キャリィ・オン A      

   そこに突然男が入ってくる。
   この男は「父」である。
何ってことって言われてもなあ。
全員 !?
父さん!?
コンバンハって言っただけなんだよ。
違うんですよ、父さん。
違う?
次女 フフフフ・・・・・・・
フフフフ・・・・・・・
何だかさっぱりわからん。
座ってくださいよ。
何かあったのか。
家族討論会です。
討論会?
アキコさんのこと、カナエさんのこと、そして父さんと私のこと。
そうだったのか。
それぞれ全員に大切な未来がありますからね。
それにしてもアキコは相変わらず元気がいいんだな。
長女 バカ。(カオヲアカラメタ)
全員 (ソレゾレノエガオ)
なあ、みんな。
母娘 (父を見る)
こんな時間にすまないが、父さんも家族討論会に混ぜてもらえないか。
どうかしたんですか。
話したいことがあるんだ。
離婚のことなら私から話しましたよ。
うん。
  みんな父を見る。
久しぶりだな。
大袈裟ですよ父さん、まだ三週間じゃありませんか。
次女 二十日です。
あ、そう。
二十日になるか。みんな変わりはないか。
ビールでも飲みますか。
長女 私持ってくる。(立ち上がる)
いや、いい。
飲まないんですか。.
うん。
そうですか。
長女 (座る)
次女 話って何なの?
長女 カナエ。
離婚するってことは母さんから聞いたよな。
長女 私は反対よ。
次女 父さんと母さんが決めたことって言ってるじゃない。
長女 私たち家族のことも考えてほしいわよ。
実は、やめようと思うんだ。
次女 何を?
母さんと別れることをだよ。
やめる?
うん。
長女 離婚しないってこと?
今更そんなこと言えた義理ないんだけどな。
長女 父さんは父さんなんだから義理とかそんなこと気にすることない。
次女 やめるってどういうこと?
どうもこうもない。父さんやっぱり間違ってたようだ。
次女 父さんが言い出したことなんでしょ。
その通りだ。,
次女 それを母さんも受け入れたのよ。
え?
次女 いろいろ考えたけど離婚するって母さん言った。
そうか。
次女 それぞれの人生をもう一度歩いてみるって。
そのことが別れようと思った大きな原因なんだ。
長女 でも、やめるって今言ったわよね。
うん。
長女 そうよ、やめるべきよ。ううん、やめるのが当然よ。だって今更離婚だなんて絶対おかしいもの。
そう思うか。
長女 思う。
そうだよな。
長女 別れる理由なんて何もないじゃない。父さんは仕事人間で家のことはほとんどほったらかしで、母さんまかせだったけど、みんな仲良くやってたじゃない。
それは母さんのお陰だよ。
長女 そうね、母さん文句も言わずに父さんのやりたいようにさせてたものね、
感謝してる。
長女 でもね、そうやって父さんが一生懸命仕事してくれたから家も持てたのよ。
それが父さんと母さんの夢だったからな。
長女 特別財産もないごく普通のサラリーマンが四十歳前に家を建てるなんてそんなにあることじゃない。
ローンを抱えたじゃないか。
長女 そんなの当たり前よ。その口ーンだってあと五年で終わるのよ。
母さんがほとんど休みなしで働いてくれてるからな。
長女 それが夫婦でしょ。苦しくたって一緒に歩いてるって実感があるから堪えられるんだと思う。、そうでしょ、母さん。.
(やや父の方に視線を投げかけたままダマッテイル)
そういうものかねえ。
長女 そういうものよ、.女なんて単純なんだから。
単純?
長女 そう、とっても単純。愛する人が隣にいて、その人といつも一緒に歩いてるんだって実感できたら、それが幸せなんだし、満足なの。そうなったらどんなことだって我慢できるし、何でもやれる。
アキコ。
長女 どうしたの。
好きな人ができたのか。
長女 (チョツピリカオガアカクナツタ)
 この頃から照明はゆっくり温かい感じに変化してゆく。
 この後、使用する小道具の「コップ」「ビール」「○○○」は、現物が出てくることになる。
そうなんだな。
長女 あのね、父さん。
どうした。
長女 私結婚する。
そうか。
長女 今すぐってことじゃないの。彼の仕事の都合で来年の冬頃になるとは思うんだけど。
何をしてる人なんだ?
