便所参道

便所参道
片野晃司


肩幅で切り揃えられたタイルの参道を上ると
毛深いシャツの仕立て屋は一心に便器に向かっていた
僕は詩人ではないから自分以外は信じない
入れ違いにファスナーをあけて尿石のこびりついた便器に水音を立てる
剥き出しの水管は圧力に耐える姿だが
僕はあのシャツの仕立て屋のようには耐えられない
傍から見れば真剣な祈りに見えなくもないだろう
その実 だらしない垂れ流しなのだ
ストレスの開放 仕立て屋の鉄鋏が背後に迫るのを
想像しながら膀胱を2度 引き締める
前掛けで手を拭きながら参道を下りていく仕立て屋の薄くなった頭頂部

ちょうど僕の靴と同じ高さに等しくなったとき
僕は空っぽになり 仕立て屋は出て行くのだった

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