懐かしのわが家

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昭和十年十二月十日に
ぼくは不完全な死体として生まれ
何十年かかって
完全な死体となるのである
そのときが来たら
ぼくは思いあたるだろう
青森県浦町字橋本の
小さな陽のいい家の庭で
外に向かって育ちすぎた桜の木が
内部から成長をはじめるときが来たことを

子供の頃、ぼくは
汽車の口真似が上手かった
ぼくは
世界の涯てが
自分自身の夢のなかにしかないことを
知っていたのだ

 

〇×よい詩かどうか??

1986年5月4日に発表された「寺山修司全詩歌句」の口絵より。なおこの本は存命中に寺山が自ら企画したものである。

 

ぼくは不完全な死体として生まれ
何十年かかって
完全な死体となるのである

そのときには

できるだけ新しい靴下をはいていることにしよう
零を発見した
古代インドのことでも思いうかべて

「完全な」ものなど存在しないのさ

 

〇×↑こっちの方が私は好きだ。