少女はグラマー・スクールに
(前頁より)
「学校も棲み分けのようになっていて社会的に問題ないのですかねえ?」
「この国ではどこの学校を出たということより、Oレベルをいくつ、とかA
レベルいくつとかが尺度になるんだ」
古葉先輩の説明はつづく。
「Oレベルというのは、中学の15歳の時に、いろいろな科目別に行わ
れる中等国家試験(ORDINARY LEVEL)(普通水準)に合格を意味する。
たとえばOレベルを5科目取っているとか3科目取っているということが、
求職の際に意味を持つ。
英語・数学・歴史といったものから農業・木工、音楽・料理など実学を含
め、50ほどの科目の中から自分の得意とする科目でとればよい」
「それではコンプレヘンシブ・スクールの生徒は沢山受けるでしょう?」
「ところがね、グラマー・スクールは殆ど100%近い生徒が受けるが、
総合中学では30%に満たない。労働党が頑張っても、親の心子知らず
だね」
「Aレベルとはどういう試験ですか?」
「中学を5年15歳で終了しても就職せずに、もう少し勉強したい子とか、
大学専門学校へ進学を希望する子は、6年(シクスズ・フォーム)に進む。
シクスズは高校に相当し、2年間だ」
「日本より1年短いのですね」
「でも中高一貫すれば7年だよ。問題は勉強の内容だね。日本の高校が
大学受験勉強一辺倒なのに対し、こちらのシクスズの内容は相当高い
ようだ。例えば経済学ではサミエルソンのエコノミックスがテキストらしい」
「えっ、高校で?レベルが高いんですねえ。私は大学二年の春、東京丸
善で原書を買い、辞書を引き引き読んだ懐かしい本ですけどね。16.7
歳でねえ。ショックですねえ」
「そうだろ。どの科目も日本の大学の教養課程並らしい。シクスズ二年
間は少数科目をじっくり勉強するようだ。その証拠に、大学受験資格と
もいえるAレベル、つまり上級国家試験(ADVANCED LEVEL)の合格
科目数は、よいグラマー・スクールの生徒で平均3科目前後だよ。
パブリックのトップクラスであるウェストミンスターやイートンですら平均
3.5科目だ」
「大学進学とはどう関係しますか?」
「ケンブリッジ・オックスフォードやロンドン大学は独自の入学試験を実
施する
が、受験資格としてはAレベル3・4科目それも良い成績が条件らしね。
ほかの大学は試験がない代わりに、例えばAレベル2科目、Oレベル
5科目取っていれば合格というような方法だよ」
「なるほど。それでこの国では過熱した受験競争がないのですね。
ケ大・オ大合格者、高校別個人名特集などの週刊誌を見たことはあり
ませんね」
「日本のジャーナリズムは、夏から冬までは過熱した受験教育制度を
批判しながら、春になると一斉に大学の合格者高校別特集とか個人名
特集を華々しく売り出し、受験戦争をますます煽っている。大手週刊誌
がね」
「マスコミは節操がありませんね」
「戦後の新制教育の欠陥の是正や、旧制の複線教育の長所の採用な
ど真剣に取り組む時期に来ていると思うけどね」
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