5分でまとまる国

(前頁より)



それから数ヶ月後。憶良氏は、ウイットマン氏の言葉が真実であること
を、痛烈に思い知らされた。

1973年(昭和48年)10月、第四次中東戦争が勃発した。
OAPEC(アラブ石油輸出国機構)はただちに石油の輸出をストップした。
世界経済は中東の石油に依存していたから、日本や欧州の非産油先
進工業国に与えた衝撃は大きかった。

オイル・ショック、あるいはオイル・クライシス(危機)というヘッド・ライン
が世界のテレビ・ラジオ・新聞紙面を走った。
日本列島経済沈没の噂がまことしやかにシティで囁かれた。

早速BBC(英国放送協会)テレビを通じて、英国民に対するヒース首相
の特別放送が行われた。

「親愛なる英国国民諸君!これから暫く、私の話を冷静に聞いてくださ
い。我が国は今や存亡の危機に直面しています。石油は貴重です。火
力発電に依存している我が国は、国民全員がエネルギーの節約を図ら
ねばなりません。明日からオフィスでも家庭でもむだな電気は一切使わ
ず、明かりは半分にしてください。政府を信頼しこの危機を乗り越えるた
め、全国民が協力してください」
という趣旨の大演説であった。

翌朝出勤した憶良氏は、チーフ・メッセンジャーのウイリアムが、せっせ
と蛍光灯の管を外している姿を見た。
「グッド・モーニング・サー、昨夜ヒース首相の演説を聞かれましたか」
「ああ、聞いたよ。素晴らしい演説だったね」
「それで、あっしらは早速実行してまっさ」





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