ロンドン憶良見聞録

芝刈は旦那の仕事



日本人ビジネスマンを上得意としているアッシュモア不動産に、アボッ
ツ・ガーデンの貸家を案内された時、憶良氏は静かな環境が何よりも
気に入った。

アボッツ・ガーデンは、陸上競技場のトラックのような楕円形の環状道
路に沿って家が立っている。このサークルの一ヶ所だけが外の大通り
との出入り口になっている。
住民に無関係な人や車が通り抜け出来ない住宅街のたたずまいには、
なんとなく品の良い、落ち着きがある。



「どうですか、いい環境でしょう。お子たちが外でのびのび遊べますよ。
こういう場所はなかなか空き家が出ないんですよ。シティにどんどん外
国の銀行が来ているでしょう。需要が多くてね」
確かに家賃は年々上がっている。アッシュモア不動産はなかなか商売
が上手い。
「とても気に入ったよ。すぐ決めよう」

借家契約を開けてみると、最後に特約条項がタイプされている。
「読んでお分かりの通り、特約は芝生をきちんと手入れすることと、生け
垣をきれいに刈り込むことの二つです。特にこの地区一帯は塀は禁止
され、住民が芝生の庭や生け垣を共同の景観として大事にしています
から、店子さんもよろしく協力をお願いしますよ」



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