消えたビー玉A |
F タケオは自分の家へ。 |
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タケオ | ただいま。 |
母 | お帰り。ちゃんと勉強してきたの? |
タケオ | それはもう。(台所から牛乳を出してきて飲む)このごろ先生に目をかけてもらってるから、ばっちりだよ。お姉ちやんは? |
母 | お風呂。 |
タケオ | そっか。 |
タケオ、食事を始める。 祖父は、数珠をまさぐってお経を唱えている。 |
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タケオ | お母さん!おじいちやん、お経やってる。 |
母 | そうよ。 |
タケオ | テレビつけながらやってる。変なの……また時代劇だ・…ねえ、おじいちゃん、僕らの小学校ってさ、前は何だったの。 |
祖父 | ん?(お経とめる) |
タケオ | ずうっと前から小学校だったの? |
祖父 | んだ。 |
タケオ | あの校舎の前は、木造の校舎だったんでしょう。 |
祖父 | んだ。 |
タケオ | その木造校舎って、ずうっと前からあったんでしょう?明治とか大正とか。 |
祖父 | あれは、一度燃えて・…・(身震いする)許してくれ。許してくれ。(前よりいっそう激しく唱える) |
タケオ | お母さん、おじいちやん、なんか変だよ。 |
母 | そうよ。 |
タケオ | ぼけてきたのかな。 |
母 | そうよ。 |
タケオ | あら。 |
母 | 今ころになると、いつもそうなるの。 |
タケオ | 今ころって? |
母 | 七月十日。七月十日が近づくと、いつもそうなるの。 |
タケオ | ねっ、七月十日って、何? |
母 | 仙台に空襲があった日。 |
タケオ | ・…。 |
母 | 知らなかったの?おじいちゃん、いつも言ってるでしょう。 |
タケオ |
おじいちゃん、いつもおんなじこと言ってるから、あんまし聞いてなかった。そうか、仙台に空襲のあった日か。じゃ、そんとき燃えちやったのか。 |
暗 転。 |
G 塾帰り、ジュンとタケオ、アキコを待っている。 |
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ジュン | アッコちやん、今日は宿題、どうもありがとう。 |
アキコ | どういたしまして。 |
ジュン | 助かっちやった。 |
タケオ | あした、七月十日さ、何があったかわかったぞ。 |
アキコ | 仙台に空襲のあった日でしょう。 |
タケオ | なんだ、わかってたのか。 |
アキコ | 図書館で調べたの。 |
ジュン | 空襲って? |
アキコ | 第2次世界大戦で、戦争が終わる一力月前の七月十日に、アメリカの爆撃機が仙台を攻撃したのよ。焼夷弾って言って、火を吹き出す爆弾を、一万個も落としたから、仙台の中心は丸焼けになったの。死んだ人や、けがした人や、いっぱいいたって。 |
タケオ | うちのおじいちやんの家もそのとき焼けて、おじいちゃんのお父さんが焼け死んだんだ。おじいちゃんは、必死になって助けようとしたけど、おじいちゃんのお父さんはリウマチだったんだ。だから動けなくて家中はもうすっかり火に包まれていて、もういい、わしを置いて逃げろ、そういうふうに何度も言われて、だから逃げたんだ。今でもそのときのこと、思い出すんだって。 |
ジュン | ふうん。 |
タケオ | おじいちゃん、毎日、お経唱えてるんだぞ。 |
ジュン | じゃあ、学校もそのとき、焼けたんですね。ヤスヒコくんの家もかな。 |
アキコ | 地図を調べたのね、そしたら、今の学校と、そのときの学校と、ちょっと位置がずれてるのよ。 |
ジュン | じや、今の学校のあそこのところにヤスヒコくんの家があったってことですか。 |
アキコ | だと思うのよね。 |
ジュン | ふうん。 |
タケオ | それで、あした何時に集まるかということになるんだよな。 |
アキコ | ひとつ問題があるのよね。 |
ジュン | なんですか。 |
アキコ | 仙台の空襲は夜中なのよ。夜中の○時三分に始まって二時三分に終わってるの。 |
ジュン | なんだ、二時間だけですか。 |
タケオ | ばか。仙台は、そのあとずうっと燃え続けるんだ。あっちもこっちも、一度にばあっと燃え上がって朝まで燃え続けるんだ。中にいる人はどうなると思う。 |