長女 同じ会社の人でコンピューター技師なの。
時代の最先端を走ってるわけか。
長女 そうなるのかな。
大変な仕事なんだろうな。神経も使うだろうし、ストレスが溜まるんじゃないか。
長女 そうみたい。毎日遅くまで仕事してるし。
待ってるのか。
長女 うん。
父さんにもそんな時があったような気がする。
長女 彼、アメリカに行くの。
アメリカ?
長女 ニューヨーク。来月出発なの。
ついていかないのか。
長女 今が一番大事な時なの。そんな時に何も知らない私がついて行ったら、仕事の邪魔になるでしょ。
偉いんだな。
長女 一年我慢すれば会えるんだし、それから後はずっと一緒にいれる。
待ってられるのか。
長女 待ってる。
次女 父さん。
あ、ゴメンゴメン。アキコとばっかり話し込んじゃったな。
次女 どうして家を出て行ったの?
長女 カナエ。
次女 ね、父さん。
長女 出張だって、母さん言ってたじやない。
次女 ウソ。
長女 ウソ?
申し訳ない。
長女 ホントなの?
マンスリーマンション借りて一人で生活してみた。
長女 父さん。
次女 だから、どうして。
ちょっと途中下車してみたくなったんだ。
次女 どういうこと?
白分で言うのも変だが、これまで機関車のようにわき目もふらず突っ走ってきた。もちろんそのことに疑問も感じないでひたすら前を向いてな。
長女 父さん働き過ぎだったのよ。
傲慢だが父さんもそう思った。三ヶ月位前だったが、若い社員たちと食事というかお酒を飲みに出たんだが。
長女 父さんの部下の人たち?
うん。
長女 何かあったの?
特別のことがあった訳じゃないんだが、妙に溜め息が出ちゃってな。
長女 ?
彼らは仕事は実に良くできるし、努力もしてる。それはわかるんだが、ドライというか、気持ちの切り替えがみごとなんだよ。奥さんの出産、子供さんの入園式、家族授業参観、旅行といった時は仕事よりもそっちを優先させる。仕事とプライベートの区別をキチンとつけてるんだよ。
長女 そういう人って最近多いよね。そういう時代なのよ、私は好きじゃないけど。
確かに父さんの若い時はそんなじゃなかった。何があっても仕事が一番、仕事が絶対。そして仕事で疲れていても上司から声がかかれば最後までつき合う。言ってみれば上司と飲むことも大事な仕事だと思ってた。ところが今は違ってきたようだ。仕事とプライベートとは全く別、食事や飲む時にまで仕事という意識を持つことには苦痛を感じるみたいだな。
長女 そうね、どうせ飲むんだったら気の合った仲間と飲んだ方がいいものね。
それは確かに感じてはいた。一緒に楽しく飲むっていうんじゃなくて、上司に誘われたんで仕方なく少しつき合うって感じなんだよな。変な言い方だが、ごちそうするのは上司だが、話は仲間とする、そしてある程度時間が過ぎると“これで失礼します、ごちそうさまでした”と言って実にあっさりとその場を去る。
長女 その時もそんな感じだったのね。
それまでは、それが当たり前なんだって、さほど気にもならなかったんだが、その時だけは、考え込んじゃってな、いつもだったら馴染みのクラブやバーに行くんだが。
長女 一人取り残されたっていう寂しさみたいなものを感じたんだ。
それもあるが、それをキツカケに次から次といろんなことが頭の中を駆け巡って消化てできないほどだった。父さんは、いや、俺という男の人生はいったい何なのだろう、何だったのだろう。俺は何のために今日まで仕事して生きてきたんだろう、そしてこれから何をしていくんだろう、これからどんな人生が俺を待ってんだろう、どんな人生が送れるんだろうか・・・・・
長女 中高年の悲哀って感じ?
そういうことかもな。
長女 でもそれがどうして離婚にまでつながっちゃったの?
いつの間にか、一人で自分の人生をもう一回やり直したいという気持ちが、父さんをすっかり包み込んでしまったんだ。
長女 ずいぶんと飛躍しちゃったのね。
それからはもう自分を抑えることができなくなってしまった。
長女 わからない訳じゃないけど、まるで一人相撲。
次女 そのことを母さんに話した?
