風薫り 走れタチバナ アスコット
(前頁より)
スタンドに10名あまりの公認私設馬券屋が、それぞれの予想でオッズ
を黒板に書き、客を呼んでいる。多分古くからの伝統と慣習を残して
いるのであろう。
シルクハツトの紳士の買い方を真似て、ほんの少し買ってみた。極め
て単純な単勝式である。
読者諸氏にとってみれば、橘や薫風よりも、憶良氏がどれだけ損をし
たか、あるいは儲けたか気になろう。
正直に収支決算を告白すれば、憶良氏は延べ6レースに30ポンドを
賭け、3レース当てて28ポンド回収し、2ポンド損をした。
お楽しみ賃としては安いものであった。
憶良氏と美絵夫人の熱心な応援のもとに、日本名の3頭は頑張った
が、残念ながら入賞はしなかった。最後のタチバナはオッズ20であっ
た。つまり人気がなかったので、本来ならば賭ける馬ではない。
しかし、「アスコットに走らせる樫山さんあれば、それを応援する日本
男児ここにあり、ましてやわが姓タチバナではないか」と、5ポンド賭
けて100ポンドの大穴を狙ったが、世の中そうそう問屋は卸さなかっ
た。
二人は生まれて初めて、優雅な競馬をたっぷり楽しんだ。
そして美絵夫人には洒落た帽子が、また憶良氏には、公認私設馬
券屋セブン・フォア・セブンの、カラフルな外れ馬券が、それぞれの
記念として手元に残った。
読者諸氏には、憶良氏の俳句の背景であるロイヤル・アスコットの
雰囲気を、若干なりともご理解頂けたであろう。
風薫り 走れタチバナ アスコット

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