Quinton Hoover

〜なにを隠そう「あの」カードのイラストは私が描いたんだ〜

 Quinton Hoover。ああ、アンリミテッド版からTempestまで現役でマジックの絵師を努めている人間なんてそう何人もおりませんが彼などはその最右翼に位置しますね(最左翼は勿論あのFoglio夫妻ですが別に右翼左翼に他意はないんです<為念)。流麗なその曲線美は、Portal版「大天使/Archangel」でついに彼のカードをシングル市場超高値ランクに押し上げるほどの美しさとなって結実しております(Mirage版を描いたChristpher Rushの立場は一体・・・)。そんな彼のインタビュー記事、きっとDrew Tuckerばりに気難しいこと言ってるんだろうなぁという妙な先入観を持って翻訳開始いたしましたらこんな発言にぶつかりました。いやあ、わたくしとおんなじ偏見にとらわれている人、海の向こうにもいるんですねぇ。というわけでインタビュー記事です。今回は直球ぎみに訳してみました。

 フリーランスのアーティストであるQuinton Hooverはコロラド州フルイタに1964年産まれた。今は東オレゴンに居を構え、そこを創作の拠点にしている。妻と4人の子、ちょっと間抜けな犬、そして小生意気な猫といっしょだ。中退してしまったので学位は持っていない。秋時間には釣りをしたり、家族と近所の森を散策したりする。何事にもあまり力んでかからないのがポリシーだ。

Quintonは、「擦り切れてしまったか追跡できないくらいの大昔」にごく小さい出版関係の仕事を手がけたことがあるようだ。また、Cat's PawやSky Comics、Jabberwocky Graphics、Palliard Pressなどの多くのコミック系出版社で働いていた。主なタイトルには「Morgana X」「Twilight Agency:VAMPIRE'S CURSE」などがある。アドヴェンチャーゲーム業界において、彼の名はWhite Wolf社やWizards of the Coast社などで見ることができる。彼はこれまで(94年現在)リリースされたMagicの全てのエキスパンションでイラストを描いており、運の続く限りそうするつもりでいる(相良注:そして97年11月現在、その運とやら(<実力でしょうに)は尽きていないようだ)。

ここに来る途中で、Jesperと私(インタビューアー)はあなたがWizards of the Coast社で働くようになった経緯について話していたのですが、なにもかもを聞いたわけではないんです。

うむ、私は実際、とてもいいタイミングにちょうどいい作品を携えて、うってつけの場所に居合わせたというわけだ。Jesperの名前がアートディレクターの席上にあって、その時名前の上がっているのは彼一人だった。Kev Brocksmidtと私はその時、たまたま彼がしゃべるのを聴いていたんだ。JesperはWotC社が絵師を募集していると言った。私は、色合いについてアドヴァイスを受けようと思って持ってきた彩色済みの作品をトランクに入れていた。それで私はそれを提出し、それは持ち去られた。その作品にはあまり思い入れが無かったものだから、次の週の月曜にJesperが仕事の依頼を持ってきたときは驚いたね。その年には彩色について、Magicの仕事を通じてじっくり学んだね。それ以前には何も勉強してなかったから。

ご謙遜でしょう。そうは見えませんよ。

しなければならない事柄をきちんとこなすことが問題だった。今の私にとっては、当時に引き返して仕上げ直したいような物がかなりあるよ。

あなたのMagicのイラストにはなにかこう、ものすごく際だった特質が感じられます。ラインが強調されていてもなお、現実に存在しているものより神秘的な物事に強く現れる別種の鋭さを感じるのです。

Jesperはあなたの絵を「アール・ヌーヴォー的」と形容しましたが。

影響を受けたものはたくさんあるんだ。コミックもそうだし、別のものからも。Wrightsonからもそうだし、特に昔の作品なんかは、Franzettaやミュシャ、Michael Kalutaあたりの影響を大いに受けてる。コミックからも、Neal AdamsやDon Newton、John Buscema、Barry Windsor-Smithあたりに影響されたね。

Magicによって、自分の作品がなにか変化したことはありますか?

