ヘリコバクター・ピロリ〔helicobacter pylori〕

ラセン型をしたグラム陰性桿菌で、胃粘膜障害と密接な関連があり、
消化性潰瘍の80-90%はこの菌が関連しているといわれている。
1990年にシドニーで開かれた世界消化器病会議で発表されたもので、
この菌が幼少時に感染すると、急性胃炎、萎縮性胃炎などを経て分化型胃がんが
発生しやすくなり、成人以降に感染した場合には、
胃粘膜は萎縮せず、十二指腸潰瘍を起こしやすくなるという。
したがって、有効な薬剤によって、若年のうちにこの菌を駆除できれば、萎縮性胃炎、
ひいては胃がんの発生頻度も大幅に減少できると見られている。
アメリカNIH(国立衛生研究所)も1994年2月、公式に胃がんのヘリコバクター原因説を認め、
細菌の関連している潰瘍は抗生物質を中心に治療すべきだという勧告をだした。
わが国では、消化性潰瘍はストレス原因説が学界主流を占めてわり、対応が遅れたが、
95(平成7)年ごろからやっと広く認められるようになり、98年6月には内科医、
感染症・疫学などの研究者を集めた「日本ヘリコバクター学会」が発足した。
なお、イタリアの研究グループの調査研究によると、ピロリ菌の感染はさらに、
狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患との関連も大きいことがわかった。
この種の心疾患の患者88人の62%がピロリ菌に感染しているのに対し、
体重指数(BMI)と社会的経済レベルが等しい対照群88人の場合は40%にすぎなかった。
ただし、CagAという病源性の強い遺伝子を含むピロリ歯に感染している場合に、
この傾向が強い。
ピロリ菌と心疾患の関連は、この菌の病原性の強さと大きく関係しているとみられている。


(出典:現代用語の基礎知識1999)
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