石井竜也 1999 アートパーフォーマンス「ART NUDE」 LIVE REPORT

1999.12.22−アートパフォーマンス編−



 第一部が終わってほけっとしていると切れぎれになにか聞こえてくる。ふぅっと始まりほんの1秒ぐらい 鮮明に聞こえたかと思うとすっと遠ざかっていく音たちに一心に耳をすませていると、それらはどうやら童謡、 そしてシャンソンのようだ。『くつがなる』が聞こえたかと思うと次の瞬間『枯葉』のメロディがよぎる。 子供のかわいらしい声の『大きな栗の木の下で』『七つの子』『夕焼け小焼け』などの間にエディット・ピアフ の歌うシャンソンが通り過ぎ、時間軸の外から世界を眺めているような不思議な感覚にとらわれる。

 鐘の音が鳴り響き現実に引き戻されるとステージ上の巨大な顔はすでに直立している。顔というよりは 鼻の下までをマスクに覆われた仮面といった方が正しいかもしれない。フランス語まじりの英語のアナウンスが 流れると上手から楽隊3人が現れる。それぞれ手にした楽器は『赤いおもちゃのピアノ』(勝又)、 『銀のウクレレ』(宮野)それと『おもちゃの太鼓』(栗山)だ。1列に並んでチャカチャカポロポロトントン 鳴らしながら行進する姿に場内は一瞬静まりかえるが次いで起こる笑い声で一気に場がなごむ。


[パンフレット]

 3人がスタンバイすると下手から石井氏登場・・・のはずが出てきたのは顔にぴったりはりついた グレーの仮面に黒の上下、さらに手袋、足には脛当(すねあて)までを着けた謎の人物。ぎくしゃくと ロボットのような動きで一礼、そのまま上手へ移動しまたもや一礼。関節が順番に別々に動くロボットぶり に場内に歓声があがる。中央へ戻って仮面を剥ぎ取るとやはり石井氏。「息ができないのがこんなに苦しいと は思ってもいませんでした」と息を弾ませつつ話す。腰のところからくるくると布を巻き下ろすとそれが そのままエプロンへと変身し場内「ほぉー」と感心のため息がもれる。

 準備が完了し、まず太筆をとって絵の具のところへ。緑の絵の具に黄色と白を入れ均一になるまで混ぜると それを左目の窪みへ、次いで右目にも塗ると眉間がつながってめがねのようになる。更に鼻に大きな○が、 それがそのまま額へとつながり顔の上に大きな四つ葉のクローバーが描かれる。

 ピアノと鈴の静かな音のなかに響く"darkness"の声。エコーのかかった女性の声だ。

 今度は左の側頭部から頬にかけてを塗ってゆく。頬骨を避けるように途中がくびれた形になっている。右側も同様に 塗ると頭の上で左右の模様をつないでゆく。仮面が大きくて手が届かないため踏み台を使いつつ塗り進めてゆく。

 壇を降りて左右に歩き全体を確認する彼。気に入らなかったのか左右の頬のくびれ部分を太くしてく。別の筆をとり 今度は黄土色を作ると左目の上のあたりからまだ色の塗られていない部分を埋めてゆく。目の下から鼻の脇へと境界線 を丁寧になぞりながら進む。左側を塗り終えると額の上を通って今度は右側へ。上から下、左から右へと丁寧ながらも 機敏な動きで塗り進めてゆく。

 バックはギターのソロからピアノとパーカッションの組み合わせへと変わっている。鼻の下を塗り終え踏み台を あがって前頭部を塗り終える頃、バックは静まりピアノソロへと戻っていた。

 絵筆を戻すと缶ジュースを手に壇に座って一服する石井氏に場内からは密やかな笑い声がもれる。再度左右に歩き ながらイメージを固める彼、迷っているように見える。

 バックはパーカッションが入ったダンサブルな音楽になる。

 今度はカップに緑を取り出すと太筆に白をとり混ぜてゆく。もう一度緑を足しまた混ぜる。さっきとは違って (青の強い)ビビッドな緑色ができる。鼻の上、右目、左目、先ほどの四つ葉のクローバーがどんどん塗り替えられてゆく。

 ふと音がやむ。水の流れる音に交じって女の声が繰り返す"silence"。

 額も側頭部もまるでさっきの色がなかったかのように塗り込められる。ダンダンダンと音がするのは彼が筆で叩いて いるのだ。さらに筆を逆手に持ってガスガスとこするように塗る。何かに怒ってでもいるような感じだ。