仕事それ自体はそれほど変化してはいないけれど、自信がついたね。安心株を追うよりは実験をしたい質なんだ。スタイルの面で若干の変化があるような感じはあるけど、自分の目の届くよりずっとたくさんの努力をする必要がある、とは思っているんだ。Legendsエキスパンションで手がけたカードの手法は、その後のThe Darkや"Jyhad"でやったのとはもう違ってるからね。

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Magicの絵を描くときにはいつも基本的なやりかたを使うね。インクに水彩に色鉛筆。Barry Windsor-Smithなんかが水彩だけで仕事をするのを見ているともうちょっと何かした方がいいのかなと思うけど、重ね塗りをしてそれが乾くのを待つのが耐えられそうにないし、その技法も身につけていないしね。色鉛筆で十分いい効果は出せるしね。

一枚描くのにだいたいどれくらいかかりますか?

10から12時間くらいかな、ただしこれは1枚づつ違ってくるけど。平均するとそれくらいになるかな。あるものはものすごく速く仕上がるし、描き直しに時間がかかるものもある。Doppelgangerなんかはね・・・みんなあの絵を気に入ってくれるけど、私はね。あの絵についてはいろいろ手直しをしたいところがあるんだ。線をなぞり直して引き直して、エアブラシなんてのも試してみた。まだまだ覚えなければならないことが多いんだ、私には。

そのDoppelgangerについてお伺いしたいんです。非常によく知られていて、みんなあの絵を気に入ってます。そのことをご自分でどう思われますか?Magicで描いた絵の中で、もっとご自分の中で評価が高いものはなにかありますか?

それなりに良く描けたものについてはどれも気に入ってるけど、例外もあるね。Darkpactなんかは、あれは人物のプロポーションに問題があってね。アルファ版から見ていって気に入ってるものといえば、Nettling ImpかRegenerationだね。この2枚なんかはDoppelgangerよりずっとよく描けていると思うんだけど、私のところへサインをしてもらいに来るみんなが一番多く持ってくるのがDoppelgangerだし、オリジナルを売って欲しいという申し出が未だに来るからね。

ファンタジー関連のモードの流行については注目しておられますか?

できる限りそうするようにしてる。でもこの辺り(東オレゴン)でファンタジー絵師であるっていうことは結構つらいね。近所のアーティストはウェスタン調だったり野性動物をモチーフにしたり、伝統芸能を専門にする人だったりすることが多いからね。あまりファンタジーは注目されないし、目に触れる機会も多くないんだ。

あなた自身の視点から見て、ここ10年のファンタジー・アートはどう変化したと思われますか?

本のカヴァーアートなんか見ても良く分ることだけれど、一つ思い当たることといえば「アート」が芸術的側面をどんどん喪失して単なる「イラストレーション」になってしまっている、ということだね。全く面白くないことだよ。写真みたいにリアルなファンタジー世界のイラストなんて、私は好きじゃないんだ。写真や、予めあるポーズをとったモデルを使う絵師は多いけど、彼らはその素材の雰囲気まで持ってきてしまっている。生命感が感じられないんだ。この件について考えるとBorisのことを思い出すな、彼はそうした手法を取っていた主犯格だからね。あとHildebrandtsともだな。そうそう、Hildebrandts、彼もそうなんだ。彼らの作品にはどこかこう、純粋に創造的な何かが感じられたものだったのに。うん、Borisは驚くべきアーティストだ。彼の作品はすばらしい。でももし彼の作品のどこかが気に入らないのはなんでかというと、それは彼の作品が私の言う方向に向かってしまっているということなんだね。整っているが、魂が感じられない、という。そこらにあるイラストは技術的にはかんぺきだ。でもなんの雰囲気も持ち合わせていない。妙な話しだと思わないか。Norman Rockwellの作品に文句を付ける連中は大勢いるけど、私に言わせれば今時の「ファンタジー」を標榜してるイラストよりずっと、彼の作品の方が雰囲気とキャラクター性と、そして純粋なファンタジーを感じさせてくれるね。

例えば、だ。私は仕事をするときに予備調査というのをあまりしない。正確さを要求されるときでさえ、ね。写真のファイルも使わない。ほかのを探すようにしてるんだ。The DarkのBall LightningとLand Leechesを描くときに調べものをしてたら、いいお手本がコミックにあったよ。でもね、コミックはいろんなものの手軽な手本になるけれど、そのイメージはいつまでもこびりついて離れないからね。

あなた自身の霊感を刺激するような他のアーティストや作家は誰かいますか?

