6AB8ULPP ミニアンプ






 このアンプのテーマは”夏でも涼しげな

真空管アンプ”というものです。今回使用

する6AB8欧州名ECL80という球の

一番の特徴は、片ユニットが出力管となる

3極5極の複合管なのに、ヒーター電力が

6.3V0.3Aと電圧増幅管並みの小電力

で済む事です。本機はこの省電力を生かし

さらには涼しげな色使いと合わせて、夏向

きのアンプとして組んでました。

 この6AB8は、両ユニットのカソードが共通になっていて、おそらく一本のヒーターで共通カソード

を点火する事により、省電力ヒーターを実現したのではないかと思います。しかし、本来は小型テレビの

音声出力用として開発された球で、動作例にしてもA級シングル動作しか発表されていませんし、出力管

ユニットがA級動作となる時に、三極管ユニットのバイアスも丁度合うようになっています。このように

PPでの使用は考慮されていないのでAB級PPで使用する為には少々面倒な工夫が要りますが、省電力

の特徴を生かすべく、あえてAB級PPとしてみました。

 回路の工夫としては、位相反転にもオーバーオールの負帰還にもカソードが使えないので、位相反転は

昔懐かしいオートバランス型とし負帰還はグリッドに戻すようにしました。この位相反転方式は初段上側

の出力を分圧して下側に送り、下側はPG帰還で利得を下げる事により上下の出力電圧を合わせるという

ものです。一方で、カソード抵抗は初段の動作点が最適になるような値を選び、出力段にはC電圧を別に

供給してカソード電位と合わせて出力管のバイアス電圧とする事で(折衷バイアス?)、AB級動作とし

ています。またKNFも使えないので、ARITOさんのご好意で特製のULタップ付チョロQトランス

を巻いて頂きました。


 両ユニットとも低感度な特性のユニットなのに初段グリッドにパラ止め抵抗を入れてあるのは、どうも

高域が不安定気味だったからで、NFは少ないのですが念の為にゾベル補正も入れています。さらに低域

の安定度にも難があったので、カソードのパスコン容量も増やしました。・・・注



 諸 特 性

 まずは周波数特性ですが、ULに利得を取られた関係でオーバーオール帰還に回す利得が取れず、高域

特性はあまり伸びていません。また一カ所ディップがあるのですが、6AB8を強引にPPにした影響の

ようです。というのも今回のOPT単体の測定データでは、さほど大きなディップは見られなかったのと

補正を掛けるとディップの周波数が下がってくるので、OPTだけの特性とは思えないからです。これの

対処は既述のようにOPT2次側にゾベル補正を入れてみました。



 方形波応答では大した問題がないので、ゾベル補正も5Ω+0.1μと控えめです。元々のNF量が少

ない為に高域もあまり伸びてないので、補正後の波形もほとんど変わりません。なお、写真には撮ってい

ないのですが、負荷解放でも全く安定しています。



 最後に歪率特性で、高域の特性が悪いのは回路がオートバランスの所為もあると思うのですが、信号の

飛びつきもあるようで、ゾベル補正を入れると無補正時よりも歪みが少なくなりました。一方で最大出力

が思ったほど取れないのは出力管がUL動作となっている為で、数値的には高域の歪みが多めですが実際

の高音はさほど耳に付く音ではないようです。



 上記のようにPPアンプに 

しては歪率が良くないのです 

が、現状でも最終利得が9.8

dBしかないので、これ以上 

のNFは掛けられないのが辛 

いところです。



無歪出力2.8W THD 1.7%

NFB 約3.2dB

DF=1.1 on-off法1kHz 1V

利得 9.8dB(3.1倍) 1kHz



注・・・当初は、何かの拍子にボコボコと超低域発振を起こしてしまうのですが、これは前段と終段の両

 カソードが共通なので、カソード・パスコンの時定数より低い周波数では、前後の信号が筒抜けになる

 からです。これを止めるのには段間の低域カットオフを上げるしかないのですが、色々試してみた結果

 カソードの時定数を段間のカットオフより10倍以上低く設定すれば、発振する事なく安定して動作す

 るようでした。


 雑  感

 暑苦しい夏場でも気持ち良く使える球アンプが欲しいという事で、省エネ最優先で作って見たのですが

こうして出来上がった後の回路図を見ると、小出力にしては部品点数が多いなあという感想です。半導体

アンプなら部品点数の多いのは当たり前でしょうが、真空管アンプは少ない部品で動作するのが特徴なの

で、これは短所というべきかも知れません。一方で、出力管には6AK6を使い、前段はFETで、それ

もカスコード接続で耐圧を上げるのではなく、専用の低電圧を用意して単純な差動アンプとしてドライブ

したら、簡単に省エネアンプが出来たのではないかと思うのですが、それなら全部石にすればもっと簡単

に省エネアンプになるのに、と言う声が聞こえてきそうで、趣味の世界という小さなコップの中の、球へ

の拘りと省エネという時代の要請との狭間で、他愛も無く迷っています。





 初段をFET差動に変更


 上記のような思いもあって、当初は半導体を使いたくなかったのですが、6AB8の性質上どうしても

利得が稼げず音的にも満足出来なかったので、思い切って三極管ユニットは切り捨ててFETとのハイブ

リッドアンプに変更してみました。使わない三極管ユニットは悪さをしないように接地して、前段は利得

の取れるK170で充分な利得を稼いでいます。ただ負帰還量が増えて補正が必要になり、案の定、部品

点数が増えてしまいましたが、回路としては以下のようになりました。


 初段の電源はヒーター巻線からの半波倍圧整流で得ているのでリップルが取り切れないのですが、差動

動作の利点で初段がリップルを拾う事は無いようです。このFETはやはり特性の揃ったのを選別した方

が良いですが、真空管の方は揃った球は手に入りませんから、最終的に出力管のカソード電圧が揃うよう

に、現物合わせで差し替えて揃えるようにしました。また初段が別電源になり低域信号が回りこむ心配は

ないので、出力管カソードパスコンの容量を減らしました。また以前は出力段にマイナス電源のバイアス

も掛けていましたが、バイアスが浅いほうが特性が良くなるようなので、出力段はカソードバイアスのみ

としています。



 諸 特 性

 まずは歪率特性で、以前は 

高域の特性がやや悪かったの 

ですが、改良後はよく揃って 

います。ただ低域がやや揃わ 

ないのですが、これはDCバ 

ランスを厳密にとれば改善で 

きると思います。本機のOP 

Tは小型なので、この程度の 

特性なら良しとしました。


利得 5.0倍/14 dB 1kHz

NFB 約14.4dB

DF=6.7 on-off法1kHz 1V

無歪出力2.2W THD 1.8%

残留ノイズ 0.40mV



 次ぎに周波数特性ですが、補正を掛けないと高域の90kHz付近でピークを生じていたので補正を

掛けたところ、完全に均すことが出来ました。そして補正後でも−3dBの値で10Hz〜95kHz

という好ましい特性が得られました。



 方形波応答では急峻な落ち込みの所為か小さなリギングが見られ、負荷開放ではさらに目立つのです

が、不安定になる程ではなく至って安定しています。



 雑  感

 最近の時代の要請なのか全段差動のミニワッターも発表されていますが、さらに省エネ最優先という事

で能率の良い五極管のAB級動作に拘って作って見たのですが、当初はもう一つ満足のいく音が得られま

せんでした。やはり五極管の場合は、ULやKNFを掛けていても更にある程度の負帰還が不可欠なのか

も知れません。しかし改良後は負帰還に回す利得も得られたので、自画自賛になりますが盛夏のBGM用

として及第点が付けられるのではないかと思います。