備前饅頭郎物語 at東京国際フォーラムin6月30日

−この日はなんと先生のほっぺたがクラッシュ。
メロメロになりつつも暴走する先生と必死についていく弟子、古林の葛藤をお楽しみください−


ツインサックスの演奏(演歌のイントロのよう)とともにステージ奥には赤い提灯が16個下がってくる。上手奥階段上から古林旭(コータロー)が着物姿で登場。バックには古林自身によるナレーションが入る

−ナレーション−(たぶんこんな感じ、ちょっと短いかも)

私、古林と申します。私の夢はいつか先生のような立派な演歌歌手になることでございます。人は先生のことを『外道、外道』と言いやすが、外道も外道、大外道。私は先生のことを外道を極めた菩薩と呼ばせていただいておりやす。

(古林、奥から前へと降りて来つつ、そこここでバンドさんとご挨拶。)

本日は先生の芸能生活60周年記念のリサイタルでございます。なにぶん72歳とご高齢のため1曲しかお歌いにゃあなりやせんが、あの名曲『男同士』を歌っていただくことになっておりやす。

(古林、上手でスタッフとのマイクの受け渡し。イヤそうなスタッフの様子に最敬礼をしてマイクを受け取る古林。振り向くと「てやんでぇ偉そうに。ちきしょーめ」とでも言いたげなアクション。)

それでは今日もはりきってまいりやしょう。先生ぇ〜!


先生:(正面の扉から登場、翁の面をかざしよろよろとやってくる。腰が少しまがっている。面をかざしたまま上手方向へ歩み去ろうとする)

古林:(押しとどめ先生の腰を持って中央へと引き戻す)

先生:(面をはずす。しかしその下は『ごま塩カツラ』&『巨大な鼻眼鏡−眉毛と鼻と頬とひげが一体になっている−』をかけている)

先生:こんなにたくさんの人たちはなんで集まってるんですか?

古林:今日は先生のリサイタルじゃございませんか。

先生:そうですか、それはそれは。(ナマリつつ)本日のこのよき日に、諸先輩方に成り代わりまして一言ご挨拶申し上げます。鈴木家、佐々木家に並びにご親類方におかれましては…

古林:先生、結婚式じゃないんですから。

先生:なに?ブライダルじゃなかったのか?

古林:今日は先生のリサイタルですよ。みなさん先生の歌を聴くためにこうして集まってきてくださっているんですから。

客席:(拍手)

先生:そうですか。(客の方を向いて)それではバンドの皆さんよろしくお願いします。(おじぎ、よろけつつ)うーごほごほ…かー、ぷっ。うぅ。(後ろを向いて手を広げ)さぁみなさん、それでは…

古林:(先生を振り向かせつつ)先生、こちらがお客様です。

先生:そうですか(上手を見る。テナーサックスが立ててある)(近づきつつ)いや奥さん、そんな大きな穴を。そんなあからさまに。いけません、いけませんよ。

古林:先生、それはサックスという楽器です。

先生:いや私はできません、そんな、できませんって

古林:ですから、それはサックスという楽器ですって。

先生:お、ところで立ち位置はどこですか?

古林:本日の先生の立ち位置はこちらとなっております。(示す)

先生:おお、そうか。(立ち位置より数メートル上手でポーズ)(効果音:鼓の音、ポン)

古林:先生、ですから本日の立ち位置はこちらでございます。

先生:そうか。古林、芸能界で大事なのはなんだ?

先生・古林:(声をそろえて)立ち位置、順番、そでのした

古林:(「そでのした」のところで先生の袖の下をくぐる

先生:そうだな。ではいこうか。(ポーズをとる)(効果音:鼓の音、ポン)

古林:それではバンドの皆さん、よろしくお願いいたします!

−【男同士】の演奏始まる−

(途中の台詞は古林担当、先生は当て振り。歌の間、古林ちょこちょこと動き回り観客の笑いをとる)

(台詞:人の目、見れねぇヤツは泥棒さんだぃ!)(効果音:エコー「泥棒さんだぃ」がリピート)

先生:あぁ、回る、回るよ。どろぼうさんが回る〜(と言いながら奥の銅鑼のところへ。銅鑼に激突、銅鑼大きく揺れる。その勢いで鼻眼鏡落ちる)

古林:先生!あ、先生が。先生の鼻もほっぺもなくなっちゃった(下手へよろけ歩きがっくりひざまづく)(顔を背けつつ)誰か、救急車呼んで、救急車。先生が…

先生:(なんだか様子が変。右の頬を押さえつつ)痛ぇ、いてぇよ。(戻ってくる)

古林:先生、大丈夫ですか?(マジでちょっと心配そう)

先生:(右側を押さえつつ)右のほっぺがとれちゃったの。(見せる)

古林:先生、右のほっぺが…(銅鑼のところへとって返しほっぺのかけらを拾ってくる

古林:先生(渡そうとするが先生に拒否され、懐にしまう)

先生:もうどうしようもねぇわ。言葉じゃフォローできねぇよ。(芝居を続ける)いてぇ、いてぇんだよ。…俺ぁここにいてぇんだ。シベリアなんかにゃあ行きたくねぇんだ。こんなに年貢米を、これじゃ生きていけねぇですぅ。なんとかしてくだせーお代官様ぁ(ひざまづいて古林にすがりつく)(起き直って)看護婦さん、こんなちっちゃいコップじゃあふれちゃいますよ

古林:まぁ、おじいちゃんたらまた夜中に何か飲んだでしょ?