スティーヴン・キングが好きでね。彼は一貫してストーリーテラーだし、ブルーカラー層に訴えかけるような要素を持ってるから。彼の小説は面白かった。今まで読んだ本で一番、っていうと「蝿の王」かな。全体を包むイメージに圧倒されたね。グラフィックノベル版を作ってみたいんだけど、それが作品にとっていいことかどうか分らない。現実味を帯びた話しなのに、読んでいるときには具体的な絵が浮かんでこない。人生なんかよりずっと巨大ななにかに被い尽くされてしまうんだ。

昔はよく本を読んだけど、ここ数年はその余裕が無くてね。この1年くらいの間に新聞や雑誌や、暇潰しの小説なんかでないものは読んでないような気がする。SFの類はあまり読まなかったけど、ファンタジーはずいぶん読んだものなんだけど。コミックもたくさん読んだ。でもまぁ、コミックはもうちょっとダメだね。

どういう意味ですか?

スーパーヒーローってのが生理的にダメでね。最近のコミック業界では引っ張りだこみたいだけど。コミック売り場では、DCやマーベルやImageなんかの本ばかりだけど、だいたいスーパーヒーローものだからね。ファンタジー系のタイトルはあまり見ないし、SFもないね。昔はホラー物が好きだったんだ。Swamp ThingやHouse of Secretsなんかにはまったなぁ。Berni Wrightsonっていうのが、絵を識別できるようになった最初のアーティストだね。親戚に会いにコロラドに戻る途中で、母が"Initial Swamp Thing"っていう彼の最後の10番目になる作品を買ってくれた。まだ実家のどこかの箱に入ってるはずだ。最高の一冊で、私の一番のお気に入りだったからね。その後で、私は他のミステリー系の作品やいろいろな分野で彼が活躍しているのを知ることになるんだが。とにかく、私はスーパーヒーローに何の思い入れも持ったことは無いんだ。市場はそうではないみたいだけれどね。

では、子供の頃に詠み手としてコミックに触れたということですね。

そう。職業的視点でそれを見るようになるのは高校に入るまでなかったな。いつも描いてはいたんだが、方向性なんか決まっていなかった。コナンものをのコミックを読んでいる内に、友人ともどもファンタジー系の本にどっぷり浸かっていった。そういった本を読む内にファンタジーの方へ足が向かったようなものだ。トールキンのやら、「シャナラの剣」シリーズ、Thomas Covenant Booksなんかよく読んだなぁ。「コナン」や「火星の大将軍カーター」、いくばくかのターザン物とか、ファンタジー系はたくさん読んだ。でもその流行もすぐにすたれてしまってね。私がコミックから原典に戻って読んだというのはジョン・カーター物が最後じゃないかな。

私はバットマンの猛烈なファンだった。ファンクラブにも入っていたんだ。最初の映画がリリースされたときには、DCにぶっ潰されたような気分になったね。それで興味を無くしてしまったんだ。本は楽しめたんだが、制作者に対するインタビュー記事を読んでそれも台なしになってしまった。彼らは尊大で傲慢で、全く耐えきれなかったね。おかしなものだと思うよ。インタビューっていうのは、対象になる人物のいちばんいい顔を見せてくれるわけではないんだね。