?
次女 父さんのその気持ちを包み隠さず母さんに全部話した?
いや、黙ってた。
次女 父さんはいつもそう。母さんのことなんかカケラも考えてない。
長女 カナェ、言い過ぎよ。
いや、いいんだ。
次女 私、一人で暮らすよ。
長女 カナエ!
どういうことだ。
次女 どうもこうもない、一人で暮らす。
この家を出るということか。
次女 ……………
どうしたんだ、違うのか。
次女 どうもしない、一人で暮らす。
もうすぐ卒業だろ。
長女 卒業してから一人で暮らすってきかないの。
次女 違う。
長女 何が?
次女 高校卒業してからって思ってたけど、もう待てない。
長女 カナエ。
一人で暮らすってどういうことかわかっているのか。
次女 父さん、お金貸してください。
何?
次女 アパートの敷金と礼金貸してください。必ず返しますから。
返すって、お前……
次女 必ず返します。
生活費はどうするんだ。
次女 今まで通りお願いします。
長女 まだそんなこと言ってるの?
次女 私は母さんのように我慢なんかできないもの。
我慢?
次女 父さん勝手すぎる。父さんは自分のことしか考えてない。
長女 カナエ。
次女 こんな生活もうイヤなの。
みんな父さんのせいなのか。
次女 だってそうじゃない。
長女 父さんのどこが勝手だというのよ。
次女  お姉ちゃんも思ってるくせに。
長女 え?
次女 仕事、仕事、仕事。父さんがどんなに遅く帰って来ようが、連絡もなくどっかに泊まっても、母さんは夕飯の支度して黙って待っていた。たまの休みも父さんは一日中寝ているだけ。私、父さんとどっかに出掛けた記憶なんかまるでない。
長女  それはお姉ちゃんも同じよ。でも仕事なんだから仕方ないでしょ。
次女 私は母さんやお姉ちゃんのように偉くない。
長女 偉いとか偉くないとかの問題じゃないでしょ。
次女 全てが父さんのペース、父さんの言いなり、父さんのわがまま。
長女 カナエ!
次女 家を建てるんだって、母さんと相談してたわけじゃない。
長女 カナエやめなさい。
次女 母さんは、無理しないでもう少し余裕ができたら家建てましょ、って一度だけ言った。私ちっちゃかったけど覚えてる。でも父さんは聞きもしないで強引に決めてしまった。
家を持つことは・・・・・・
次女 母さんの夢でもあったことくらい私にもわかる。でも、母さんは家のローンを抱えても余裕が持てるまで我慢するつもりだったんだと思う。母さんは父さんのことをよくわかっていたから不安だったのよ。
どういうことだ。
次女 ローンを抱えた後の父さんはどうだった?
ん?
次女  それまでと何も変わらなかったでしょ。毎晩のようにお酒の臭いをさせて帰って来てた。主任だ、係長だ、課長だ、って出世して父さんにはいいことばかりよね。でも母さんや私には何一ついいことなんかなかった。会社の人を突然大勢連れてきてごちそうして、毎月毎月苦労してる母さんのことなんかこれっぽっちも考えてない。私のこともそう。
長女 カナエ、あなた-・-
次女  そんなカツコつけてどうなんのよ。無理してまでやることじやないでしょ。結局母さんはパートに出るしかなくなったのよ。それさえも父さんは、課長の妻がパートなんてカッコ悪いから少しでも遠くでやってくれって言ってた。覚えてるでしょ。そんな体面ばっかり気にして自分の生活を切り詰めようなんて微塵もない。母さんのパートはエスカレートしていき今では正杜員みたいにほとんど休みなく働いてるじやない。
・・・・・
次女 父さんの生活が変わらないから母さんの負担が大きくなるだけ、そうでしょ。お姉ちゃんも私も私立学校に進学してんのよ。わかるでしょ父さん。
………
次女 誰かが我慢するしかないでしょ、わかる? 父さん。
父  ……
次女 父さん !
・・・・・・
次女 そうやって父さんはすぐ黙ってしまう。肝心なことになると父さんは何も喋らなくなる。そんなの卑怯よ!