先生:これはこれは校長先生じゃありませんか。こんなところでお会いするとは。先生もお盛んですな。あちょっと、キャサリン呼んでくれ。おおキャサリン、とりあえず一杯。いやいやどーもついでもらう振り看護婦さん、こんなちっちゃなコップじゃだめですよ。いやいや校長先生、では(飲むふり)…あーやっぱビールは最高ですね

古林:(この間、先生の間髪入れない移り変わりにウロウロ。必死に言葉を挟む隙を探している様子。さらに時計を見る振りをしてソデのスタッフに『早くなんとかしろ』のアピール)

先生:(引き続きノンストップ状態で)裕一郎、キリン見に行くか(上手へ歩く)。ほぉらキリンだよ。首が長いな。(下手に向かい)今度はカバ見るか、カバ。ほら口を開けている。よいしょ子供を投げるふり。おっと戻ってきた(受けるふり)

古林:(完全無視状態にあきらめたのか正面の階段に座って一服

先生:裕一郎ほらサルがいる。古林を指しあそこにいるのがサルだよ。

古林:(もうふてくされてサルのまねをしない)

(注:以前はサルねたを振られるとマネしてました。毛繕いとかもしたりして)

古林:(すっくと立って)たかし!!

先生:(赤ちゃん返り)ぼくね、ほっぺたとれちゃったの。

古林:たかし、おまえはしゃぎすぎじゃないのか? ほっぺたも壊して。とーちゃんの言うこと聞かないとねぎ食わすぞ!

先生:ぼ、ぼくねぎいやなの。(素に戻って早口で)言っとくけどこれ作るのに2万5千円かかってるんだ。…古林

古林:先生。おかえりなさい(深々とおじぎ)

先生:俺はどうしていたんだ?なんだか気づいたらほっぺもない。

古林:先生。これはちゃんと説明しませんとおわかりにならないと思いますが。

先生:おう。

古林:最初から説明させていただきますと(先生:ふんふん)、まず本日は先生に『男同士』を3番まで歌っていただくことになっておりました(先生:うんうん)

古林:それで「どろぼうさんだ」の台詞の『だ』のところで先生ブラックアウト。どっかの世界へ行ってしまわれまして、ただいま戻っていらっしゃったと、こういうことになっております(先生:そうか)

古林:ですから、「どろぼうさんだ」の『だ』のポーズから始めていただきたいと思うんですが。

先生:そうか。でそのポーズはこういう感じか?それともこういうのか?それともこういうのか?それともこうか?(ポーズを変えながら延々続ける

古林:一緒になってポーズを変えていく)

客席:(そのタイミングに合わせて手拍子

先生:(向き直って)古林とめなさい

古林:先生、このポーズでお願いします。

先生:こうだな(ポーズ)

古林:そう、そのポーズからお願いします。(時間稼ぎ)

先生:(ポーズをとったまま)骨粗鬆症なんだから早くしてくれ。

古林:わかりました。それではバンドの皆さん、お願いいたします!

−【男同士】演奏復活−

先生:(演奏終了、おじぎをする)

古林:どうもありがとうございました。これからも備前饅頭郎、備前饅頭郎をよろしくお願い申し上げます。備前饅頭郎…

先生:(よろける)あー!目が、目がみえねえ。(倒れる)なんにも見えねぇ。古林、どこにいる?

古林:先生、こちらに控えておりやす。

先生:古林、古林。ここにいるか(と目の前のライトをなでる)。あーなんにも見えねぇ。あ、カラスが飛んでいく。…古林、俺ぁもうだめだ。お、こんなところに100円玉が(差し出す)

古林:(受け取る)

先生:あ、あ、あ、苦しい…

(効果音:『ゴッドファーザー愛のテーマ』、バックの提灯群が点滅)

先生:(新国劇のような芝居がかった口調で)この備前饅頭郎は今日でお終ぇだ。これからはおめぇが、古林旭なんかじゃなく、2代目備前饅頭郎となるんだ。名前は『備前小饅頭郎』。

古林:備前…(早口で)こまんじゅーろう。

先生:デビー(=デビュー)曲はそうだな、今『孫』ってぇのがシット(=ヒット)してるからぁ、『ごま』ってぇのはどうだ。

古林:『ごま』、ですか。

先生:小さくても大きなエナジー。エクスキューズミー?

古林:小さくても大きなエナジー…。

先生:あー(倒れる)

古林:先生〜!(絶叫)

先生:なんだよ!(起きあがる)今いいとこなんだから、泣くとこなんだから。…あっ、あー(倒れる)

客席:(一斉に)せんせ〜!

先生:(客席に向かって)なんだよ!声かけてくるなよ、恥ずかしいじゃねぇか。こっち(自分と古林を指す)でやってんだから。入ってくんなよ。泣けよおめーら! いくぞ!

古林:先生、台詞を抜かされたのは初めてで…ショックです

先生:もういいから。ひとりで死ぬから。ほっといてくれよ。

古林:(ギターのところへ行きコンダくんと雑談)ほんっと夏ですねぇ…

先生:あ、あー!(倒れる)(相手にしてくれないので立ち上がって古林のところまで歩いていく。古林の頭を叩いて)なんだよ。さみしいじゃねぇか。ここは泣くとこなんだから。俺がここで死ぬから『先生!』とかって言えよ。(戻りながら)んとにもう、ちゃんとやってくんなきゃ…

(注:本来の段取りではここで扇子を投げて古林の尻に命中、となるはず。しかしほっぺがとれたショックで扇子をなくしてしまったので段取りがくるった。)

古林:(向き直って)わかりました。

先生:(戻って)もうだめだ…あー!(倒れる)

古林:先生ぇ〜!(絶叫、よろける)

(効果音:オープニングのダンサー登場時と同じ−チャンチャチャーン、チャ、チャ、チャ、チャーン− が流れる)

先生:(起きあがりながら)夕方から尿検査があるんだった(すたすた下手へ去る)

古林:せんせぇ…

−古林の歌う【ごま】へ−


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