ジュン | ……。 |
アキコ | 問題は、わたしたちが何時に学校へ行けばいいのか、ということなの。 |
ジュン | ね、十日の○時三分って、今夜のこと? |
アキコ | そうよ。 |
ジュン | え−っ。 |
タケオ | あしたの夕方に行ったんでは、遅いかもしんないな。 |
ジュン | 夜中に起きて、家をそっと抜け出すのって、やばくないですか。 |
タケオ | おまえな、言葉の使い方が違うんだよ。そういうのは、やぱいっていうんじゃないんだ。おもしろいって言うんだ。こんなふうに言うんだ、そいづはおもせなあ!な、感じ出るべ。 |
ジュン | タケオ君、仙台弁うまいですね。 |
タケオ | あだりめだベ、おれは生粋の仙台人だがらや。しゃべる気になれればいづでもしやべれる。 |
ジュン |
んでがすか。 |
アキコ | (くすっと、笑うが)じゃ、今夜の○時きっかりに、学校集合ね。 |
タケオ | ジュン、寝るなよな。寝たら終わりだぞ。寝たふりしてそっと抜け出すんだぞ。 |
ジュン | 大丈夫ですよ。 |
タケオ | お前、肝心なときに弱気になるからな。 |
ジュン | 大丈夫ですよ。なにしろヤスヒコ君に「来て」って言われたんでずから。「来て」って。ここで行かなきゃ、男じやないですよ。 |
タケオ | わかったわかった。じゃな。うまくやれよ。おれもちょっと考えがあるんだ。 |
ジュン | また、変なこと考えるんじゃないでしょうね。 |
タケオ | 大丈夫大丈夫。 |
三人別れる。 |
H タケオは家の茶の間へ |
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タケオ | ただいま。 |
母 | おかえり。(ちょっと時計を見上げて) |
タケオ | まじめにまっすぐ帰りました。 |
母 | よろしい。 |
姉 | 嘘ばっかし。 |
タケオ | (姉をちょっとこづいて)ねえ、あした何の日か知ってる? |
姉 | う−ん、誰の誕生日かなあ。どうせ、モーニング娘だろ。 |
タケオ | あいや−、女子高生って、レベル低いんだ。 |
姉 | おっ、生意気。レベルの高いあしたって、なんだよ。 |
タケオ |
仙台に、空襲のあった日。 |
姉 | 空襲?なあんだ。 |
タケオ | なあんだってことはないよ。いっぱい人が死んだんだ。おれとさ、おんなじ年の女の子だって、もっと小さな子だって、焼け死んだんだ。この家の前の通りにも、もしかしたら人がいっぱい倒れてたかも知んないんだ。 |
姉 | タケ、なに熱くなってんの? |
タケオ | おじいちゃんだって、それで今でも苦しい思いをしてんだぞ。 |
母 | タケオ、わかったから、宿題まだなんでしょう。やりなさい。お前にはもっと大切なことがあるんだから。 |
タケオ | 大切なことって? |
母 | 勉強でしょう。勉強して、ちゃんといい高校に入ること。 |
母・姉 | いい大学に入って、いい就職日見つけること! |
タケオ | (撫然) |
姉 | しょうがないでしょ。タケオは男なんだから。男は、そういうことはちゃんとしないとね。 |
母 | そう、昔のことは昔のこととして、わりきらないとね、生きていけないのよね。おじいちゃんを見なさい。ああいうふうになったら、もうだめでしょう。(テープルの上を片づけて台所ヘ) |
タケオ | 昔のことじゃないもん。 |
姉 | えっ。 |
タケオ | 昔のことじゃないもん。ぷたりともわかってないんだ。 |
タケオ、祖父の側へ |
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タケオ |
あした、七月十日だね。 |
祖父 | (お経) |
タケオ | 仙台空襲の日だよ。どうするの? |
祖父 | (お経はげしく) |
タケオ | ね、助けてくれないかな。 |
祖父 | (お経) |
タケオ | おじいちゃん! |
祖父 | いいから逃げろ、わしを置いてにげろ。おやじはそう言った。おれは、おれはほかのみんなを逃がすのでせいいっぱいだった。夜中だった。眠り込んでしまったそのあとだった。だから、わげわがんながった。夢中だった。火は、前と奥と、両方に直撃弾が落ちて、両方がら、火が来た。窓ガラス割って、そごがらみんなを逃がした。おやじが寝でだ部屋にも火は来て、ふとんが燃えだして、熱かった。体燃えるがと思った。いいがら、逃げろ、わしを置いて逃げろ・…周りの家も、みな燃えでだ。 |
