7591三結 3Wシングルアンプ





 前章の14GW8三結シングルアンプも

音は良かったのですが、複合管という事も

あって出力的には2W止まりでした。しか

し往年の名出力管2A3、6R−A8、6

GA4等の三極管は、全てシングル動作で

3Wオーバーの出力が得られましたし、今

回は中級編という事もあるので、本機でも

三極管または五極管の三結シングル動作で

出力3Wを目指す事にしました。

 そこで様々な出力管の特性を比べてみたのですが、ARITOさんの新型OPTと組み合わせる事が前提

なので、大型出力管では視覚的にも容量的にもバランスが悪く、現在も入手可能なMT管か小型GT管の中

から探してみたら、旧東欧諸国製などの流通がある7591の三結動作が良さそうでした。

 この7591は特性的には6BQ5に近く、大きさは6F6や6V6GTとほぼ同じ大きさの小型GT管

ですが、最大定格はこれらの球より一回り大きくて、PP動作にすると倍以上の出力が得られるようです。

ただデータシートを見ると、三結のプレート特性図は載っているのに動作例は記述が無く、その所為か過去

の作例でも三結シングルアンプの製作例は見当たりませんでした。それでも試しにロードラインを引いてみ

たら、出力3W程度なら無理なく得られそうです。




 7591三結時の最大定格は、どの社のデータシートを見ても記述が無いのですが、ネイティブ動作時の

最大定格から考えて最大プレート損失19W、最大プレート電圧450V程度になると思われます。なので

プレート電圧を400V程度に上げた方が出力増が見込めるのですが、高電圧巻き線のある電源トランスは

大概は大型になるので、適正な容量の電源トランスから選ぼうとすると電源電圧が思ったようには上がらな

くて、出力管に掛かる電圧は図のような電圧となってしまいました。また、その出力管周りの回路は、音が

良かった前章の回路を踏襲して定電流素子によるカソードバイアスとしています。

 一方、ドライブ段は感度の良い出力管の特性を生かして一段で済ませましたが、低インピーダンスドライ

ブと高利得が両立でき、さらにセンターシールドがあって、双三極管の両ユニットを左右に振り分けて使っ

てもクロストークの劣化が少ない6AQ8を使っています。おかげでこの球の一段で、NFBに回すだけの

利得が稼げました。

 さらに電源ですが、前章同様にバイポーラ素子によるリップルフィルターを入れています。少々面倒です

が、出力段に出力ループショートカット用の電解コンデンサーを入れると、電源リップルの影響を受けやす

くなり、どうしてもこのようなリップルフィルターか平滑用チョークコイルが必要になるのです。

 という訳で以下のような回路になりました。






  製作のポイントとしては

1.本機に使ったOPTは前章同様にARITOs Audio Labから発売された新型トランスで、重複するので説明は

  省きますが、出力が上がっても低域の伝送能力が低下しなかったのは特筆ものと思います。さらに高域も

  前章同様に素直に伸びていて、本機でもOPTの特性が上手く引き出せたと思います。

   さらなる概要についてはARITO's Audio Labのページを参照して下さい。

2.電源回路について、本機はシャーシ上の視覚的バランスを考えて電源トランスを選んだので、B電圧が足

  りずヒーター巻き線を倍圧整流して電圧を嵩上げするなど、少々複雑な電源回路になってしまいました。

  そこでゼネラルトランス(旧ノグチトランス)のPMC−150Mを使えば図のように簡潔になるので、

  ついでに平滑回路もチョーク式の方が楽で良いと思います。

   という事で、以下のような電源回路にすれば良いと思います。


3.出力段カソードの定電流回路は、簡略化するのならば「560Ω2Wの抵抗」で代用できますが、特性と

  してはやや劣る事になってしまいます。バイアスの浅い出力管の場合は、ここを定電流化する効果は大き

  く、念の為にLM317の場合の回路も紹介しておきます。今回は特に出力に拘ったのですが、その最大

  出力付近の特性が抵抗だけの場合と比べて改善されているように思います。


   なお本機では5Vの小電流用レギュレーター78M05を使ってみました。前章では78M05や78L05等の小

  電流用を使うとノイズが多いと書いたのですが、手元には78M05がごろごろしているので、果たしてどう

  なるか試しに使ってみました。結果はノイズはあまり気になりませんでした。信号レベルの大きい出力段

  という事と、並列に電解コンが入っているので、ほとんどノイズの影響を受けなかったようです。

  そのレギュレーターですが、今回は電流電圧共に増えているので放熱対策をして下さい。

