D-Dream Concert Report

PART 1

今回のコンサートには、毎回ゲストがいらっしゃいました。
ゲストといっても、ただ出演してもらって演奏してもらうだけで満足するような石井氏ではない。ということで、トークコーナーが設けられていました。これがおもしろいの!というわけで、コメホカではコンサートのレポートよりも一足早く、ゲストとのトークを掲載します。まずは12月17日のゲスト、アコーディオンのCobaさんとのトークをお楽しみください。
(記憶とメモ書きのみで再現しております。間違っていても大目に見てね)


トークコーナー(Coba登場)
石井:Cobaさんとは、たしかミュージックフェア以来ですよね。
Coba:…そうでした?
石井:確かそうだと思いますけど(自信なさげ)
Coba:それにしても素敵なコンサートですよね。
石井:ありがとうございます。
Coba:何とも時代に逆行している感じがね。ゆとりというのかなぁ、ほんとうらやましいですよ。
石井:(笑)。ところでアコーディオンのお話を伺いたいんですが。だいたいいつぐらいにできた楽器なんですか?
Coba:190年ほど前にですね…
石井:そんな前なんですか。アコーディオンって、できてもう200年もたつんですね。ねえみなさん。
Coba:いや、190年です
石井:だいたい200年じゃないですか。細かいですねぇ。
Coba:で、190年前にオーストリアのウィーンというところで…
石井:え?オーストリアなんですか? なんか、アコーディオンというとアルゼンチンとかあの辺のイメージがあるんですけどね。
Coba:そうですね。(イメージは)そうなんですが、ウィーンなんです。そこで、ダミアンさんという方がお作りになったんですよ。
石井:ダミアンさん…(絶句)
Coba:どうかしましたか?ダミアンさんが。
石井:いや、あの、映画にあったんですよ。オーメンという…。(気を取り直して)でそのダミアンさんが。
Coba:そのダミアンさんでないダミアンさんが(客:笑い)、お作りになった、と。ダミアンさん2人いるんですね。
石井:(笑)。(客:笑い)
Coba:で、アコーディオンというのはもともとは調律笛というものを加工しまして…
石井:調律笛というのはあの楽器の音を決めるときに使う…
Coba:そうです。ピアノの調律をするときに使うあの笛ですね。あれに鍵盤をつけてふいごで空気を送ってという仕組みで作ったというのが始まりですね。
石井:アコーディオンって、細工が凝ってますよねぇ。
Coba:そうですね(といいつつアコーディオンを構え直す。すると楽器に反射した光が客席に投げかけられて)…(客に)まぶしいですか?(と言いながらさらに楽器を揺らす。ぴかぴかぴかぴか…)
石井:Cobaさん、もうやめましょうよ
Coba:(話に戻ってきて)木製の楽器に(石井:木製なんですか)セルロイドでコーティングして、鍵盤も、今でこそイミテーションになってしまいましたけど、もともとは貝の裏側を使って…
石井:あの、螺鈿(らでん)ってやつですね。
Coba:そうです。それで1人の技術者が3,4ヶ月も没頭する。それでやっとできるという感じですね。
石井:これ、重いじゃないですか。(Coba:20キロぐらい)それをCobaさんは背負って2時間ぐらい演奏する、たいへんですよねぇ。…もともとCobaさんがアコーディオンを始められたのは、お父様がお好きだったからだと聞きましたけど。
Coba:そうです。父は下手の横好きというのを絵に描いたような人で、酒もたばこも女もやらない。酒はビール一杯で真っ赤になるし、たばこもすわないし、趣味と言えばアコーディオンだけ、という人で。アコーディオンだけが友達、という人でしたんで。
石井:それでお父様にアコーディオンを買ってもらって…
Coba:買ってもらったはいいけど、何ヶ月も放っておいたんですが、
石井:それである日弾いてみたらいい音がしたということでおはじめになったんですよね。で、アコーディオンのイメージを変えたいという
Coba:「アコーディオン」と聞いたときの、みんなのリアクションがいやだったんですよね。アコーディオンと言えば、のど自慢の…というイメージでしょ?
石井:確かにそうですよね。
Coba:アコーディオンは「みにくいアヒルの子」なんですよ。ほんとにその「みにくいアヒルの子」をかえてあげる。白鳥にしてあげるよ羽ばたかせてあげるよ。ということでがんばっているわけです。
石井:たしか最初はローマの方へ行ったわけですよね。どうでした?
Coba:最初はビビリましたね。ローマについて、お金を替えたいとおもって「ウベ、アラ、バンカ?」って−「銀行はどこですか?」って意味なんですけど−聞いたらば、おばちゃんが「聞いてよ、うちの亭主ったらさぁ」…というところまでは聞き取れたんですが(客:笑い)最後まで銀行の場所はわからなかったという。
石井:(笑)。そうですよね。向こうの人はしゃべるの好きですからね。そう言う人いますよね。だから僕はイタリアが合ったんですよ。しゃべりたくてたまらないという…。(客:笑い) で、それからベネツィアのほうに行かれたという。でもなんでベネツィアなんですか? オーストリアの楽器ならそっちのほうにもあるんじゃないんですか?
Coba:いや、ベネツィアの、僕の行ったルチアーノ・ファンチェルリ音楽院というのは有名なんですよ。だからベネツィアの由緒正しい…
石井:由緒正しいんですか。
Coba:そう、由緒正しいところに行ったわけです。
石井:それにしても、アコーディオンって難しそうですよね。まぁ右手は鍵盤なんで何とかなりそうな気もするんですけど、左手のボタンのほうがいじくれなさそうですよね。
Coba:そうでしょう。俗に『右手3年、左手3年、蛇腹8年』と言われていますから。あ、蛇腹というのはここ(楽器の真ん中を指す)の延びたり縮んだりするところのことを言います。ここが難しいんです。
石井:ほんとですかぁ? うそっぽいなぁ。もっと実のある話をしましょうよ。それほんとにほんとですか?
Coba:ある意味ほんとです。
石井:(笑)。それではそろそろCobaさんに演奏をしていただきましょう。