タケオ | それはわかったよ、それはわかったから。 |
祖父 | わがった?わがっただと?お前なんかに、おれの苦しみの、何がわかる。 |
タケオ | ……。 |
祖父 | (お経)……許してけろ、許してけろ……(お経) |
タケオ | ね、おじいちゃん。助けてほしい人がいるんだけど。 |
祖父 | (お経) |
タケオ | その人、今夜、空襲ん時に、来るんだけど。 |
祖父 |
……。 |
タケオ | なんとかしてあげたいんだけど、ぼくたちだけじゃ、だめみたいな気がするんだ。おじいちゃんに一緒に来てほしいんだ。 |
姉 | タケオ、何たくらんでるの。 |
タケオ | おねえちゃん。 |
姉 | 何考えてんの。おじいちゃんをからかったりしたら、許さないからね。 |
タケオ | 違うよ。おれ、真剣なんだ。 |
姉 | 真剣?タケオが? |
タケオ | そうだよ。 |
姉 | へ−っ、珍しいことがあるもんだ。よし、聞こうじやないか。 |
タケオ | え−っ。 |
姉 | いやだと言うの? |
タケオ | だって、おねえちゃん、すぐ母さんに言いつけるから。 |
姉 | (小指を出す) |
タケオ | なに? |
姉 | 指切り。 |
姉・タケオ | 指切りげんまん、嘘ついたら針千本の−ます、指切った。よし! |
タケオ | おねえちやんさ、前に、小学校に女の子の幽霊が出るって言ったろう |
姉 | (うなずく) |
タケオ | あれ、女の子じゃなくて、男の子だったんだ。 |
姉 | どうして? |
タケオ | 会ったんだ。 |
姉 | タケオが? |
タケオ | おれだけじやなくって。アッコとジュンもいっしょこ。… |
姉 | ふうん、アッコちやんも。 |
タケオ | 話もした。 |
姉 |
嘘! |
タケオ |
嘘じやないって。それで、ビー玉を探してるんだって。それから七月十日がお姉さんの誕生日で、お赤飯食べるのみんなで楽しみにしてたんだけどって。 |
姉 | タケオ、話が見えない。 |
タケオ | うん。本人も、何がなんだか、わからなくなってるんだ。ただ、七月十日だって言うんだ。 |
姉 | 何が? |
タケオ |
来てほしいって。 |
姉 | そう言われたの? |
タケオ | うん。 |
姉 | ……。 |
タケオ | それで調べたんだ。七月十日、あそこで何があったのか。そしたら、仙台空襲の日だった。あそこどころか、仙台中丸焼け。 |
姉 | それって、こわい話じやない? |
タケオ | ・…。 |
姉 | よく聞くじゃない、呼ばれるからって行ってみると、二度と戻れなくなってしまう。少年達はどこへ消えたのか。じゃじゃじゃ−ん。 |
タケオ | ……。 |
姉 | やめた方がいいと思うよ。 |
タケオ | でも、行かないと、何があったのかわからないんだ。 |
姉 | 仙台空襲でしょ。わかってるじやない充分に。 |
タケオ | う−、あの、おれじゃなくて、あのあいつに。 |
姉 | だれ? |
タケオ | ヤスヒコってんだ。今夜、○時三分に仙台の空襲が始まったわけだから、だからおれたち、 |
姉 | もしかして、その時間に学校へ行くつもり? |
タケオ | そうだよ。 |
姉 | アッコちゃんもジュンちゃんも? |
タケオ | そうだよ。 |
姉 | それって、やばいんじやない? |
タケオ | だから黙っててって、言ったんじゃないか。 |
姉 | 朝になってから行けば。 |
タケオ | 朝では遅いような気がするんだ。それに、ぼくらに何ができるかなって考えると、ここは、おじいちゃんの出番だなって、なんだか、おじいちゃんに来てもらった方がいいような気がするんだ。 |
姉 | それ、タケオの直感? |
タケオ | うん。 |
姉 | タケオの直感、妙に当たるからな。 |
タケオ | このままでは、あいつ、なんだか,かわいそうだ。 |
祖父 | 行ぐぞ−。 |
姉・タケオ | ……。 |
祖父 | 仙台空襲さ、行ぐぞ−。 |
姉 | おじいちやん! |
暗 転 |
I 校門前。タケオが待っている。 |
|
タケオ | お、何、本なんか持って。 |
アキコ | これ、仙台空襲の本、何かわからないことあっ調べるの。 |
