PCL86/14GW8 三結 全段差動






 前章の6BM8(16A8)での全段差動も不満

があった訳ではないのですが、近頃は球が値上

り気味なので、現在でも安く入手できるPCL

86/14GW8で組み直す事にしました。

 さらにARITOさんから広帯域を特徴とす

る新型OPTを頒布して頂いたので、その性能

を生かせるように既存のセットに改良を加えて

各定数を設定し直しました。

 なお今回のOPTは事情があってケースと中身が別々でしたので、実際の取り付けは裸の状態で

取り付けました。そんな訳で上の写真は以前に別のトランスで組み立てた時の写真で、載せ換えた

OPTが裸の状態では見た目が前と変わらないので、無精して撮り直しはしませんでした。

 さて14GW8を使うと出力管もOPTも変更となるので動作点を設計し直さなければなりませ

んが、幸いにも三結特性図がネット上に公開されているようなので、この図を元にロードラインを

引いて見たのが以下の図です。



 OPTが10kの場合のロードラインは5kΩになるのですが、動作点の電流値と最大電流とが

1:2になるポイントを探すと280V、28mAの地点が良いようです。最大電流は倍の56m

Aになり、計算上の最大出力は4W程度なりますが、グリッド電圧が−0.5V以下の領域はどう

せ使えませんので、実際の出力は4W弱になると思います。

 この動作点のグリッド電圧は約−10Vなので、電源電圧は300V以上欲しいのですが、幸い

にも野口の50Wの絶縁トランスには120Vタップが出ているので、これを倍圧整流すれば丁度

300V強のB電圧が得られます。

 つぎに前段のロードラインを引き直すのですが、この三極管ユニットが12AX7A類似の特性

なのでrpが高く高域特性が良くないので(正確には初段と出力管との段間)、高域特性の良い今

回のOPTに合わせて従来とは全く違う定数で設計し直しました。と言っても、実はぺるけさんの

受け売りで、ぺるけさんのミニワッターの記事を見ると、やはり高域特性に納得できなくて改良し

ている記事がありました。元記事はシングルアンプですが、高域の改善方法として今回のPP回路

でもそのまま応用できる優れた方法と思います。

 電源電圧は300Vですがデカップリング抵抗を入れる為に30Vほど下げて電源電圧270V

の地点から33kΩのロードラインを引くと、動作点の電流値は1.5mA程度が良さそうです。



 ただ前にも述べたようにグリッド電圧が−0.5V以下の領域は動作が怪しくなるので、電流値

はもう少し減らしても良さそうです。それに次段との合成交流抵抗値は約31kΩとなりますし、

今は計算通りの定電流素子は入手困難ですから、ここは1.5mA弱を目安としておきます。

 このように言うといい加減に聞こえますが、出力管の感度が良いのでドライブ段の実際の振幅は

ロードラインの末端まで大きく振れる事はないのです。

 そのようにして決めたのが以下の回路です。


 基本的な構成は前章のセットと変りませんが、OPTに合わせて定数を変更し、またヒーターは

14Vで、ヒータートランスにも丁度良い容量のものが無く、余分な大きさになるのを嫌って直列

コンデンサー点火としています。この点火方法の注意点としては、交流なのでフィルムコンなど無

極性のものを使う事と、地域の電源周波数により定数の変更が必要になります。


 製作のポイントとしては

1.本機に採用したOPTはARITOさんが立ち上げたARITO's Audio Labから発売されるトラン

  スで、詳細についてはARITO's Audio Labのページをご覧下さい。先にも触れましたが、

  この新型トランスは低域も高域も良く伸びた広帯域特性となっていて、当機もこのトランスに

  合わせて設計し直したので、この回路で追試をする場合にはDE-10K7Wを使用した方が

  好結果が得られると思います。

2.ヒーターの点火は4本直列でのコンデンサー点火としています。「フィルムコンデンサー、

