで、動揺するホワイトハウスの閣僚たちを「彼は私の部下だったから大丈夫」となだめる武官さえいる。そうだ、ハリソンは「地獄の黙示録」の黙示録で情報将校の大佐をやっていたから、荒仕事にはなれていても不思議ではないのだ。しかし兵隊から大統領か、思い出す限りでは、レーガンは役者だから戦争に行っていない、その後の父ブッシュは日本と戦った駆逐艦とかに乗っていた海軍だった、そしてその次のクリントンはベトナムに行っていてもおかしくない世代だが、徴兵を回避したらしい。子ブッシュも戦争には行っていないはず、アメリカ人はベトナムに行った大統領が本当は欲しいのかも、という見方もできると思うが、マケインはダメだったな。
 テロには屈しない、とがんばる大統領もついにゲーリーの手に落ちて娘を殺すと脅されると、やっぱり屈してしまうのであった。このあたりは家族への愛を表現しようとした場面なので、見ている側も「仕方がないよな」と思わせるようにしているのは、やっぱりアメリカ映画?なの?それでも悪がkつわけではない。
 この後の大逆転へのまとめ方が少々強引なご都合主義で胸焼けするようなものであった。もっともそう思うのはアメリカ人ではないからで、アメリカ人は大喜びなのかもしれない。とにかく自分の身を盾にしてでも大統領を守る者ばかりなのだ、テロリストの弾丸を浴びたりするのは序の口で、身どころか自分の機にミサイルをあててエアホース・ワンを守ったりする。終いには大統領自らが操縦桿をもってジャンボジェットを動かしたりするんだから。わかりやすいのにもほどがあるぜ、トミーとマツじゃねえだろう、こら、という勢いだ。
 聞こえる聞こえる、ゆーえすえい、ゆーえすえいの大合唱が、ゆーえすえい映画大賞だな、きっと。
 だからっていうか、でもね、というか、冒頭のゲーリーの言葉は本当の言葉であると思うんだ。おそらくゲーリーたちは旧ソ連時代に西側の情報機関が用意したキャンプで訓練を受けているはずである。そのようなことは劇中では語られていないが、設定上では旧ソ連領内のイスラム過激派であるはずだから、そうなのである。
 冷戦時代、国内治安の撹乱をねらい、アメリカが中心となってアフガンをはじめとして、ソ連領内のイスラム地域に武装勢力を送り込んでいたのである。そして冷戦が終われば、今度は敵だった政府とアメリカは手を組み、新秩序の掛け声の下、イスラムの力を削ごうとしたのだ。そればかりか、市場経済の導入は国内に混乱を誘発し、経済的不安定は強者と弱者をつくりだし、マフィアが仕切る闇社会が堂々と表舞台にでてきて幅をきかせるようになった。ロシアの通貨危機と中央アジアの石油の利権、そこで暗躍しているアメリカの金、確かにそうなのだ、アメリカにくいものにされたのだ、それは事実だと思う。それについて劇中にはなんら言及がなかった。テロリストの言葉だからといって無視されるのかもしれない。でもそれでいいのだ、ゆーえすえい映画はそうでなくっちゃ、テロリストがテロリストに同情はしないんだから。
 9月11日の後、この映画を思い出した。だけどメディアにはとりあげられないのはなぜだろう、こんな、すげー、ゆーえすえい映画、今がぴったりだろうと思うのだが、ブッシュとハリソンではあまりにアンバランスだからか、それともこのゲーリーの言うことがやっぱり正しいからなのか。


AIR FORCE ONE ■監督: ウォルフガング・ペーターゼン ■脚本: アンドリュー・W・マーロー ■製作: ウォルフガング・ペーターゼン ゲイル・カッツ アームヤン・バーンステイン ジョン・シースタック ■撮影: ミヒャエル・バルハウス ■出演: ハリソン・フォード ゲイリー・オールドマン グレン・クローズ ウェンディ・クルーソン リーゼル・マシューズ ポール・ギルフォイル サンダー・バークレー ウィリアム・H・メイシー ディーン・ストックウェル トム・エバレット ユルゲン・プロホノフ