タケオ | さすがあ。や、ジュン。 |
上手よりジュン、バットを持って登場。 |
|
ジュン | タケオくん! |
タケオ | 何持ってきたんだよ。 |
ジュン | あの、やっぱしこわいから。 |
タケオ | バットだ。 |
ジュン | タケオ君は? |
タケオ | おれ?おれは、あれ。 |
祖父、上手より登場。 |
|
アキコ ジュン |
おじいちやん! |
アキコ | うわ−っ、心強いな−っ。 |
祖父 | 心強いが。そうが。うん、うん。そんだら、いぐぞ。 |
出発。まもなく学校の門をくぐる。 |
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祖父 | このあたりはな、空襲で完璧にやられだんだ。焼け跡に立つと、仙台駅がすぐそこにあるように見えたもんだ。 |
サイレン。 |
|
ジュン | あれ、なんですか。 |
アキコ | 空襲警報? |
タケオ | 広瀬川だよ。大倉ダムが放水するんだよ。 |
サイレン。 |
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ジュン | まただ。 |
祖父 | 空襲警報じゃ。空襲警報じゃ。来るぞ。来るぞ。 |
アキコ | おじいちやん、大倉ダムが水を流すのよ。その警報なの。大丈夫よ。 |
ど−ん、と音。火が燃え上がる。 人々が逃げて来る。 |
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群衆1 |
おかあちゃ−ん!おかあちゃ−ん! |
群衆2 | 松風寮の諧君、こっちだ。女子挺身隊松風寮、広瀬川に退避。広瀬川に退避。 |
群衆3 | 教官、菅原さんが、菅原さんが。直撃弾です。 |
群衆2 | 何だって!…・大丈夫だ。私に任せろ。ほかの者は広瀬川へ行くんだ。 |
群衆1 | おかあちや−ん!おかあちや−ん! |
群衆4 | 我妻さんのどご、みんなやられだって? |
群衆5 | あそこ、八人家族だっちや。子供が六人も、みんな? |
群衆6 | うん。お母ちやんだけ、助かった。 |
群衆4 | かわいそうに。 |
群衆6 | あのお母ちゃん、あの火の中、どうしても動かねんだ。おれだちと一緒に退避させようとしても、動かね。ありゃ、だめだな。 |
群衆5 | なんまいだ、なんまいだなんまいだ、なんまいだ。 |
群衆7 | タエコー、タエコー−・ |
群衆1 | おかあちゃ−ん! |
群衆7 | タエコ、タエコ、よかった、よかったよかった。よく無事で。 |
群衆が去った後、茫然としている四人。 次第に夜が明けてくる。 ヤスヒコ、焼け跡でピ−王を探している。 |
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アキコ | ヤスヒコ君よ。 |
ジュン | ほんとだ。 |
アキコ | ヤスヒコく−ん。 |
ジュン | ビー玉を探してるの? |
ヤスヒコ | うん、ないんだよ。ここに置いたのになあ。 |
ジュン | だめですよ。こんな凄い火にまかれちやったら残ってるはずないですよ。 |
ヤスヒコ | でも、兄さんにもらった、大切な形見なんだ。兄さんが出征するとき、おれの宝物をお前にゆずると言って、僕にくれたんだ。兄さんの、兄さんの小さい頃の思い出がいっばい詰まってるんだって。だから無くすわけにはいかないんだ。どこへ行ったのかなあ。ビー玉は燃えないから、あるはずなんだ。 |
タケオ | ばか。ピー玉はガラスだぞ。ガラスは溶けるんだぞ。 |
ヤスヒコ | ・…。 |
タケオ | ばかだなあ、もう溶けちまって、そんなとこにあるはずないんだぞ。 |
ヤスヒコ | じゃあ、ぼくのビー玉は(茫然としている) |
三人 |
(無言) |
アキコ |
きっと、お兄さんのところに戻ったのよ。お兄さんは、ヤスヒコ君のビー玉を持って待ってるわ。 |
ヤスヒコ | そうか。わかった、わかったよ。じゃあ、僕防空壕に戻んなきやあ。母さん達、待ってるから。 |
アキコ | お母さんも、お兄さんと一緒に待ってるわ。 |
ヤスヒコ | えっ。 |
タケオ | アキコ、何言うんだよ。 |
アキコ | (本を指さして)防空壕は役に立たなかったのよ。 |
ヤスヒコ | じゃあ、姉さんも? |
アキコ | (本を見て)良子さん? |