カナエ。
長女 カナエの気持ちよくわかる。でもよく考えてみて。
次女 何を考えんのよ。
長女 父さんはこうやって帰ってきたのよ。
次女 ……
長女 いろんなこと考えたんだと思う。カナエが今言ったことも父さん考えたんだよきっと。だから・・…-・
次女 信じられないよ。
父  カナエ、父さんにもう一度やり直させてはもらえないだろうか。
次女 勝手なこと言わないで。
父  父さんの身勝手さは痛いほどよくわかった。
次女 何を感じたのかわからないけど、自分の人生がどうのこうのって理屈並べてポンと一人で家出ていって、母さんに離婚するなんてことまで言って……
長女  もうやめなさい。
次女 イヤ!
長女 カナエ!
次女 家を出たのも、戻ってきたのも、全部父さんの勝手。男らしく戻って来なきゃいいのに。
父  厳しいんだな。それも父さんの蒔いた種なんだよ、よくわかってる。でもなカナエ、父さんそんな勝手をやってるうちに、家族がこんなにも大きなものだったんだって気がついたんだよ。これは本当なんだ。
長女 そうよ。何がどうしたって家族、家族なのよ。
父  その通りだ。父さん本当に間違っていた。父さんのせいで母さんはもちろん、お前たちにまで苦労かけてしまった。まったく情けないよ、この通りだ。(頭を下げる)
長女 やめてよ父さん。これからなの、これから新しく出直すことが大事なの。
アキコ。
長女 私たちは家族なのよ、たった四人の家族なの。誰が何と言おうが私たち四人が家族だってことは、これからもずうっと同じ、永遠に家族であり続けるの。
ありがとう。
長女 結婚して新しい家族ができるけど、私は父さんと母さんの子供であり続けるわけだし、これはカナエも同じよね、そして私とカナエは永遠に姉妹であり続けるの。
次女 お姉ちゃんには逃げ道があるからそんなこと言えんのよ。
長女 逃げ道だなんて決して思ってない。私たちが家族であり続けることは事実なんだから。
次女 だって…・-
 (唐突に、でも明るく)ねえ、みんなでビールでも致みましょうか。
母さん-…
母  ね、そうしましょ。
母さん、本当にすまなかった。
長女 ………
母  みんなどうしたの?そんな湿っぽい顔しないの。さあ乾杯乾杯。
次女  私はイヤです。
そんなこと言わないで乾杯しましょうよ、カナエさん。
長女  私持ってくる。
アキコさん、お願いね。
長女 わかった。(部屋を出る)
母  (部屋を出ようとする)
父   どうしたんだ。
ちょっと。すぐ戻ります。
長女  (部屋を出る母を見て、手にはビールとコツプ)どうかしたの?
何でもありませんよ。
長女 (ビール、コップをテーブルに並べながら)母さんも嬉しいのね。
ん?
長女 表情がとっても穏やかだもの。
確かに。
長女  あんな母さん初めて見た。
うん。
長女 これからは、いつもああいう母さんでいさせてよ。
そうするよ。
長女 お願いします。(ペコリ)
参ったね。
長女 フフフ…-
(笑顔)
  母、もどってくる。
準備できたのね。
長女 母さん、早く。
はいはい。
長女 (母が手にしている封筒を見て)それ何なの?
後でね。
長女 もったいぶってんだから。
そういうことです。
長女 カナエもビールでいいの?
今夜は特別ですよ。ね、カナエさん。
次女  ……
母  そんな難しい顔しないの。
長女  それじゃ、(とビールを注ごうとする)
アキコ、父さんが。
長女 そうね。
 (ビールを手にし)はい、母さん。
 いただきます。
アキコ。
長女 はい。
カナエ。
次女 ……
父さん、やり直すから。
次女 ……
カナエさん。
次女  (渋々コップに手をかける)
父  カナエは未成年だから少しにしよう。(その後自分のコップに注ごうとする)
私が、(とビールを手にする)
ありがとう。
それじゃ乾杯ね。(と立ち上がる)
全員 (立ち上がる。カナエも長女に促されなんとかかんとか。)
アキコさん。
長女 何?
彼の名前何ていうの?
長女 え?
母  教えて。
長女 何かテレくさいなあ。
父  そういえば父さんも知らないんだ、教えてくれよ。
長女 サトシ、さん。ナガイケサトシっていうの。
母  そう。
サトシ君か。
それじゃ乾杯しましょう。
長女 はい。
全員 (コツプを持つ)
私たち家族四人の新しいそれぞれの人生に乾杯ですよ。
全員 ?
