【遠くへ…】

コンガとギターの伴奏で始まり、途中から三連のストリングスが加わる。中盤、繰り返しの♪もっと遠くへ、ではピッコロが対旋律を奏でる。ウィスパーボイスのあと、いったんギターとコンガの編成に戻り、最後の繰り返し（♪もっと遠くへ）では、ずーっと入っていたコンガのリズムが消える。思わず聞き耳を立てる。歌の終わったあとはピッコロと二胡を使い、パーカッション二人によるコンガで終わる。
メロディがシンプルで繰り返しが多い曲だが、一回ごとに別の楽器構成、別の編曲で聴かせてくれる。オーケストラならではの実にぜいたくな演奏だった。

ＭＣ
　最後の曲になりました。この曲には思い入れがあって、自分のために作ったような歌なんです。米米CLUBが解散したころに作って。悩みのなかで、壁が自分に向かって迫ってくるような状況の中で始まったひとり旅だったんですね。その中で自分を奮い立たせるために作った曲『想い』です。

【想い】

ピアノの音にヴァイオリンの囁くようなロングトーンがかぶり、歌い出しの伴奏をハープが務める。あくまでも静かな始まりである。そしてギターが入り二胡が続く。中盤（♪たいせつなものは）からチェロが加わる。中低音が加わると、音にぐっと厚みが増し、曲を下から支えているのが感じられる。曲の盛り上がりにつれて増えていく楽器群。
終盤♪愛さえも、からは一転ストリングスのピアニシモのみが供となり、すーっと消えてゆく。
曲そのものが、オーケストラのために作られたもののように感じるほど、調和していて、おもわずため息が出る。曲のドラマティックな展開とぴったり寄り添うような演奏、心を込めて拍手した。

ＭＣ（一度引っ込んで、カーテンコールにより再び登場）
　（先ほどのCoba氏とのトークを受けて）確かに時代に逆行しているかも知れないですね。でも、こんな時代だからこそ、しっとりと包んであげるようなコンサートが必要かなと思うんです。
　それではこの間出したマキシシングルから一曲『Far Away』を。皆さん心ゆくまで楽しんでいってください。

【FAR AWAY】

チェンミンの二胡が、ＣＤよりも身にしみる。石井も１０曲近く歌ってきているはずなのに、声に衰えは見せない。
１日目は直立不動で歌っていたが、２日目は手の動きが多少加わって、少々リラックスしたのか。それとも２夜連続で歌って、声がつらくなっているのをごまかそうとしたせいなのか。いずれにしろ、この日、初めて若干の歌詞間違いを発見した。

【あなたに】

ZERO CITY -HAL-で聴いたときよりも熟成した印象の歌い方であった。編成も編曲も違っているのだからあたりまえなのだが、音の厚みの中でも消えないというか。フェイクが少なかったからだろうか。
ピアノからヴァイオリン、そしてチェロへ。中低音が刻むリズムが優しい。最後がクラリネットのフレーズで終わるのが目新しかった。（ＣＤではソプラノサックスでエンディングだった。もしかしたら、そこから置き換えたのかもしれない）

≪２日間を聴いての、筆者の勝手な感想文≫

いわゆる『石井竜也を見に来た』人にはつまらない演奏会だったかもしれない。事実、石井が歌っているときだけ、食い入るように双眼鏡でのぞいている人もいた。しかし一方では、会場に来たかなりの人たちが、オーケストラの音圧と彼の歌に圧倒されているようにも感じた。

インストゥルメンタルを含めて、これだけオーケストレーションに耐えうる楽曲を創ってきたという石井の能力と実績、そしてなおかつ５０人の『音』を味方につけて歌えるという彼の歌唱力に感服するよりない。くやしいが「負けた、完敗した」というのが正直な感想だ。

また、１回ごとに別のゲストを呼び、彼らの楽曲を交えることによってコンサートの流れを変えてゆくという手法にも感心した。
本人も楽団員も、それだけよけいに練習をせねばならず、本来ならば『ペイしない』という理由で切り捨てられがちな部分であろうが、あえてそれをする、ことによって成立したものも大きかったのではないかと思う。東京２日間と言わず、すべてのコンサートを体験したい、と思ったのは筆者だけではないと思う。
同コンセプトのコンサートが今後も開かれるのであれば、万難を排しても駆けつけたい、と強く願う今日この頃である。