  50Hz地域 250V 10+1.5μF、60Hz地域 250V 4.7+4.7μF」ですが、もし予算に余裕があるよう

  なら、電源トランスに春日のKmB250F2を使えば14V巻き線がありますし、デザイン的に

  も角形ケース入りの今回のOPTとマッチした、格好良いアンプに仕上がると思います。その

  場合は230V端子をブリッジ整流すれば、当機と同様にDC300Vが得られます。

3.初段のCRDは電流値が2.6mA〜3mAになるものを選別して下さい。またはIdssが

  この範囲に収まるFETを使っても良く、私は2SK30GRを選別して使いました。

4.出力管のDCバランスは、プレート電圧が上下同じになる様に20KBのボリュームで調節し

  ます。どの位置に回しても同じにならない場合は、上下の球を入れ替えて見て下さい。それで

  も揃わない場合は、上下左右の4本を色々組み合わせて近くなるようにして下さい。

5.今回使用したPCL86は感度が良い所為か全段差動では非常に発振し易く、私のセットでも

  案の定発振してしまいました。そこで色々と試してみたのですが、結局はLM317にCを抱

  かせる事でようやく発振を止める事が出来ました。初段プレートにも小容量のCを入れていま

  すが、この方法だけだと、カットオフが可聴帯域内になるまで容量を増やさなければ止まりま

  せんでした。


 諸 特 性


 気になる最大出力は予想どう 

り大幅UPのノンクリップ出力 

3.8Wが得られました。さら 

に各曲線もよく揃っているので 

すが、不思議な事に低出力側が 

ほぼ水平になっていて、ノイズ 

の影響が見られないのです。  



最大出力3.8W THD 2.9%

利得 16.4dB(6.6倍) 1kHz

NFB 5.1dB

DF=3.6 on-off法1kHz 1V

残留ノイズ 0.25mV





 つぎに周波数特性としては、以下のような素直な特性になりました。すでに述べたように前段が

12AX7類似なので、本来なら高域が早々に減衰するのですが、本機では改良の成果とOPTの

性能が相まって100kHz近くまで伸びていて、最終的に10Hz〜92kHz/−3dBという特性

になりました。それも途中に山谷のない素直な特性で、これ以上の補正は必要ありませんでした。





 当初は発振したりしたので高域の安定度を確認する為に方形波応答も観測したのですが、補正の

Cがよく効いているようで、またOPTの素直な特性を反映して綺麗な波形となっています。




 既に何度も述べていますが、今回の14GW8での高域発振はかなり手ごわくLM317にCを

抱かせる方法以外では、たとえ止まっても、カットオフが下がって使い物にはなりませんでした。

一方で、このように定電流素子にCを入れると、差動動作では無くただのA級動作となるのですが

どの辺りの周波数がその分かれ目になるのか気になるところです。そこで上記の歪率カーブの他に

正弦波を入れて、クリップ付近での波形の変化も見てみたのですが、やはり10kHzまでは差動

らしい頭の潰れ方でしたので、肝心な可聴帯域は問題なく差動動作をしているようです。



 雑  感

 前章の16A8の場合も同様だったのですが、三極五極の複合管で全段差動を組むと高域発振を

起こし易いのは、両ユニット間のシールドが五極管ユニットのカソードに繋がっている為で、その

カソードがアースから浮いてしまう差動アンプでは、シールドの役目を果たせなくなるからです。

 それで初期のセットでは補正Cをべたべたと付けて発振を止めていたのですが、本機では上記の

ように高域特性を損なう事なく発振を防止し、また定数見直しにより有効に高域を伸ばす事が出来

ました。冒頭では「前章のアンプも不満があった訳ではない」と書きましたが、新型OPTを搭載

した今回のアンプをじっくり聴いていると、東栄のOPTを使った前章のアンプよりも音のレベル

が数段上がったように聴こえます。どちらのアンプも使用した真空管は能力的に大きな差はないの

で、やはりOPTの違いが大きいようです。