阿 部 順 夫 ・ 資 料 集 (4)

 

1993年(平成年)

 リトルスター達の思い出とともに

                      阿部順夫

  例年にも、まして忙しく楽しい日々であった。三年目を迎えた仙台演劇案の上演作品殆どを見せていただいたからである。高校演劇二十本、アマチュア演劇六本、プロ二本というのが今回の演劇祭のラインナップ。これが九月十二日を皮切りに十一月十三日までの三か月間青年文化センターを会場に延々と繰り広げられたのだ。私の頭の中では今だにさまざまなイメージが飛び交って、その収まり場所を探しあぐねている有様である。

 絵の具箱をひっくり返したような混乱の中から一本の糸の端を見つけて、それ引っばり出して見よう。それは何年か前にさかのぽる思い出の糸だ。在仙のアマチュア劇団五つの公演はその糸につながって出てくる。私との初めての出会い、つまり彼等が高校演劇のリトルスター達だった頃の思い出と分かち難く結びついているのである。彼等にとって甚だ迷惑なことであろうが、所詮私はPTA的応援団で終始するのである。この文は、客席の暗がりから舞台に投げ上げられた小さな花束ということになろう。

 芝居小屋六面座「何見て飛んだ」 (九月十二日)は再見である。前回作品に手を加え、中盤のテンポを上げてラスト付近も見やすく工夫したようだ。上演ごとに贅肉がそがれていくのは快い。何といっても座長金野むつ江さんの演ずるお婆がみごとで、初見の際の鮮烈な感銘が今回少しも色あせていないのが嬉しかった。日本一の「ぱんつぁん」になるまでこのキャラクターを大切にみがいていってほしいと思う。常盤木学園高校時代、東北コンクールで優秀賞を得た「試行錯誤」の舞台で、宮城県民会館の観客を異常な不安とスリルに引きずりこんだ小っちゃな高校生役の彼女が、私にはダブつて見えている。

 JAプロジエクト「ロング・グッドバイ」(九月二十日)は残念ながら観る機会を逸した。ぜひ見たいと心にかけていた劇団の一つであった。関係者の労作「せんだい演劇祭通信」なる手作り新聞によれば、大きな反響を呼んだ舞台だったようで、何としてでも次の機会は逃したくないとの思いが高まる。オーーディションを中心とした新しい創造の試みが魅力である。

  劇団あんぽんたん「そしてすすきのはらで」 (十月四日)。この劇団は初見である。しかし団員は教え子などつながりの深い人が多い。代表の木村耕子さんは三女高時代に、とてもおもしろいオリジナル作品でコンクールを沸かせてくれた。少女の病気の治療にやって来た異形の者達。現実と夢、日常と非日常の交錯の中に真実の価値を求めていく姿を楽しく形象化していて、筆刀のある人だと感じさせられた。そのときの仲間達で作った劇団だという。今回の舞台はもちろん数年前の高校演劇の比ではないが、カラッと明るい軽快な舞台づくりは昔のままで好感がもてた。前作「すすきの」は見ていないのでわからないが、変に湿っぽい叙情性など持ち込まず、このさわやかなカラーを保ってほしいと思う。中学時代すでに演劇に志を立てて、私に質問満載の手紙を下さった木村さんにお答えできなかったことを後悔しつつ、手紙は今も大切にとってある。今後いっそうの活躍をお祈りしたい。

 劇団EXIT「心中天の網島92 十月十七日。旗揚げ公演をしたばかりの劇団ときく。近松物を大胆にアレンジした時代風の舞台で、私にはとても面白かった。若い劇団で着物を見せてくれたのも意外だったし、宇崎竜童の音楽とマッチしていたのも不思議だった。そして何よりも、役者達の初々しさがいい。出来たての劇団の不安の入り混じったひたむきさのようなものが私を打った。結構達者な役者はいるのである。しかし全体としてはとれたての野菜のようにみずみずしく謙虚だった。今回の掘り出し物の一つだ。後続の舞台を楽しみしたい。

 未来樹ンアター「みどりの想い」 (十月三十一日)は女性だけのキャストによる劇団だという。これも私には初見だった。二女高出身者を中心に数年前から活躍していたことは知っていた。作・演出の文月奈緒子(三浦尚子)さんは新しい世代を代表する第一線の働き手である。舞台の裏にも表にも強く、役者もこなす。夫君は翔王シアターの代表者で、彼女は複数の劇団公演に関わらざるを得ない。その多忙さの中からこんな美しい作品を生み出していたことに改めて感動を深くした。劇団青い鳥ばりではあるが、少女らしい感性がよく伝わってくるのである。ミステリアスな構成も面白く、少女みどりの不可思議さもよく出ていて、少女期自体の持つ謎めいた美しさをかもし出していた。舞台転換やテンポにさらにエ未を加えて磨きあげれば、仙台を代表する舞台になるのではないか。書き手文月奈緒子のいっそうの精進と筆を荒らさぬ賢明さとを期待してやまない。

 青年文化センターという一級品の施設を創造の場として若者達が自由に発表できるこ仙台演劇祭が、さらに広い観客に支えられていっそう充実した市民の祭となるよう希望してやまない。

宮城県高等学校文化連盟十周年記念誌演劇専門部資料
        Cue 第5巻(仙台市の文化誌) 

 

1992年(平成4年)

 高校演劇について

                       阿部順夫
 仙台市高校演劇祭は、昭和四十三年、仙台市公民館の主催で始められました。当初は12、3校のみの参加で、「未来の仙台市民を育成する」という大きな目的には程遠い感じでしたが、23年経った現在、この演劇祭から巣立った高校生達が地域の演劇活動の中心となって活躍しているのを見ると、その成果が着実に実を結んでいることが分かり嬉しい限りです。
 近年、「いま高校演劇が面白い」ということで、演劇専門誌が特集を組んだり、マスコミでも大きく取り上げられたりすることが多くなりました。東京・大阪などの大都市では国や企業が高校演劇に会場を提供して、皆が高校演劇を見る機会を増やそうという動きが急です。今夏も国立劇場とグローブ座で高校演劇フェスティバルが開かれ、多くの観客を集めました。NHKも全国放送をはじめています。
 このような「高校演劇ブーム」とも言える現象は、やがて全国に広がるでしょう。プロの舞台からは得られない純粋な感動がそこにはあるからです。ちょうどそれは高校野球の魅力に似ています。その一方、高校演劇の教育的効果の大きさについても、学者・専門家の間の高い評価を得つつあります。人格形成を培う点で優れた実践的方法を持っているというのです。
 何はともあれ、六十分という枠の中に込められた若さと情熱のメッセージを充分にお楽しみ下さい。そしてその感動を一人でも多くの人にお伝えいただきたいのです。この演劇祭を23年も前に始められた関係者の先見の明に感謝しつつ、その舞台成果を市民の皆様と分かち合いたいと思うからです。

宮城県高等学校文化連盟十周年記念誌演劇専門部資料
        仙台演劇祭91 
「演劇祭通信」vol 1