思 い つ き コ ラ ム V



LUXのSQ−38Dの出力管6R−A8の代用管について

6CW5の三結動作を検討してみました。





はじめに

 以下に述べる代替案は、あくまでヒントを示しているのであって、改造には相応の事故や失敗の

危険があるという事を十分理解した上で、参考とするようにして下さい。というのも、本章でとり

上げる代用管動作は、その球の最大定格を超える動作となるので、球の寿命に悪影響が出る事も考

えられるからです。また、ある程度の自作経験や知識も必要なので、本章の説明だけではよく解ら

ないという方は、自分で改造することは諦めて下さい。


なるべく少ない改造で済ませたい方に

 前章では代用管の本命として6CW5を挙げましたが、それは6R−A8と同等の出力を考えた

からで、10W以下でも良しとするならば7189の三結も候補になります。既に述べたように

出力管のプレートには330VのB電圧が供給されているので、これをもとにロードラインを引い

てみると約7Wぐらいは得られるようです。ただし最大振幅時の電圧降下やOPTのロスなどを考

えると実際の出力は5W程度になるでしょう。(未実証)

 7189への改造点としては

1.ソケット周りの配線を変更する。

2.第2グリッドは100オーム1WのRでプレートに繋ぐ。

3.バイアス回路のVR5Kを20KのVRに変更し、バイアス電圧を約15Vとする。

4.15V前後にならない場合は数KのRをシリーズに入れる。

5.7189のプレート電流が25mA前後になるように調整する。事前にOPT一次側端子間の直

  流抵抗を測っておき、ここの電圧を測ることによりプレート電流を算出する。


 さて、7189では第2グリッド電圧が定格を少々オーバーしてしまうのですが、7189及び

類似管の最大定格を比較してみると以下のようになります。

 6BQ5  各社(設計中心) Eb 300V Ec2 300V

 7189  各社(設計中心) Eb 400V Ec2 300V

 7189A 日立(設計最大) Eb 440V Ec2 400V

この数字を見ると定格内での動作となる球は7189Aしかないのですが、今ではこの球も入手が

困難となっています。しかし、7189と7189Aは最大定格に対するマージンの取り方により

数字が違うだけで、案外中身は同じ球という可能性もあり、少なくとも構造的にそう大きな違いは

ないと思われるので7189が使用出来ると思います。またB電圧の330Vというのは無信号時

の数字で、最大出力時には300V程度にまで低下すると考えられるので、それならば6BQ5で

も問題なく使用できるでしょう。

 ただしMT管としては極限の性能を持つために、プレート及びG2の最大損失だけは無理が利か

ないので、これは定格内に抑える必要があります。さらに今回の動作ではOPTのインピーダンス

がこれらの球の最適負荷よりも低く、大振幅時には許容損失を超えてしまうので、調整時のテスト

信号入力は連続して行わないようにするなどの注意が必要です。



本格的な改造も辞さない方には

 前章から読んでいただいた方には大分長い前置きになってしまいましたが、これからが本題の話

です。代用管の本命として挙げた6CW5をSQ−38Dで使用する為には、B電圧の高さが一番

の問題となっていて、とりわけ第2グリッド(SG)には無理な電圧になってしまうようです。そ

こで各社の規格表での最大電圧を書き出してみると

 GE(設計中心) Eb 250V Ec2 200V

 東芝(設計最大) Eb 275V Ec2 220V

 松下( ? )  Eb 250V Ec2 250V

といった具合でやはり最大SG電圧(Ec2 )が低くて、このまま三結にして300Vを掛けたの

ではSGを傷めてしまうでしょう。

 さて、今後も入手可能な6CW5は東欧諸国製が多いようで、私が入手した球もYugoslavia製

でしたが、海外製はGEの定格に準拠していると思われ、東芝もGEに準拠しているが前述のよう

に定格に対するマージンのとり方が違うのではないかと思います。松下は他社の定格とは異質なの

で除くとして、ここでは東芝発表の最大定格を参考にして検討を進めたいと思います。

 電源電圧を変えずに実質的なB電圧を下げるためには、自己バイアスにするのが確実です。また

7189の項でも述べましたが最大振幅時の電圧降下も考慮すると、計算上のB電圧は270V前

後になります。それでもまだ最大SG電圧との電圧差は50Vあるので、図1のようにツェナーを

入れて三結にする方法を考えてみました。



 これならばSG電圧も最大定格以内に納まりそ

うです。果たしてどんな特性になるのか、予想と

しては50Vずつ右にずれるのではないかと思う

のですが、電源を仮組みして大体の特性を採って

みました。ツェナー特性にムラがある為か変則的

な曲線ですが図2にグラフを示します。



  自己バイアスに変更すること

 は既定方針なので、とりあえず

 300Vのロードラインを引い

 てみたところ出力は約11Wと

 なり、これに電圧降下を計算に

 入れると当初目標とした出力に

 は及ばないようですが、最大振

 幅時以外はほぼ最大定格内に納

 まるようです。



 ということで、以上の特性をもとにして図3のような試作機を組んでみました。




   各定数はオリジナルに従ったのですが、初段

  については所定の電圧配分にならなかったので

  一部定数を変更しました。また270V巻線の

  手頃な電源トランスがなかったので、小細工を

  して所定のB電圧を得ています。この電源トラ

  ンスはもう少し電流容量に余裕のある物の方が

  良かったかも知れません。



 また括弧内の電圧は試作機での最大振幅時の電圧で、出力管6CW5に掛かる電圧関係を表にし

てみると、

B電圧カソード電位差引電圧差引SG電圧
無信号時330V約30V300V約250V
最大振幅時320V約40V280V230V


実質的な電圧は、東芝発表の最大電圧を少々オーバーしますが、さほど無理のない動作といえるで

しょう。一番気になる出力は、以下のように無歪出力8W最大出力10Wが得られました。




 当初目標とした無歪で10W以上には及ばなかったのですが、実用上、この辺りの差はほとんど

無いでしょう。低出力付近での特性が良くないのはアース処理などの配線技術の問題もあるかも知

れませんが、試作機ということで安いトランスを採用したので、磁気シールドの無いOPTが誘導

ノイズを拾ってしまったようです。

 それはさておき、この6CW5なら先の述べたように今でも東欧諸国製が入手可能ですし、また

他には適当な出力管が見当たらないという事もあって、SQ−38Dでの6R−A8の代用管には

やはり6CW5の三結が最適という結論になりました。



目次へ →