3月18日

ブッシュが世界中をイスラエルに変える




 今回のアメリカの対イラク戦争開始に対するブッシュ大統領の演説を聞いて、9.11以降の彼の政権のとった選択の結論が示されたと感じる。それは、自国に向けられたテロに対しては、場所を選ばず世界のどこででも予防戦争を行うという意志を明確に示したと言うことだ。自国へのテロに対する報復として他国に戦争を仕掛ける。予防を叫んで、他国に先制攻撃を加える。

 このようなやり方を一貫して続けてきたのは、イスラエルだったが、そのやり方をアメリカがより広範に世界中に押し広げたということなのだろう。

 対イラク戦争は、きっと短時間にアメリカの勝利で終わるかも知れない。しかし、それは、ちょうどイスラエルがパレスチナのガザで、パレスチナ人による自爆テロに対する報復と予防と称して、無関係なアラブ系住民の家や工場を戦車やブルドーザで破壊しているのと変わらない。

 しかし、戦車やブルドーザでたとえ住宅や工場を破壊できたところで、パレスチナ人の自爆テロがなくならないように、圧倒的な力の差によってアメリカがイラクに勝利したところで、アメリカを標的にした国際テロはなくならないだろう。いくら情報を収集し、目前のテロ組織を虱潰しに壊滅することができても、アメリカがこれまでに築いてきた世界支配システムの矛盾によって生み出されるテロリストになる可能性をもつ潜在的人口が、アメリカの戦争によって掻きたてられた憎悪や敵意、絶望感を養分として、はっきりとテロリストとして変貌していくことは止めることができないに違いない。

 ブッシュが選んだ道は、イスラエルのシャロンが選んだ道である。

 厄介なことは、この血塗られた道は一度選んでしまうと、そこから脱出することが極めて困難なことだ。テロの恐怖のために、その被害を受ける恐れのある人々は、さらなる報復と攻撃の強化を黙認してしまう。たとえ、そうすることがさらなるテロを生むと理性で分かっていても、恐怖と不安が、報復と攻撃に承認を与えてしまう。

 シャロンは、それをよく知っている。だから、あえてエルサレムを護衛付きで訪問し、イスラム教徒を刺激し、テロリストを挑発し、テロを起こさせた。そして、その結果、和平プロセスは崩壊し、彼の党はイスラエル国民の恐怖と不安を糧として政権に返り咲いた。

 シャロンは、よく知っている。彼の政策を続けることによっては、絶対に平和と安らかな市民生活は実現されないと言うことを。しかし、同時に、彼の政権は、そのような恐怖と不安なくしては維持できないことも。イスラエルの占領地からの撤退を求める国連決議は、無視され続けているが、シャロンには、そんなことには何の関心もない。

 テロと報復戦争という悪夢のサイクルを永久に続けることが彼の政治的生命にとって最も好ましい状態なのだろう。パレスチナでは、イスラエルの占領とテロ防止という名目で、市民の財産や人権、生命が簡単に蹂躙されている。

 ブッシュもシャロンのやり方に従おうというのだろう。

 得票数でゴアに負け、少数派支配というコンプレックスを負って誕生したブッシュ政権は、テロに対する国民の不安と恐怖をこれからも維持しなければ、政権を保つことができないと考えているのだろう。国際的な孤立や経済の沈滞が失点になるのは、平時の感覚である。非常事態を維持し続ければ、人々は、とりあえず政権のもとに団結せざるを得ないだろうから。

 そして、ブッシュ政権は、テロに対する恐怖と不安を世界中に拡散しながら、世界中の人々に忠誠を強要して行くに違いない。彼は、自国における政権の維持のために、世界をイスラエルに変えようとしているのだ。