晴耕庵の談話室

NO.58



QUESTION

2000/12/14

標題:フットボールを通して世界情勢を読む!


ロンドン憶良様


はじめまして、1イングランド.フットボールファンの"tk"です。

yahooの掲示板にサッカーのイギリス代表の是非についてのトビが
できており、そこにあなたのサイトで、イギリス(正式にはこの名前の
国は存在しないのでしょうが)について勉強するようにとリンクがあり
ました。

まだすべて読破したわけではないですけど、扱う題材も興味深いも
のが多く、文章も読みやすく、挿入されているイラストの楽しさも相ま
って、面白おかしく勉強させてもらいました。

ところで本題のイギリス代表の件についての質問ですけど、

>でも欧州でのサッカーやラグビーでは、ウェールズ、イングランド、
>スコットランド、北アイルランドが一つの国として取り扱われている
のです。

との文章を目にしたのですが、私の裏覚えの知識では確かラグビー
で、アイルランド協会に関しては南北で統一されていたのではない
でしょうか。

あと、サッカー代表に関しては、イングランド人にとってスコットランド、
ウェールズ、アイルランド代表は”まあ、おまえらも頑張れよ”程度な
のにたいして、その反対では、”打倒イングランド”といったように温
度差が見られる、といった文章を以前目にしたことがあるのですが、
実際のところどうなんでしょうか。

もう一つ素朴な疑問として、マン島はどこに帰属するのでしょうか、
たとえば、この島出身で代表クラスの選手が存在した場合、どこの
代表に組み込まれるのでしょうか。

最近のイングランド代表の低迷ぶりにぷっつんしたイギリス政府の
閣僚がイギリス代表を示唆して各方面から総すかんを食らったみた
いですね。

もっぱらイングランド代表ファンの間では、深刻な人材不足の左サイ
ドにウェールズ人のスーパースターGiggsさえいてくれれば何とかな
るのに、といって悔しがっています。永久にたら、ればですね、実現
するはずないから。

ただ今のイングランドは世界的にも非常に多くのタレントが存在おり、
今まで無能なイングランド人監督がそれを活かせなかっただけだと
思います。

ところで、イングランド.フットボールの歴史をひも解くと、スコットラン
ドが非常に多くの優秀な指導者を輩出しているのに目がつきます。
スコットランド人にはクリエイティブな血が流れているのでしょうか。
実は隠れスコットランド代表ファンだったりして(別に隠れとく必要な
いんですが、日本では究極のマイノリティーです)。

いきなり愚問を連発して非常に恐縮ですが、自称、アマチュア・サッ
カー文化人類学者?(サッカーを通して世界情勢を読む!)のTKの
もやもやを晴らしてください、お願いします。

                                      TK


ANSWER

2000.12.15

TKさん

メールありがとうございました。

1  ラグビーのアイルランド代表

Q
確かラグビーで、アイルランド協会に関しては南北で統一されていた
のではないでしょうか。

A
「北アイルランドが一つの国」は記述が不完全でした。
『北アイルランドとアイルランド共和国が一つの国』と訂正します。

この機会にラグビーについて少し調べてみますと、、アイルランドでは
1874年から1879年に二つの協会がありました。

現在のアイルランド共和国の地域が主となるThe Irish Football Union
と北部の The Northern Football Union of Irelandでした。

この二つの協会は、1875年にイングランドと初めて国際試合をする
時に、IFTから12名、NFUIから8名の選手を出しています。

1879年二つの協会は統合し、アイルランド・ラグビー・フットボ−ル・
ユニオンThe Ireland Rubgy Football Union が誕生しています。

政治では二つに分かれていても、スポーツではアイルランド代表とし
てまとまるのは結構なことです。


2 ”打倒イングランド”の雰囲気

Q
”打倒イングランド”といったように温度差が見られる、といった文章を
以前目にしたことがあるのですが実際のところどうなんでしょうか。

A
UKの歴史は征服者のイングランドと、被征服者のスコットランド、ウェ
ールズ、アイルランドの抗争の歴史です。
人口もイングランドが桁違いに多いので、ケルト民族の”打倒イング
ランド”(アングロサクソン)の気概はあらゆることにみられます。