父さんと母さんは正式に離婚します。
全員 母さん?
アキコさん、あなたはサトシさんとアメリカに行きなさい。
長女  そ、そんな……
カナエさん、一人で暮らすって大変だけど頑張ってね。、.、
次女 母さん。
母  苦しくても寂しくても負けちゃだめですよ。
次女 (頷く)でも、本当に決めたの?
はい、決めました。
次女  わかった、頑張る。
母   それじゃ、……
長女 ちょっと待ってよ母さん。こんなことってあんまりじゃない。
最初で最後の母さんの我が儘、許してくださいね。
母さん。
頑張りましょ、父さん。
駄目なのか。
駄目です。.
考え直すつもりは、……
ありませんよ。さ、(コツプを差し出す)
長女 こんなのイヤだよ私。
(コツプを見つめている)
次女 (母を見つめている)
母   どうしたの。新しい出発なんですし。前向かなきゃ一ね。
次女 (コツプを持って差し出す)
母  頑張ってね。
次女 (頷き)頑張る。お姉ちゃん。
長女 ……
次女 サトシさんと幸せになってね。
長女 カナエ……
父さん、カナエさんにお金貸してあげてくださいね。学費と生活費は私がなんとかします。
次女 よろしくお願いします。(頭をさげる)
(ゆっくり母を見る)
母  父さん。
(頷く)……アキコ、乾杯しよう。
長女 だって……
これが一番なんだ、きっと。
長女 ……
じゃ、父さんが音頭取る、いいね母さん。
母  お願いします。
うん。母さん、アキコ、カナエ、そして父さんも、みんな元気で前向いて頑張ろうな、乾杯。
全員 (それぞれの思いを持って)カンパイ。
(一気に飲み干す)
(一気に飲み干す)
全員  (それぞれが座る)。
もう少し、飲むか。
はい、父さん。(ビールを差し出す)
父  ありがとう。(注いでもらって)母さんもどうだ。
もう結構ですよ。
そうか。(と言って飲む)
これ、お願いします。(と、封筒を差し出す)
(封筒から取り出す)……
月曜日、区役所に持って行きます。
わかった。
この家どうします?
次女 母さんが苦労してローン返済してんだからごこにいるべきよ。
そんなに強くないのよ、母さん。
(母を見る)
次女 ごめんなさい。
手離すことにするか。
母   はい。
長女  私はどうすればいいっていうの?
次女 アメリカに行けばいいと思う。
長女 簡単に言わないでよ。
サトシ君にきちんと話して相談してみなさい。
母  一緒に行くのが無理そうだったら、母さんの所に来てもいいのよ。
長女 母さん……
父  うん、そうしたらいい。
でも、相談するんですよ。
長女 ……
母  アキコさんが言ってたように、四人が家族であり続けることは聞違いないことなんですよ。
長女  (母を見つめる)
母  (静かに頷く)
長女  みんなで会える?
母  さあ、どうでしょう。
少なくともアキコの結婚式の時は会えるさ。
そうですね。
次女 私、もう寝るよ。
あらあら、もうこんな時間。母さんも休むことにしますかね。
父  アキコももう休みなさい。
母   父さんはどうしますか。
父  もう少しここにいていいかな。
母  構いませんよ。玄関のカギ持ってますよね。
父  持ってる。
カギかけて帰ってください。
わかった。
次女 オヤスミナサイ。
オヤスミ。
次女 お姉ちゃん。
長女 ……(無言で立ち上がる)
(立ち上がり)オヤスミナサイ。
オヤスミ。
    母、長女、次女、ゆっくりそれぞれの柱に向かって動き出す。
    母、立ち止まり振り返って父を見てストツプモーション。
    長女、次女もストツプモーション。
    父、「離婚届」を見る。
    照明、ゆっくり“四人の抜き。となっていく。
    同時に、歌なしの“キャリィ・オン。が流れてくる。
    父、「離婚届」をテーブルに置き、ビールを飲んでストップ.モーション。
    四人は次第にシルエットになっていく。
    四本の柱に明かりが入り浮かび上がる。その光の色はそれぞれ違う色で、四色である。
    音楽が高まり、幕が下りる。
                                                                                           完