 ギターの音がが大きくインサートしてきた頃、緑を塗り終えた彼は新しいカップを持ってそれに赤を注ぎ青をつぐ。 さらに白を筆でとり混ぜてゆく。紫色が誕生する。それを左側から黄土色の上に塗る。細く筋のように黄土色を残して こめかみから額へと塗り伸ばしてゆく。

[Tシャツ−長袖]


 また女の声がする。"synchronicity"と繰り返しながら消えてゆく。そして吐息。

 黄土色の筋を残しながら丁寧に輪郭を描いてゆく彼。それとともに音叉のように金属的なうなりが クゥワーンゥワーンと鳴り響く。ある程度描いたところで離れて出来を見ていた彼はカップに更に赤を足す。 赤みの強いより鮮明な紫色ができあがる。

 また一からの出直しだ。先ほど塗ったところを含めて、新しい色を塗り重ねる。バックにはギター&カスタネットが 早いリズムを刻んでいる。心なしか動作が早まっているような気がする。イメージが固まらず焦っているようにも見える。

 バックがギターのトレモロに変わり、全体をほぼ塗り終えた彼はさっき作った緑色に更に白を足す。目の中心の 穴の周りにその色で輪郭を描く。左側は目の下側に右は目の上側に弧を描く。今度は紫に白を足しこちらも目の輪郭を作る。さっきとは逆に左は上で右は下。ハイライトが入って目に表情が表れる。

 細筆を手にした彼は赤の絵の具を手にした。そのまま色を混ぜずに赤い蛇のような曲線を額の両側(紫のところ)へ 描いていく。左右に3本ずつ入れると今度は目の横の紫のところへ一列に点をうつ。紫の上の赤い線が毒々しい。 緑の四つ葉の額のところには大小の黄色い点が置かれてゆく。右上から下へうったところで一転身をひるがえし、先ほど の緑でたった今描いた点を消してゆく。はっきりと焦っている動きだ。さらに彼は紫の上に置かれた赤い線も紫で塗り つぶす、目の横の点も。ついには手を使ってまで絵の具を伸ばすとその勢いのまま客席へおじぎをし走り去っていった。

[Tシャツ−長袖のプリント部アップ]


*    *    *


 音楽がやみ再び登場した石井氏はエプロンをとりグレーのパッチワーク柄の上着を着て いる。
 「というわけで、できました。どうでしょう? クローバーで十字を作ったみたいと思ったんですけど・・・」

 「なんとなくプロレスのマスクみたいに見えますよね。名前は・・・うーんと、どうしようかなぁ・・・えーっと ・・・んー・・・『クリスマスの怪人』っていうのはどうでしょうね(客:拍手)」

 「あ、そうだ! サイン書かなきゃ。サイン書くのわすれちゃってる。(赤絵の具の筆を持って)こっちが ・・・めだつかな。(右下へサインを入れながら)まだ1999年なんですね・・・もうちょい・・・」

 「(ステージ前方に歩きながら鼻をすする)オレ昔から変な体質してまして、絵を描くとはなが出るという(笑) ・・・(はなをかみ)・・・このままで終わりというのもなんですから1曲だけ歌ってみたいと思います。『H』と いうアルバムに入っているんですけど、【想い】という曲です」


 途中から壇に腰掛けて歌う姿に『疲れているんだろうなぁ』と思ってしまう。エンディングで演奏者を紹介 (勝又隆一(key)、ミヤノヒロキ(Gt)、クリヤマトヨジ(per))して退場。

 そのままお開きとなるかと思っていたら板のようなものを持って再度登場。それを床に置き「あともう1曲だけ やりたいと思います。今回のメニューは私の趣味だけで曲を選んでいるという(笑)。来年はドラガジアをやりますので ぜひ皆さん死なないようにしてください。それでは最後の曲、【MOON RIVER】

 歌い出してしばらくしてちらりと視線を落とすがすぐオーバーアクションなぐらい腰を屈めて下を見る。場内に広がる 笑い。そう、あの板のようなものは歌詞カードだったのでした。苦笑しながら2度目からは堂々と下を見る ビューティ。でもサビちょいまえがムニャムニャでごまかしてた(笑)。歌詞覚えてる客もいるのよ、ごめんね ビューティ。

 1番でピンスポだけでステージは暗かったのだけど、2番では全体が明るくなってぐっと見やすくなったから今度は 大丈夫ね(でも1番と同じ歌詞だって話も・・・おっと口チャック)。

 最後はもはや恒例となったマイクはずしの「また遊ぼうぜぃ!」でしめくくり。クリスマス前の幸福な一夜は 幕を閉じたのでした。


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