尾張食物考 其の二

尾張食物考 其の二



 味噌の次にはタマリを挙げなければならないだろう。多くの方が知っておられると思うが、これは美濃・尾張特産の濃厚で甘い醤油のことで、甘いといっても砂糖の甘さではむろんなく、造る過程で得られる麹それ自体のうまみを特徴とする。このうまみないし甘さは、名古屋人のこころの深層にあまねく行き渡っているといっても過言ではなく、現に土地っ子である私の縁者の連れ合いなどは幼時から「冷汗が出るほど甘辛い」煮物が大好きだそうで、その感覚は胡桃を磨り込んだゴヘイモチのタレや味噌カツの味噌などに共通するものがある。あるいは名古屋から広まった手羽先の甘辛さにも通じると思う。いずれもタマリの甘みを砂糖によって屋上屋を架す類で、それの極致が鰻のタレだと今でも信じている。瀬戸の背戸神社に向かう陸橋の下になんという店か、屋台に毛の生えたような鰻屋があって、一杯八百円くらいの鰻丼を待つ間、錫の器で出される昼の燗酒をちびちびやりながら齧る鰻のカブト焼きの甘辛さは、思えば遠くへ来たもんだの感慨を誘ったものだ。 みのをはりからくも避けて酌む酒は土用鰻のしたゝるきまで   解酲子




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