あなたを尊大に見せることもできますよ。ええ、その気になれば悪意を持っていろんなことができてしまいますからね。

おかしなものだよね。みなが私について抱いてる一番典型的なイメージというのが、なんかこう「ものすごくビジネスライクでお固い」というものなんだそうだけど。みんな私が仕事についてはがちがちの職業倫理に基づいてぴっちりやっていて、雰囲気なんかもぴりぴりしてるんだと思い込んでいるらしいね、よく知らないけど。だからみんな生身の私に対面するとひどく驚くんだ。

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私は仕事に打ち込むように心がけてはいる。でもね、そうすべきな程には勤勉ではないし、どちらかというと怠け者に近い。家に4人の子がいると、彼ら中心に1日の計画を立てなければならなくなるものさ。外の人と連絡を取り合うことにもかなり熱心だしね。筆まめな方だし、考えをまとめる暇があったらつじつまの合ううちにそれをまとめてみたりね。ごっちゃごちゃだろう?そう、もうごちゃごちゃだね。オトナの人と交渉したりする能力がすっかり衰えてしまった。家で子供たちと一緒にいて、主夫を10年もしていれば誰でもそうなるさ。社会から隔絶されているしね。私たちのコミューンはごくささやかな範囲にとどまっているのさ。

ご家族はあなたの仕事についてどう思っているんですか?

気に入ってくれている。子供たちは私の描く絵をきれいだと言ってくれる。あの子達はまぁ、私が絵を金にしてるということがよく分ってないんじゃないかな。絵を描く主な理由、まぁ「仕事だから」ってことだけど、それは理解されていないね。誰も、まだ芸術的素質を見せてはいないけれどね。Patrickは朴訥なタイプだね。Justinは悪巧みの常習犯だ。Aaronはちょうど、他の子のすることはなんでもやってみたくなる年ごろなんでいろんなことをしてるね。Alyssaはね、思春期直前にありがちな状態に突入してるんだな、大きなため息なんかついてる。妻はといえば、ファンタジーっていうのは私の仕事の延長線上にあるなんかなんだろう位にしか思ってない。彼女、Franは私よりずっとマジメなんだが、そのことで私たちの間にはちょどいい平衡関係ができているんだ。お互いの世界には立ち入らないようにしてるしね。彼女は私を境界線のこちら側に隔離してるんだな。うん

えーと、Magicのイラスト以外の仕事について教えてください。

何冊かコミックの仕事をしてる。Morgana Xなんだけど、だれ用の仕事だったか私たちは知らないんだ。「私たち」っていうのはAlan Freemanと私のことなんだが。Alanがキャラクターを創って、私が彼の書くスクリプトに基づいて下絵をかいた。私は鉛筆担当、彼はインクを入れてカバー用には色も塗った。ほかにはTwilight Agencyで何冊か仕事をしたな。Lia Grafと一緒にVampire's Curseというのを作った。どちらももう出版社が残っていないんじゃないかな。でも面白い経験だった。だれかが読んでくれたのだとしたら上出来だ。ほかには、Wizards of the Coast社でMagic以外の画を何点か、それとWhite Wolf用にいくつか。そんなところだな。

コミックでの仕事は、ファンタジーアートの仕事に比べてどんな点が違いますか?

簡単に言ってしまえばジャンルが違うね。私がやったコミックの仕事の中にはSFもあるんだ。そう、スペオペに科学冒険活劇系なんだけど。あとはダークファンタジーホラーものだね。あと、どちらも遠隔地で共同作業をしたということかな。結構難しいんだ、ちょうど電子メール越しに仕事をしてるような感じだったね。Allenはケンタッキー州に、Liaはカリフォルニア、私は彼らと顔を合わせたことも無いんだ。面白い経験だったね。おまけに奇妙だし。共同作業をするときの難しい点は、前工程をやった人のスタイルを生かしつつ自分の色もそこにうまく絡めてやる必要があることかな。うまくいかないこともある。時には強く出ることも必要だしね。Liaは映像的なスタイルを取るんで、私はデッサンを雑にやらないように、整えて彼女に引き継いであげるように努めた。Allenはその逆で、陰影を付けることに関してはすごく上手かった。両極端のやりかただったな。

