代用マッチングトランス 測定レポート



 SRPP回路やSEPP回路で小型真空管アンプを組もうとする時に、一番初めに直面する問題がマッチングトランスの調達で、前章ではトランジスター用とか廉価な小型トランスで代用しましたが、使えるトランスの種類が少なくインピーダンスや容量などが選べないので、使用出来る回路もかなり制限されてしまいました。
 そこで他にも代用出来るトランスはないものかと、過去に測定した物も含めて小型のヒータートランスや通常のPP用トランスなどをいくつか選んで(要は手元にあったもの)測定してみる事にしました。



左のヒータートランスは、むかし野口トランスで購入したもので今は欠番になっているようですが、1次側
110V、2次側15V0.2AX2というもので、真ん中のは通常のPP用トランスなので詳細は後ほど、
右側のは春日無線のトランスで1次側110V、2次側12V1Aというものです。

まずは左右両端のヒータートランスの周波数特性を採って、それを以下のグラフにしてみました。



 これを見ると、どちらのヒータートランスも高域が5kHz付近から落ち始めていて、PA用ならともかくオーディオアンプ用のマッチングトランスとしては、とても使えない事が分かります。以前ラジオ技術誌の記事の中にも、ヒータートランスがマッチングトランスとして使われている記事があったので、えっ!と思って内容をよく読んだのですが、周波数特性については一言も触れられてなくて、天下のラ技誌にしては、ずいぶん無責任な記事だなあと呆れた事がありました。

という事でヒータートランスは諦めて、今度は小型のPP用トランスを少々改造する事でマッチングトランスに代用出来ないか、同様に測定してみる事にしました。



このPP用OPTは、東栄のOPT−5P、1次側5kΩ容量5Wというもので、PP用としては一番小型で廉価だったので選んだものです。 改造方法はP1−B−P2間の巻線を2つに切り離して並列に接続し直して、1次側インピーダンスを下げて使おうというもので、中を開いて真ん中の端子板に来ている線を外し両端の端子に付け替えました。



巻紙を切断して捲っていくと端子板が出てきますが、これに巻き付いている線が細いので、端子から引き剥がす時には傷つけないよう注意が必要でした。

測定データは本来の改造前の特性と改造後の特性の両方を採ってみました。




懸案だった高域特性は、さすがにオーディオ用トランスだけあって50kHz付近まで素直に伸びているのですが、低域についてはヒータートランスよりも劣る結果となっています。これはOPT−5Pのコア組が、PP上下のアンバランスに強い定インダクタンス型のバットジョイントになっているようで、一方のヒータートランスはDC重畳に考慮する必要がないので、ラップジョイントのコア組になっているからでしょう。それでも改造後の並列接続では低域特性が多少は良くなっているので、上手く使えば何とかなるのではないかと思います。

そこで以下のような16A8のSRPPアンプに接続して、実際に動作させた場合の特性を見てみました。




このSRPPアンプのNF量は約13.3dBあって相応の改善が期待出来るので、通常の周波数特性を採る場合に設定する事の多い0.1Wの他にも、0.5Wと1.5Wの特性も採ってみました。




こうしてみると0.1W時の特性は低域も高域もよく伸びていますし、出力を上げた場合に懸念された低域の落ち込みもそれほどではなく、むしろ高域の方が落ちてくるようです。なお低域特性を重視するならば、一回り大きな10W型を使えば改善されると思いますが、以前に10W型OPTを差動アンプに使った時は、やはり高域特性が思わしくありませんでした。

しかし聴いている分には違いはほとんど分からないと思いますし、このOPT−5Pも上記のように特性的にはなかなか良かったので、今は仮付けの状態で聴いていますが、きちんと組み込んで時間を掛けて聴いてみたいと思います。



その後、トランスに詳しい方がこのレポートをご覧になり、廉価なOPTの場合は整列巻きではないので特性を管理する事は難しく、ただ一つ測定しただけの結果で評価するのは不安が残るとのご意見を頂戴しましたので、半月程あとに2個目を買ってきて同様に測定してみました。



これを先に採った1番手のOPTの特性と較べてみると、高域も低域も多少落ち込みが大きいようですが、(低域の特性の違いはコアに隙間が出来てしまったのでは?)しかし上下の巻線を並列にすると、ほとんど1番手のOPTに近い特性になりました。

という事で確かに多少のバラツキはありましたが、NFアンプにとって厄介な中高域の凹凸などはないので、値段相応に高望みをしなければ(2000円でお釣りが来ます)、小型マッチングトランスとしても結構使えるのではないかと思います。



そこで既に東栄のT−600を使って製作していた16A8SRPPアンプに組み込んで試聴していますが、上記の特性のように10Hz〜100kHzまでほぼフラットな特性が得られ、以前の小型トランスとは比較にならないほど低域も高域もレンジが広がって、音に厚みが出てきたように感じます。