防衛庁長官の背後の影が意味するもの

2004年1月11日

1月11日付けの朝日新聞は、一面トップで石破茂防衛庁長官がイラクに向けて先遣隊の派遣を決めたことを伝えた。興味深かったのは、その記事に記者発表する防衛庁長官の写真が添えられていたことだ。その写真のトリミングはちょっと変わっている。写真をみれば分かるが、長官の位置は、写真の中央から左側に大きくずれ、右に大きく空白が写し込まれているからだ。この空白の意味は何だろうか。おそらくカメラマンは、長官の後ろの幕に映った長官の人影をフレームの中に残したのに違いない。

長官の人影は不気味だ。もちろん、彼自身の人相もなかなか不気味であるが、その人影もかなり不気味だ。写真は、彼の決定の背後にあって彼を操る正体不明の存在、あるいは、彼の決定がもたらそうとしている厄災をみごとに暗示している。

そこで、この写真の影の意味に、つぎのような3つの解釈を与えてみた。

一つは、防衛庁長官の影に、ブッシュ大統領がいるという解釈。これはかなり風刺漫画風のコラージュということになろうか。

もうひとつは、影の中に死神のシンボルであるドクロをあしらったもの。この方が、もう少し普遍的な風刺を表現するものかもしれない。

さて、最後のイメージは、古い世代にはよく理解できるだろう。今回の石破長官の決定に戦前の軍国主義の亡霊をみるという設定である。この顔を知らない若い世代は、歴史の不勉強を真剣に反省した方がよい。この顔に見覚えがない若い世代がいるというところに、今回の自衛隊イラク派遣を許してしまった原因の一端があると考えればよいのかもしれない。

いずれにせよ、影に語らせるというこの写真のテクニックは、報道写真の枠を超えた表現の世界に踏み込んだ昨今の新聞写真にないすぐれた表現だったと思う。