仕事の中心はコミックなんでしょうか。

かつてはそうだったね。ファンタジー系のイラストから出発して、コミックの仕事はとても楽しかったけどFrank Frazettaみたいになりたかったし、生計を立てるために軽いイラストもやったし。コミックの仕事はたくさんやったけど、どうかすると繰り返しの多い単純作業になってしまう。そして興味を持ち続けれることさえ難しくなってくるんだ。小出版社ともめたこともあるし、まぁ双方にミスがあったんだけれど、トウの立った「大きいお友達」向けの仕事を続けるのがきつくなってきたんで、コミックの仕事をずっと続けてる自分というのがイメージできなくなったんだ。

あなたが今、コミックの画の仕事に関心があると言ってもだれも可笑しいと思わないのではないでしょうか・・・

いい儲けになる市場ではあるし、いくばくかはアーティストとして有利な点もあるしね。でも、14年前だって10年前だって、学校ではコミックの仕事なんかは時間の無駄だと教わってきたんだ。「どうしてもっと現実的で大事なことに時間を使おうとしないんですか?」芸術学部ではつらい思いをしたね。

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どのように作業なさるんでしょうか。スケッチをたくさんなさるとか、あるいは・・

私はあまりスケッチを熱心にやらないんだ。スケッチブックを持ち歩くこともあまりないし。欲しい画は頭の中に収めておくように努めているんだ。やっちゃいけないことなんだけども、ある一箇所から描き始めて、そこからだんだんに描く範囲を広げていくんだ。うまくいくんだけれど、今まで会った先生たちはみんな「そういう風に描いてはいけない」って断言してたな。知ってると思うけど、構図を組み立てて、下書きをしっかりやって、それから、って言う奴さ。そういう風に描いていて、気持ちよく画が描けたことなんかないから教科書通りにはやってないけどね。

正規の学科ではどのようなところを専攻されましたか?

たいしたことはやってないよ。「Draw Tippy」のコースを選択してね・・

え?本当ですか?

ああ、半分位やった。そのあと、辞めさせられたんだけどね。実際のとこ、彼らはコミックっぽい絵の描き方やマンガっぽい手法にはいい顔しなかったしね。彼らは私を、高校の美術の時間にもやりたくなかったような基礎技能修得コースへ追いやったんだ。私はそのあたりをパスして習おうともしなかったんだけど。「輪郭をなぞれ」?ああ、そういった奴さ、やりたくなんか全然なかったんだけどね、まぁ後でちょっと役に立ったけど。円錐や円柱や球なんてものさ。しわしわの紙に輪郭をなぞってデッサンに励んだかって?いいや。葉っぱなんかは?全然。人物の頭部の模写?全く。そんなことばかりずっとやらされたんだ。

Magicの仕事を始めたとき、これがあなたにとってここまで大きな反響を呼ぶという予感はありましたか?

いやいや。私にとっては最初は収入の一部でしかなかったし、それ以上のものになるとは思ってもみなかった。その年のNorwasconになるまで、反響の大きさにはぜんぜん気づかなかったんだ。Jesperは私に「すごいことになってるぞ」と言ってきたし他の人からもそんなことを言われたけど、どんな「すごい」ことなのか想像もつかなかった。会場に行って、あまりのことに硬直しちゃったけどね。

Magicは、あなたのアーティストとしての姿勢に何か影響を及ぼしていますか?

私の創作に対する姿勢を前に押し進めてくれた。Magicのカードを作ることは、今までのキャリアを通して、私にとって一番楽しい作業だと言える。仕事というより、純粋な創作に近いね。

それは、カードイラストを描くときに自由にやれるからですか?

自由放任に描かせてもらえるというのは大きいね。あと、現場のスタッフのところに行くのも楽しい。そのおかげで「描こう」という気になる。長いこと、画板の前に座って描くのがつらくなるような場所で過ごしてきたものだから。ゲームの仕事はとてもいい気晴らしになったし、興味がずっと持続する。技術の進歩にも大いに役に立った。

それはあなたの仕事それ自体によるところなのでしょうか、それとも他の絵師に影響されたとか?

