石井竜也「ART NUDE」の1998年12月9日公演のレポートをお届けします。
第1部はアコースティックライブ、休憩をはさんでの第2部はアートパフォーマンス、
ボディペインティングとライブという構成です。
今回のレポートは、ずっと座ったままなので、逐一メモを取っていた方が、随所に見受けられました。
コメホカも実況風超詳細レポートにてお送りします。第1部のアコースティックライブに続き、
第2部アートパフォーマンスのレポートをお届けします。
画像は、販売グッズ「チョコ」「長袖Tシャツ」です。特に「長袖Tシャツ」も、各日限定数で、変えた人はラッキーでした。
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ステージセットは一部と同じ。下手にはキーボードとギター、上手奥にはパーカッシ
ョンブースという構成は変わらない。ただ奥に配置されていたセットが前にでている。
4メートル四方くらいの高い台がおかれその前には2段の階段がある。
そして台の左右には透明のアクリルで作った壁が立てられている。
新たに配置されたのは上手前に置かれた証言台のようなブースがひとつ。
そこにはコンポーザーとしてマリーザが座っている。
観客の予想を裏切り下手の客席入り口から入ってきた石井。 一部で着ていた皮のロングジャケットを脱ぎ黒のTシャツとパンツ。大きな黒いエプロンを着けている。 ひととおりメンバー紹介をして最後にモデルのジーナ嬢を呼ぶ。台の前に伏せる石井。 するとそれが合図だったのかステージ上方からジーナ嬢が降りてくる。 ジーナ嬢は腕を左右に広げ頭を前に伏せるポーズで、なんとなく十字架に磔になったキリストを思 わせる。
そうか! この構図はどこかの宗教画でみたぞ。キリストの前に身を投げ出すユダだ!
(ちなみにジーナ嬢は真っ白な樹脂製の人形です、念のため。 生身の女性から型を取り、それを石井氏みずから修正施した、これ自体が彼の作品でもあるのです。)
まず彼は白、黄色、オレンジ、赤、レモンイエローの絵の具を混ぜ合わせ、はだいろ (というには若干赤みの強い)を作る。それを別の容器にとって顔から塗り始める。 みるみるうちに左半身のほとんどが塗られていく。赤裸の死体のようだ。 少なくなった絵の具をつぎたし、若干赤を加えさらに塗る。
脇の下を塗っているとき、彼は塗りながら意味ありげな目線を客席に投げる。
バックにはピアノと水音を思わせるパーカッションの音。そしてマリーザのフランス語。意味はわからないがなんだかエロティックだ。
上半身のすべてと左腕、左足の膝までが塗り上げられた。がさらに彼は前の絵の具に白を加え、 さきほどぬったばかりのうえに塗り重ねていく。最初は人体模型の肌のようなべったりした色だったのが、 次第に肌の色に近くなってゆく。 まるで肉の上に皮膚を重ねていくようだ。
次第に音楽は躍動的になりパーカッションとギターが加わる。半身をぬりあげるころ マリーザの声がインサート、英語に替わっている。
塗り重ねられた色で乳房が立体感を持ってくる。生身の肌を 帯びてくる。 彼は彼女の肩胛骨の間を絵の具のほとんどない筆を逆手に持ってガスガスとしごく。 その勢いに吊り具がぎしぎしと悲鳴をあげる。
絵の具にさらに黄色をたして、顔のそれぞれのパーツを引き立てる。 バックにはマリーザのイタリア語(スペイン語?)が流れている。 彼は絵の具に黒を足して彼女の髪を塗っていく。
コンガが複雑な三連符を奏でだすころ、彼女の残った右下半身に黒い絵の具が塗られていく。 左手も、足のつまさきも、どんどん黒く光ってゆく。 なんとなく彼女に体温が感じられるようになってくる。 マリーザがアラビア語らしき言葉でなにかつぶやいている。 繰り返す「アラー」の言葉がなんとなく祝詞(のりと)めいている。
音楽がやんでも彼の筆はとまらない。細筆で色の輪郭線を執拗なまでになぞる、なぞる。 納得いく曲線が得られるまで何度も。彼女の左内もものあたりを。