4.平滑チョークを使わずにリップルフィルターとした場合、本機は前章の回路と違って電流が増えて半導体

  がかなり発熱しますので、こちらもシャーシに貼り付ける等の放熱対策をして下さい。



諸 特 性


 気になる最大出力は当初の目標通

り3W強の出力が得られました。中

域はクリップポイントまでほぼ直線

で伸びているのですが、低域はシン

グル方式なので少し早めにクリップ

しています。

 なお今回も前章と同様に無歪出力

(ノンクリップ出力)と歪率5%時

の最大出力とを併記としました。


利得 14.8 dB (5.5倍)

NFB 8.0 dB (2.5倍)

DF= 5 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力3.1W THD 3.6%/1kHz

最大出力3.4W THD 5%/1kHz

残留ノイズ 0.40mV




 次に周波数特性ですが、広帯域で綺麗な高域特性を見せていて、前章の特性図と間違いそうなほどよく

似たカーブを描いています。低帰還アンプで高域を伸ばす為にはOPTの良好な特性とドライブ管の出力

インピーダンスを下げる事ですが、OPTの特性は前章で実証済で、今回は前段に使った6AQ8が良い

仕事をしてくれたようです。最終的に10〜100kHz/−3dBの特性が得られました。




 最後に高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見たのですが、負荷開放でも波形変化は少なく、全く

安定しています。元より補正は念頭にありませんでしたが、これを見ても全く必要ないです。


 この7591はいくつかのバリエーションがあって7591はGT管で、7868はマグノーバル管とな

り、さらに9T9管の6GM5があり、どれも同定格同特性の真空管です。これらの球は一説には6BQ5

の発展形の出力管とも言われ、6BQ5三結時のプレート特性図と見比べてみると確かによく似た特性を示

しています。となると、今回の動作は同じく6BQ5の発展形MT管である7189Aの定格内に納まるの

で、ついでに試してみようかとも思ったのですが、7189Aは製造された期間が短く現在ではまず入手不

可能と思われます。手元には何本かあったのですが、入手困難な球では作例としては相応しくないので今回

は見送る事にしました。

 また前段に使った6AQ8も今では希少になっていますが、先にも触れたように新型OPTの特性を生か

す為にはベストな球ですし、この球は類似管が無いので是非とも入手して頂きたいと思います。ただ、どう

しても入手困難な場合は何とか6BQ7が使えように思いますが、周辺の定数は変更が必要で、またゲイン

も下がってしまうので、NF量を減らす事になり仕上がり帯域が変わるかも知れません。



 後  記

 この7591が開発された当時の出力管は、6V6、6F6、6BQ5等のPPで15Wクラスの小型出

力管と、50W以上出せる6L6GC、6CA7、KT88等の大型出力管の二極構造になっていて、その

中間の30W程度を守備範囲とする出力管はなく、上記のような大型管を軽く使うしかありませんでした。

そこで、空白となっていた出力範囲の需要をカバーする為に7591が開発されたと言われています。さら

に当時はまだ2A3などの古典三極管も出回っていましたから、7591を三結にして使う事はあまり想定

されず、ネイティブ動作のPPアンプとして出力30W程度の要望に応える、という事が重要視されていた

ようです。それが先に触れた三結の動作例が無かった理由ではないかと思います。

 それで回路設計を始める前に諸先輩方の作例が無いかとネット検索を掛けてみたところ、三結PPアンプ

の作例は数点ありましたが、三結シングルアンプの作例は皆無でした。シングルアンプの場合は、動作点を

適切に選ばなければ出力が取れない、というのが敬遠されたのかも知れません。それでも今回のアンプを組

んで見て、手前味噌ですが実に良さげな特性が得られたので、新たな発見が出来たように思います。

 古い話が続いて恐縮ですが、私の学生時代に手の届く出力管はせいぜい6BQ5等の小型五極管で、6R

A8等のオーディオ用三極管は高嶺の花でした。そして社会人になって真空管の「大人買い」が出来る頃に

なると、大型出力管に興味が移ってしまい小型三極出力管は買いそびれたまま、いつしか市場から姿を消し

ていました。そのような訳で、私にとって6R−A8や6G−A4等の小型三極出力管は特別な感慨を持つ

球で、せめて代替となるような球はないかと探していたのでした。今回のアンプで得られた性能は、そんな

長年の思いに一つの答えが出せたように思います。





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