晴耕庵の談話室

NO.65



標題:「700年かけたスコッツ「自治」の願い」へのコメント(2)

COMMENT

2001/6/7

ロンドン憶良様

コメントA========================
さらにこの議会は3パーセントのtartan tax(一種の所得税)課税権を
与えられ財源を持つとのことです。
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Tartan taxという表現は、自治に反対する唯一の政党だった保守党が、
「自治を認めればスコットランドは増税に苦しむ」というキャンペーンの
一環として作った言葉ですが、実際にはそういう税金があるわけではあ
りません。

スコットランド政府の予算はUK政府が細目無規定でスコットランドに
一定額を割り当て、その枠内で自治政府が配分の詳細を決めます。
3%の所得税収入がスコットランド政府の自由になるということではない
のです。
スコットランドへの予算枠割り当ては、自治以前から「バーネット計算式」
というものを使って決められており、現在もこれが継承されています。
つまり、予算枠は基本的に変わらず、その使い方を決めるのがスコット
ランド省からスコットランド議会に変わったわけです。
このバーネット式を今後も使い続けるのかどうかという議論は何度も出
ていますが、これまでのところ労働党政府は現状維持の構えです。

なお、スコットランド自治議会の課税権とは、具体的には所得税率を
上下3%の範囲内で調整する権限です。従って、例えば現在イギリス
の標準税率は20%ですが、スコットランド議会はこれを17〜23%に変え
る権限を持つということであり、増税だけでなく減税もあり得るということ
になります。この調整による税収の増減はもちろん上記のスコットランド
予算枠に反映させることになります。

実際には現在UK政府とスコットランド政府がどちらも労働党政権(スコ
ットランドでは連立)であることもあって、この権限はこれまでのところ発
動されていません。
しかし、スコットランドでは労働党が過半数割れのため政策決定がUK
議会ほど自由にならないことや、スコットランド議会がUK議会とちがっ
て委員会主導であることから、労働党としてはあまり歓迎できない政策も、
次第にスコットランド議会を通過しつつあります。例えば老人ケアや教師
数拡大政策では、スコットランドはイングランドにやっかまれるような決議
を通過させており、自治による差が次第に生まれてきています。今後UK
に保守党政権が返り咲くか、スコットランド議会にSNP政権が誕生すれ
ば、UK・スコットランド両内閣の方針のギャップが大きくなり、スコットラン
ド議会が課税権を発動するという事態が来ることは充分に考えられます
(SNP政権が誕生したら、課税権よりも独立への動きが始まる可能性の
方が高いですが)。

長いメールになってしまい申し訳ありません。

スコットランド議会は、圧倒的多数の労働党が思うままに動かせるUK議
会とはずいぶん雰囲気が違い、傍観者としては非常に面白いです。
今後の自治の行方が注目されます。

なお、私のホームページのアドレスが変わりました
新アドレスは、
"Scotland is for Life"(住んでみたスコットランド)

です。今後ともよろしくお願いします。

YH(in Scotland)


2001/7/9



YH様

スコットランド自治議会の課税権につき詳細なご説明ありがとうございました。
Tartan tax という表現で紹介されていた某紙の記事を信用したのですが、
これを鵜呑みにしたのが間違いでした。

ウェールズの自治の場合にこのような課税権の報道がなかったので、気には
なっていたのですが、うかつにも「タータン」に釣られました。

原稿を修正して掲載しましたのでご覧下さい。


                                ロンドン憶良




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