ロンドン憶良見聞録

君はイストか、アーなのか



ロンドンに進出している日本の都銀・信託22行の支店・事務所は、内地
での銀行間の激しい競争とはいささか趣を異にし、仲良く競争していた。
「仲良く競争なんて、そんな馬鹿な、読者をなめるな」とおっしゃる方々も、
ちょっと憶良氏に耳を、いや目を貸して、もう少し読んでほしい。

日本では、融資(貸金)の話はできるだけ一つの銀行で独占しようという
傾向がある。金額が大きくなく、借りる方も国内企業であれば、それでも
よかろう。
ところが国際的な規模での巨額の融資では、危険の分散と資金負担の
軽減、それに収益機会を分かち合う相互扶助の精神から、シンジケート・
ローンと呼ばれる協調融資が一般的である。おいしいお菓子を一人で食
べずに、いつも
適当に分かち合うのだ。声をかけられた相手は、自分が幹事銀行になっ
た機会に、仲間の銀行に協調融資に乗らないかと声をかける。これを
レシプロシティ(互恵主義)という。シティで長年生き延びる生活の知恵で
ある。

シティの一角にある外国銀行倶楽部で、月例の邦銀次長昼食会を終わ
った後、憶良氏は大学の先輩である芙蓉銀行の古葉氏に誘われ、ロビ
ーのソファーに移動した。

「ところで、先日〇〇銀行からインビテーション・サーキュラー(勧誘状)
が回って来たアフリカのZ国中央銀行宛のローンの件だけど、お宅はど
うするの?」
「つい昨日、例のIBSS(国際銀行夏期学校)で一緒だったNC銀のダン
に会った時の話だと、銅の生産もさることながら、政情がどうもいまひと
つ読めないと言ってましたね」
「そうだろうなあ」
「無理は出来ませんねえ」

真昼のシティでは、さりげなく情報の交換や確認が進められる。個人と
個人の人格を媒体とした信用が大事にされる。
「彼はエコノミストなの?」
「ハーバード出身の論客ですよ。若いのによく勉強してますね。将来伸
びる人物と思いますよ」


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