仕事の大半が、厳しい納期を課せられていたんだ。一つ書き上げれば、すぐに製造過程に回されたしね。自分のペースで仕事をしている間は、私の技術の伸び方はひどくのんびりしたものだった。一定の時間内に一定のプロとしてのレベルを維持しつつ仕事をこなさなければならない、という環境に置かれて、私は限られた時間内で多くのことを学ばなければならなかったしすごい勢いで技術を磨かなければならなかった。教訓を一つ。「背に腹は代えられず/悪魔が後ろでせっついてる時にはなりふり構ってられない」いやま、だれが悪魔かなんてことはこの際どうでも良くってさ。他のアーティストのみなさんに影響されたかというのはよく分らない。競争意識なんて持てるレベルにはないと思ってるしね。

Magicのエキスパンションか、あるいはリリース予定の他のゲームの中で特に関わってみたいものはありますか?

トールキンの世界を扱った奴はやってみたいと思っているんだ。個人的には、スティーヴン・キングの世界をベースにしたMagicっぽいゲームなんか面白そうだと思ってる。

Magicのイラストレーターとして注目されるのと、ファンタジーアーティストとして見做されるのとコミックの絵師として見られるのと、いずれかを選択しなければならなかったらどうしますか?まぁこのインタビューはThe DUELIST誌に掲載されるんで選択の余地はないと思いますが。

その通りだね、ヘンな質問だよ。「50000人がこういうことを知りたがっておりますが・・・」なんて言われたって、内輪の話をすることには尻込みしないね。みんなが私の名前に目を留めてくれて、私自身に興味を持ってくれるのなら嬉しいよ。これだけ都会から離れていると、別にひどい目に遭うことも無いしね。今のところは、自分の著名度には満足してるんだ。私自身が把握してるよりはなにか大きいみたいなんだけど、だれも彼もが知ってる、というレベルではないから。なかなかいい状態だよ。Norwesconで、私のことをどれだけ多くの人が知ってたかについてはびっくりしたけどね。心の準備もできてなかった。このゲーム(Magic)がこんなにビッグになって、最初の年で「トリビアル・パスート」を超える売り上げを記録したときには愉快だったね。いやあ、とんでもないゲームに関わってしまったものだ。

これを耳にされたらまたくらくらされることでしょうが、ほとんどのプレイヤー達があなたをMagicで一番気に入ってるアーティストに挙げているんですよ。特別ひいきがいないにせよ、ね。

そのことには時々いらつくこともあるんだ。みんなが喜んでくれることには悪い感じはしないんだけれど、つまり今まで産み出してきた作品を常に上回る出来のものをこれからも産み出し続けなければならないという宿命があるわけだからね。プレッシャーを感じることもあるよ。

個人的に、「好きな絵師は誰か」っていうことに対する答えを考えるのには苦労したんだ。いい絵師がたくさんいるからね。純粋にアーティストとしての立場から言えば、Drew Tuckerの作品には圧倒されたね。正直言って、嫌いな作品がないくらいだよ。(Magicのアートワークというものは)滅多にないような状態なんだ--これだけ多種多様なアーティストが一同に会して、「うへえ」っていうようなものが一つもないっていうのは。私は他のアーティストと共同作業をやってみたいと思っているんだけれど。お互いがお互いに影響されあっているからね。Daniel Gelomもそう、私もそう、Chris Rushもそう、みんなそうだ。この仕事をしていて一番嬉しいことはそれかもしれないね。一つのセットのなかに、似たものは2つとないんだから。見る人をひきつけるのはそういう点だろう。望みが一つかなうなら、他の人の視点で自分の作品を眺めてみたい。自分の作品を見て、昔の技術の名残を感じるのはつらいからね。自分の絵を見ていると、それを描いたときのことが思い出されるから。もちろん、他の人が私の絵を本当にはどう思っているかは知らない、私自身が思っているよりずっといい反応をもらえているものだから。その反応についてはあまりよく分ってないんだ。私のMagicのイラストが(94年当時で)たった18枚しかないものだから、まだぼろが出てないだけなんだろうね。

もうひとつ質問させてください。確か、Richard Garfield自ら依頼してきたカードのイラストというのがあったはずですが?