という感じでした。Cobaさんってまじめな顔をしながらおもしろいことを言う人なんですねぇ。「白鳥にしてあげるよ。羽ばたかせてあげるよ」というくだりには、笑ってしまいました。でも、なんか使命感みたいなものも感じました。第一人者というのは、そうしたものかもしれないですね。


続いては東京公演2日目、ゲストの東儀秀樹さんとのトークです。

石井:雅楽といえば、近頃では『雅子さまのご出産』とかがありますけど、ああいうときにもなにかしたりするんですか?
東儀:宮中行事としては、みなさんがテレビとかでご覧になる以外にも、実はいろいろとやっているんです。と言いますのも、雅楽を捧げものとして演奏するという伝統があるものですから。
石井:雅楽というのは、中国から伝わってきたというお話ですけど、でも中国にはもう雅楽というものはないそうですね。
東儀:もともと大陸で生まれたものが、日本に入ってきて千四百年たっていますから、その間にどんどん変わっていってしまって、今の中国、というか大陸には原型は残っていないんですね。
石井:大陸に残っていない雅楽が、日本に残っている、というのもおもしろいですよね。
東儀:というのは、人間が好きなように変更してはいけない、ということになっていたからなんです。先生がやるのと全く同じに、コピーを作るようにして全く同じに伝わってきているんです。だから伝わってきた当時と同じ形が残っているわけなんですね。
石井:なるほど。で、雅楽の世界では『東儀』という名字が継承されているわけですけれど、その他にもあるんですか?
東儀:そうですね、ほかにも5つぐらいありますよ。『貴』という字を書いて、一字で「ぶんの」という姓もありますし、『多』一字で「おおの」と読む、これは「オオノヤスマロ」の子孫と言われているわけですけど。そのほかにもおもしろいのは、『上』と書いて「うえ」と読む姓もあるんです。税金逃れで領収書をもらうとき「上でお願いします」って言いますよね。あれがそのまま名字だという…。
石井:いいですねそれ。「上でお願いします」「いえ、お名前を」「名前が上です」って(笑)。うらやましいなぁ。(客:笑い)
東儀:話を戻しますと、雅楽は中国大陸から朝鮮を経て日本に輸入されて、次第に日本化されていったわけですね。その間に中国では廃れてしまったのですけど。いろいろ取り入れるなかで、残るものは強い。日本のものだけじゃなくて、他のものも認めるから(雅楽が)残ってきたんだと思います。
石井:東儀さんの演奏される篳篥(ひちりき)という楽器があるんですけど、その楽器の親戚の楽器がここにあるんですよね。
東儀:そうです。
石井:なんだと思います?みなさん。
東儀:実はオーボエなんです。2枚のリードを使って音を出すんですけど。大陸で生まれて、西にわたっていって、その間に長くなってキーがついて、ああいう形になったんですね。
石井:あと音で言うと、篳篥ってバグパイプみたいですよね。
東儀:バグパイプは、篳篥というより、構造でいうと、簫(しょう)という竹が何本もたっている形の楽器があるんですが、あちらに近いですね。(中を)開けると簫に近い形をしていると思います。
石井:楽器ってふしぎですねぇ。東儀さんはヨーロッパからお帰りになったばかりなんですよね。
東儀:パリでカルテットと演奏して、プラハで、NHKスペシャルの仕事なんですけど、実際にチェコ・フィルと演奏して、帰ってきたところです。
石井:あの、宇宙ってやつですよね。東儀さんとは一度一緒にイタリアに行く仕事が持ち上がったんですけど、楽しみにしていたらポシャってしまったんですよね。一緒に行ってみたいですね。
東儀:石井さんとだったらイタリアよりは、アメリカ大陸を一緒につっぱしってみたいですね。ハイウェイをずーっとイージーライダーみたいに……
石井:僕は、篳篥を吹きながらハイウェイを爆走する東儀さんが見てみたい! 「おー!東洋の神秘だ」とか言われて。
東儀:クラクションいらないよね(笑)。
石井:さて。ヨーロッパに行かれたということで……
東儀:ムリヤリ戻すんですか?(笑)
石井:オーケストラと一緒に演奏されて、色合いは合いました?
東儀:雅楽は日本的音階だと思われているでしょうけど、実は12音階と言って、西洋と一緒なんですよ。だからヨーロッパの楽器と合わせるのは、うまくいくんですね。
石井:日本で演奏されていても、初めて聞く方も多いと思うんですけど。僕は初めて聞くんだけど、なんだかなつかしい感じがすると思ったんですよ。
東儀:それは海外でも全く同じ感想を聞くんですね。「初めて聞くけどなつかしい」という。それは東洋と西洋の分け隔てがある以前の、わけへだてのない時代のものだからだと思います。
石井:やっぱり精神のなかに入っていくからなんでしょうね。
東儀:雅楽がなぜ残ってきたかといえば、残すだけの価値があるんだと思います。なぜあるのか?というと、やっぱりなにかがあるから、人を感動させるものがあるから。ふつうだったら消えてしまってもおかしくないはずなんですけど。
石井:理屈でないふうにわかっていたから残ってきたんでしょうね。

東儀さんの雅楽器への造詣をちょっぴり分けてもらった気分のトークでした。ひちりきとオーボエが親戚だったり、しょうとバグパイプに共通点がある、なんて話はなかなか聞けませんもんね。それにしても、東儀&石井コンビのイージーライダーって(爆笑)。


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