イングランド          4、895万人(1995)
スコットランド           514万人(1995)
ウェールズ            292万人(1995)
北アイルランド          164万人(1994)
アイルランド共和国       359万人(1996)

スポーツではありませんが、イングランドの大銀行NATWESTの買
収にスコットランドの銀行二つが名乗りをあげたこともこの気概の一
例でしょう。

こうした緊張感が、微温湯でない政治感覚や、スコットランドやウェー
ルズ国民に対する英国王室の気配りや、ラグビー、サッカーなどの
競技で切磋琢磨のファイティング・スピリッツを呼ぶのではないかと
思います。


3 マン島

Q
もう一つ素朴な疑問として、マン島はどこに帰属するのでしょうか、
たとえば、この島出身で代表クラスの選手が存在した場合、どこの代
表に組み込まれるのでしょうか。

A
マン島は古くからノルウェー・ヴァイキングが侵略していましたが、
1266年にノルウェーからスコットランドに売却されました。その後エド
ワード3世の時イングランド領となり、数代貴族が所領し、1765年以
降王室付属地となっています。
つまりジャージ・ガンジー島と同様女王の島です。
英国政府とは別の議会など持つ自治領です。

したがって、この島の選手は、王室のあるイングランドに参加すると思
います。


4 優秀な指導者

Q
スコットランドが非常に多くの優秀な指導者を輩出している。
スコットランド人にはクリエイティブな血が流れているのでしょうか

A
私は特別ラグビーやサッカーに詳しいわけではありませんが、スコッ
トランドは古く中世からフランスと同盟してイングランドに対抗してき
た歴史があります。
文化や芸術、宗教、学問の水準も高いので、スポーツで優れた指導
者がでてもおかしくないと思います。


                                ロンドン憶良


UNDERSTOOD

2000.12.16

ロンドン憶良様、


早速の返答ありがとうございました。大変参考になりました。


>政治では二つに分かれていても、スポーツでは
>アイルランド代表としてまとまるのは結構なことです。

やっぱりそうでしたか、ラグビーのワールドカップでは第2、3回大会
で、日本はアイルランドと対戦している(それぞれ16-32、28-50のス
コアで日本の負け)のに、日本のメディアがアイルランド協会のこの
ような歴史的背景について紹介しているのをほとんど見かけたこと
がありません(非常に素晴らしいことのように思えるのですが)。
そもそも日本では、北アイルランド問題への関心なんて皆無ですが。

(実際は4回中2回しか対戦していませんでした。5カ国対抗でも低
迷が続くアイルランドですが、それ以上に日本の弱体化は深刻です。)


>したがって、マン島の選手は、王室のあるイングランドに参加すると
思います。

やっぱりイングランド代表になりますか。でも今まで聞いたことのない
ことからこの島出身の代表選手は存在しないのでしょうか。
以前、Matt Le TissierとGraeme Le Sauxの二名のチャネル諸島出身
の選手が代表に選ばれ話題になったことがあります。

二人ともイングランド人離れしたスキルとセンスを持ち合わせていた
(なおかつサッカー以外のところでよく話題を提供する問題児?)好選
手でした(まだ現役ですがちょっと過去形が入ってます)。

チャネル諸島の場合は地理的にイングランドがいちばん近い(もっとも
フランスの方が近いが)のであまり違和感感じませんでしたが。ただ二
人とも若くから注目されていたのに、なかなか選ばれませんでした
(まあ当時の代表監督がスキルよりパワー重視だったからしょうがない
けど)。

>スコットランドは古く中世から>フランスと同盟してイングランドに対抗
>してきた歴史があります。文化や芸術、宗教、学問の水準も高いの
>で、スポーツで優れた指導者がでてもおかしくないと思います。

スポーツ指導者以外にも、たとえばポップミュージックなどでも、ロンドン
などの軽薄なポップス(暴言?)に対し、スコットランド出身者には、アメ
リカの黒人、白人のルーツ音楽の影響を受けた渋い音楽をやる人が多
いです。自分の趣味とあっているだけかもしれないですけど。

以上、長くなってしまいましたが重ね重ねお礼申し上げます。
ますますのサイトの充実期待しています。

                                      TK



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