ああ、面白い話だよ。RichardはガールフレンドのLillyにプロポーズしようと思っていたんだ。彼はMagicのゲームの中でそれをしかけようと思ったみたいだ。その時には私は、Richardと話をしたこともなかったんだけどね。Magicがリリースされてしばらくしてから、ほかならぬここで彼から連絡を受けたんだ。「とても君の仕事を気に入ってる」と彼は言ってくれて、「プロポーズ用のカードのイラストを引き受けてはくれないか」と申し出てきた。私は正直、とても嬉しかったね。私はファンタジーっぽい仕立てで彼が彼女にプロポーズをしてるイラストを描いた。秘密裏にDave Howellに依頼してカードを作らせてから、Richardは感謝祭の日にそのカードを忍ばせたデッキでデュエルをしたらしい。件のカードが出てくるまでに3回もデュエルしなければならなかったらしいけどね。ああ、勿論彼女はプロポーズを受けた。Richardは、「彼女があのカードをとても気に入ってくれた」って報告してくれたよ。長く幸せな結婚生活がいつまでも続くといいよね。Richardには今年(1994年)の春に会った。好人物だったね。でもまぁ、もしプロポーズがうまくいってなかったら、あの依頼を引き受けたせいで私は会社から放り出されていたかもしれないね、これはRichardには内緒だけどね・・・

This is not produced or endorsed by Wizards of the Coast, Inc.

注釈の巻

Doppelganger
アンリミテッド版およびリバイスド版の「Vesuvan Doppelganger」のこと。クリーチャー版「あまたの舞/Dance of Many」ってとこでしょうか。
Boris、Hildebrandts
Quintonに酷評されているご両人、例によってわたくしは彼らについての知識がありません。どなたかご存じありませんか?こういう部分って、日本のインタビューだと編集段階でチェック入れられてしまいがちですがよくそのままで出しましたね。
シャナラの剣
評論社で和訳あり。著者のテリー・ブルックスはこの作品でメジャーになりましたが、わたくし個人的には「ランドオーヴァー・シリーズ」(ハヤカワ文庫FT)の方が好きです。もっとも「シャナラ」読んでないんで断言はできないんですが。
悪意
インタビューアーがこんなこと言っていいんでしょうか。これがアメリカンジョークっすか?これまた日本では洒落になりませんね。
子供自慢?
これ訳してるわたくしの現在時刻は午前3時なんですが、子供の話を延々始めるパパQuintonを止められなかったインタビューアー氏にはなにか一言言ってやりたい。ええ、親バカのする子供の話は止めないといつまでも終わらないんだぞ!
インタビューアー氏の対応
取って付けたような質問ですね(笑)だから遅いってば。女房自慢までされてしまったではないか!
選択の余地
インタビューアー氏、かっ飛ばしております。いいんでしょうか。
Norwescon
アメリカでは毎月どこかの州で行われている(らしい)SF系のイベントの一つかと思われます。ナラスニ・ドラゴンが配られた「ドラゴンコン」なんかもその一つ。日本でも毎年やってるんですよ・・・規模は比べるべくもないですが。
トリビアル・パスート
日本でも「トリビア」って名前で出ていましたっけ。要はクイズ番組をボードゲームでやりましょう、っていうノリのゲームです。余談ですが一時やたらにおわした「クイズ王」の方々、今頃どうしてるんでしょうね。
Draw Tippy
今回の翻訳で一番頭抱えてしまった場所です。これってなんでしょう、なんか超基礎コースの名称かなんかなんでしょうか?情報、お待ちしております。

 

9割5分は訳しましたがほんの数カ所に穴があります。だって今午前5時なんですもの。でもQuintonって結構イカスパパでしょ?正規の教育受けなくても(というかボイコットしても)あれだけの絵が描けるようにはなる人もいるんだ、ということっすね。

彼のWebsiteはこちら、だそうです。

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