金物の音がする。それが次第にたかまってガムランのような調べになる。 それから音叉のような共鳴音を持った金属の音、その「ゥワン〜ウワン」という共鳴音が胸 に直接響いてくる。
ステージでは彼が彼女の肌と黒の境界線を縞の線で埋めてゆく。 まるで黒の境界線が肌色を塗りつぶそうと這いあがってきているようだ。 このまま彼女は黒に塗りつぶされていくのか。
やがてバックはスイングジャズへと変わり、マリーザが日本語で話しだす。 「男の手は私の股間にのび・・・」りっぱなポルノ小説だ。 観客の気恥ずかしげで密やかな笑い声で張りつめていた空気がちょっとゆるむ。 彼もしばし小休止。ぺたんと正座した姿勢で彼女をみあげ呆然とした表情。
やがて彼は太筆をとり白の絵の具をたっぷり含ませて黒のうえに縞模様を描いていく。 脇腹から尻、太ももへと動く筆。さらにもものわきから前へ山形を描いて連なる白い縞。それはさらに爪先へと進む。それは虎か縞馬を思わせる。 対して左足の膝から下は丸い点が描かれてゆく。 大小つらなる点は豹の毛皮を思わせる。
バックはいつのまにかギターが奏でるホワイトクリスマスに。そろそろ終盤なのか。 ・・・そうだったらしい。彼は彼女の左ふとももに赤でいつものサインをしている。 作品ができあがったのだ!
ジーナ嬢は足枷をはずされセリ上がってゆく。そして、彼は舞台より去ってゆく。
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これで終わりかと思ったら、エプロンを脱いでグレーのコート風の上着でもう一度登場。今日の作品は「私のなかの野性」という題で人間の中にある動物の部分に還っていくというテーマだという。
「いつも思うんですけど、描かされてるっていうか、見てる人のエネルギーが入ってきて
それで描いてる。1時間で描けるわけないですもん。なんかこうイタコ状態で描いてる感じでいつもと違うエネルギーを使うんですよ。どっと疲れるというか。(と言いながらも後ろの作品を眺めている。)
「(作品を見ながらつぶやくように)もっと描きたかったんですけども時間もあるし・・・」とも。
「今回全部で14体できるはずなんですけども、いつかどこかで陳列してみなさんに
お見せしたいと思います(拍手)。ではあと2曲ほど聴いてください」
ギターのイントロでわかる『愛してる』。なんの虚飾もなく素直に歌っているのが自 然に伝わってくる。肩の力がぬけたというか、もう余力がないというか・・・でもそ れがかえって歌のもつやさしい感じを表してた、こういう場でなければ聴けない1曲でした。
「米米CLUBが解散してからなんかこう米米時代の曲を歌うのを遠慮してたところがあって。 解散してホントは『DEEP』みたいなアルバムが作りたかったんです、ダンス好きだしね。 でもなんかすぐにそういうのやるのは気が引けて『H』という自分の経験をもとにしたような アルバムをつくったんですけど。どうでもいいけどHとかDEEPとか、おれのつくるアルバムって なんかねぇ(笑)。 来年は米米の曲をガンガン歌っていこうと思ってます。ふっきれましたね。 歌う気になるまでは結構かかりましたね、なんか後ろめたい気がしてね。 でもオレが歌わなきゃ誰も歌ってくれないしなくなってしまうのは惜しいしね。 最後は河童という映画をつくろうと思ったときに作った『手紙』です。」
〆にふさわしい静かな1曲。後ろからジーナ嬢が見守っていた気がしたのは私だけで はないはず。
最初米米で培ったテクニック(楽曲だけでなく、MCもそう)を十二分に見せつつ徐々に「素・石井竜也」に還っていく感じが(途中の裏声ハプニングも含めて)とても自然で、「この人は本当に魅力的なひとなんだ」と改めて感じてしまった一夜でした。
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