ヤスヒコ | ー(うなずく) |
アキコ | 間違いないわ、姉さんも一緒よ。 |
ジュン | アキコさん!(アキコ、本を指さず) |
ヤスヒコ | じゃあ、僕は?もしかして、ぼくも、ビー玉のように。 |
アキコ | ヤスヒコ君の体はね、そう。 |
タケオ | お前、自分がどうなったのか知らなかったんだ。知らないまま、ビー玉さがして、毎日毎日……。 |
ふらふらと歩きだずヤスヒコ。 爆発。吹き出す火。倒れるヤスヒコ。 |
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アキコ ジュン タケオ |
ヤスヒコ君 !! |
祖父 | おめえは、おめえは、まだちっこいガキのくせに、もどったのが。まだ、ちっこいガキのくせしてもどったというのか。あの火の中さ、戻ったというのが。 |
タケ才 | おじいちゃん。 |
祖父 |
戻れってが。戻れってが。すまねえ、おれは戻れながった。親父の倒れるのが見えた。見えたんだ。だけど、おれは、こわくって、そのまま逃げたんだ。戻れば、戻れたのに、おれは、戻らながった。おれは戻らながった。おれは、親父を見捨てたんだ。すまんなあ、親父、熱かったろう。熱かったろう。すまんなあ。……そうだまだ間に合う、今なら間に合う。親父行くぞ、今行くぞおっ。 |
タケオ | だめだよ、おじいちゃん! |
瞬間、音は消え、照明変換。 茫然としている四人。 元の世界に戻る。 |
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タケオ | おじいちゃん、大丈夫かな。 |
祖父 | うん。なんとか……思い出した。ぜんぷ、思い出した。俺は、親父を助けに行がねがったんだ。あん時は、死ぬのこわぐって、助けに行げなかったんだ。……いただまれねえな。おめだち、おれんどご軽蔑すっぺな。 |
タケオ | そんなごと、ないって。もう、充分だよ。 |
アキコ | そうよ。おじいちゃん。 |
ジュン | 元気出して。 |
祖父 | ありがとうよ。うん、全部すっかり思い出した。あ−あ、胸のつかえが取れだ。なんだか、息がでぎる。あ−あ、息ができる。(くずれるように、泣く)親父、ずまん。俺、どうしたらいいんだ。 |
タケオ、アキコ、ジュン、祖父の四人、ストップモーション。 |
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ナレーター | (静かに、徐々に大きく) |
小林信敏 15才 南石切町 焼夷弾破裂による頭部破片創 |
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今野勝二郎 42才 北鍛冶町 焼死 |
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今野みゆき 37才 北鍛冶町 焼死 |
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今野隆善 2才 北鍛冶町 焼死 |
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小室ゑい 70才 北鍛冶町 窒息死 |
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小関勇也 1才 東一番丁 爆死 | |
小林のぷ 37才 元寺小路 店先で抱き合ったまま死亡 | |
小林孝子 7才 元寺小路 店先で抱き合ったまま死亡 | |
小島ハナ 64才 定禅寺通櫓丁 火傷 | |
後藤利一 40才 跡付町防空壕にて焼死 | |
後藤t利雄 16才 跡付町防空壕にて焼死 | |
後藤泰子 7才 跡付町防空壕にて焼死 | |
後藤夫佐 5才 跡付町防空壕にて焼死 | |
今野ふく 64才 北九番丁 左下肢爆創による失血死 | |
小林良吉 63才 東七番丁 仲の瀬橋下河原にて焼死 | |
後藤ミノル 30才 爆弾破片による腸破裂 | |
小林源太郎 仙台師管区砲兵補充隊 全身第三度火傷 | |
(次第に小さく) | |
ビー玉、静かに転がってくる。 | |
三人 | (目で追いながら)ヤスヒコ君! |
−幕− |
参考資料「私にとっての戦争」朝日新聞仙台支局編 「仙台空襲」仙台市民の手でつくる戦災の記録の会編 |