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白い夏 (第一話) 毬茂祐作
1 或るアパート(夜)
物陰からアパートのニ階の或る部屋の灯をみつめているニ人の男。
張り込み中の刑事、牧田弘と柴田聖一である。一点をみつめて動かない中年の牧田と、落ち着きなくしきりに額の汗を拭ったりしている青年の聖一。好対照である
聖一「(ウンザリと)田川のヤツ、本当に来るんでしょうネ」
牧田「来るさ、ヤツの立ち寄りそうな所はもうここしかないんだ。あの女の家しかな」
聖一「だったら愚図愚図してないで一刻も早く来て欲しいな。(群がる蚊を追い払い)ボク、このヤマ片付いたら非番なんですよネ、ここんとこ忙しくて非番どこじゃなかったでしょう」
牧田「非番たって、どうせ家でゴロコロしてるだけじゃないのか」
聖一「そんなことないスヨ」
牧田「デートか?」
牧田、瞳は油断なく動き、聖一との会話も実は等閑である
聖一「え、えぇ、まあ……」
聖一、場所柄もわきまえす、ニタリと笑ったりする
牧田「初耳だな、お前にそんな相手が…、聖一喜べ、田川だ」
聖 一 、緊張
噂の主、田川が夜道をキョトキョトと辺りを窺うような足取りでやって来る
聖一「一気に片をつけちゃいましょう」
牧田「アァ」
田川、二人の傍までやって来た
聖一「(バッと道にとび出し)田川!」
田川、仰天
牧田「田川嘉夫、殺害容疑で逮捕する」
田川、ダッと逃走
追う聖一、アッと云う間に追いつき、腰にタックル
ドゥと倒れるニ人
聖一、そのまま田川を組み伏せる
牧田「ようし」
聖一、手錠を取り出し、打つ
聖一「ヤッタネ」
2 図書館・表
街の外れに有る、小さくひっそりとした図書館
その狭い前庭を、ラフな恰好をした聖一が弾むような足取りで通り、中へと入っていく
3 同・中
聖一、鼻唄など歌いながら小さな階段を昇り、二階の閲覧室へ向かう。扉の潮で立ちどまり、手で髪をなでつけるなどしてスタイルを気にする。そして扉を押すと中へ
4 同・閲覧室
入る聖一
閲覧室も小さくまとまっている。
フロアの半分は来館者用のテーブルと椅子で占められている。そして、その席はほぼ満席
聖一、吃驚。奥のカウンターを慌てて見るが、誰もいない。セカセカと書架へ向かう
書架で本を物色しているようなフリの聖一、その目はあらぬ方をさまよっている。聖一の瞳、やっと”目的の人”をみつけて輝く
聖一の視線の先には一人の女性。
この図書館の司書、宮本泰美。書架の奥で図書の整理をしている、前かけをした清楚な感じの若く美しい女性である
聖一、トコトコと足早に近付く
聖一「(遠慮気に)コンニチハ」
泰美「(気づき)アラ、コンニチハ」
泰美、ニコリと微笑む
聖一、だらしなく笑む
泰美「確か柴田さん、お久し振り、ですわよね」
聖一「え、えぇ、覚えていてくれましたか、嬉しいなァ」
泰美「そりゃあまあ(クスッと笑い)図書館で十時間近く眠っていられる方なんて、そうはいませんもの」
聖一「エ、イヤ参るなァ、あんときは前の日の仕事か忙しくて、ついさ。それに図書館のイスって凄く寝心地が良くって」
泰美、クスクスと笑い続けている
聖一「……。ね、ねぇ、それよりもさ司書さん、今日の図書館、凄い盛況じゃないの、どうしたの」
泰美「今日から学校、夏休みだから」
聖一「夏休み。そうかぁ、もう七月も終わりだものな。そういやここんとこ忙しくって季節感なくしてたもんな。そうか、いいなぁ、夏休みかぁ、青春だなぁ」
泰美「…そうかしら」
聖一「エッ?」
泰美「ここに集まってる子はみんな受験生よ、この夏は一大勝負だって」
聖一「受験生ねぇ(実感がない)」
聖一、チョット首をのばしてテーブルを窺い見る
しっかりとテーブルにかじりついている感じで勉強している若者たち
聖一「(苦笑い)これじゃ、この間みたいにゆっくりしてられないなぁ」
泰美「そう、居眠りなんかされちゃ困るわね」
泰美、努めて明るく云い、去る
聖一「ア……(もう一度声をかけようとしたが、声がでなかった)」
聖一、尻ポケットから紙片を取り出し
聖一「渡せんかったか……」
紙片はロードショーの鑑賞券
聖一、フッと溜息をつくと鑑賞券をしまい、手近の本を片手にテーブルへ、
聖一、席を目で捜す。と、その耳にサラサラと流れるような鉛筆の音が届く。若者たちはみな猛勉中である
聖一 、肩をすくめる
テーブル、陽当たりの良い窓際の隅の席が都合良くあいていた。聖一、そこの席へと。その際に横の席に座っていた若者(小沢護)の背を肘で突いてしまう。ギロッと凄い目でにらむ護
聖一「(気づかず、軽く)ワルイ」
聖一、ガタガタと椅子を鳴らして席に着く
今度はテーブルの一同が一斉に顔を上げる。その瞳は場違いな聖一に対する憎悪に染まっている
しかし聖一、一向に気づかす、面白くもなさそうに本をペラペラとめくる。そして、この席からカウンターで仕事をする泰美の姿が垣間見えることか判るや否や、本などそっちのけで、聖一の目は泰美の姿を追っている
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