2001.2.21

アメリカ赤十字が申し出た
えひめ丸被害者家族の心のケア援助を
領事館が拒絶したという記事を読んで

 2月21日の朝日新聞の伝えるところでは、えひめ丸の原潜衝突事故でハワイ滞在中の被害者家族に対して、現地の米国赤十字が日本総領事館に対して行っている被害者の心のケアのためのカウンセラー派遣の申し出を総領事館は断り続けているという。記事では、現地総領事館は、「日本ではこのような事故に際して第三者による支援の前例がないから」とか、「医師が付き添っているから」といったことを断る理由にあげ、また、被害者の家族に赤十字からの申し出があることすら取り次いでいないという。
 何という愚かな総領事館であろうかというのが私の一番の感想である。20年前、ハワイ大学でソーシャルワークを学んでいたとき、災害や事故に際する緊急援助のひとつに心のケアがあることは、当時ですら常識であった。一般の行政職員たちにも、事故や災害被害者の心のケアの重要性は広く受け入れられていた。
 在外公館の職員たちの大切な仕事の一つは、その国の社会制度やしくみを調査し、知識を深めておくことではないのか。それなのに、現地社会の当たり前の社会的機能の存在すら知らないのだ。
 被害者たちの中には、アメリカのこのような優れた制度について知っている人は少ないかもしれない。赤十字などの第三者機関による心のケアについて、後込みする気持ちもあるかもしれない。そのような不安に対して、在外公館は、十分な説明を行うことで被害者の家族が心のケアの援助を受けることができるよう勤めるべきだろう。ところが、現実は、まったく逆に、取り次ぎすらしていないのだ。面倒くさいことは、報せるべからずということか。
 領事館のいう「日本での前例がない」というのも認識不足だ。阪神淡路大震災後の心のケア活動の実績を知らないとはいわせない。また、医師がいるから不要だというのも無理解の極地だ。カウンセラーの仕事は医師では替えられないという常識すらないのか。外交官といって肩をそびやかしてはいても、肝心の時に、専門家らしい対応がまったくとれない。これでは、実態は、そこら辺にいる庶民の知識レベルと変わらないではないか。いや、心のケアの必要性は日本でも震災以来、一般常識の一部となってきているから、在外公館の認識は日本の一般庶民のレベル以下であろう。
 20年前、当時の在外公館の日本人職員たちの多くは、ごく少数の例外を除いて、現地社会の優れたしくみから何も学ぼうとせず、日本の本庁を向いて任期の残りを指折り数え、今から思うと機密費かと思われるような不思議なお金を使って日本人相手の内輪のパーティーばかり盛大にやっていた。今回の事故を聞いて、あの領事館で大丈夫なのかと心配していたら、案の定の事態となった。
 不甲斐ない総領事館が被害者の家族の心労を倍加させているとしたら、腹立たしい限りである。