発生学 Embryology (Digest)

総論

精子形成

 精子の形成は精細管内で行われている。

 精細管の内層を数層の細胞が作る。ピラミッド上に丈高く精細管全層を貫くようなセルトリ細胞と、丈低く増殖性の強い精祖細胞がある。精祖細胞はA型とB型に分けられる。A型精祖細胞は有糸分裂により新しい1個のA型精祖細胞(基底層に止まる)と、一個のB型精祖細胞(基底細胞層を離れる)を作る。

 B型精祖細胞の有糸分裂で生じた2個の精母細胞は精細管壁の中央部付近まで移動した後、減数分裂する。第一段階を終えて染色体数の半減したものが精娘細胞。第二段階を終えたものが精子細胞である。精子細胞が備えていた細胞質の多くの部分が失われて精子が形成される。完成した精子はやがてセルトリ細胞を離れ、精細管の管腔内に遊出する。

 精子形成の引き金となるのは下垂体全容から分泌される性腺刺激ホルモン(FSH)による精祖細胞への刺激である。しかし、FSHは精娘細胞の段階までの過程を促進させるのみであり、その先さらに精子が完成するためには精巣の間細胞(ライディッヒ)からのテストステロン分泌が起こらなければならない。

卵子形成

 胎生期初期の頃に原始生殖細胞が卵黄嚢より移動して卵巣原基へと到達し、そこで卵祖細胞に分化する。胎生3カ月の時期になると卵祖細胞が有糸分裂を繰り返すことにより卵巣皮質部分に多数の卵母細胞が生産される。個々の卵母細胞が単層の扁平細胞(顆粒細胞)により被われたものだけが原始卵胞である。原始卵胞は卵巣の皮質部分に配列している。

 思春期になると視床下部からの神経分泌によりFSH放出因子が下垂体前葉に達し、FSHの生産と放出を促す結果、卵巣内で一定のリズムを持った卵胞成長過程が見られるようになる。一回のリズムごとに多数の原始卵胞が左右の卵巣内で成長を開始するが、通常は1個のみが完全な成熟段階にまで達することができ、残りは途中で閉鎖卵胞となる運命を辿る。

 卵母細胞の減数分裂の第一段階で卵娘細胞と一次極体が作られる。卵娘細胞は減数分裂第二段階を行うことによって卵子と二次極体を生じる。

初期発生

着床

受精後、子宮腔まで到達した胞胚が分泌期子宮粘膜の緻密層表面に付着する現象を着床という。

中心着床:胚子の成長とともに子宮腔が拡張し、胚子栄養膜の全面が子宮内膜に付着する。反芻類、ウマ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、中・下等霊長類。

偏心着床:胞胚が子宮粘膜のヒダの窪みに収まり、そこで胚子が成長し、ヒダの頂上が結合し、胚子が中に埋まって着床する。ラット、マウス等の齧歯類。

壁内着床:胞胚の栄養膜から出す酵素によって子宮の内膜上皮と固有層が破壊され、子宮壁に胚子が侵入する。人、チンパンジー等の高等霊長類、モグラ、ハリネズミ。

原始線条:やや発生が進むと胚盤の羊膜腔側表面が西洋梨形を呈するようになり、その細まった一端の近くより胚盤中心部付近までを一直線に走る不透明な隆起線。外胚葉細胞の増殖によりもたらされたもの。

原始結節:原始線条の頭側端部にある隆起。ヘンゼン結節。

原始線条をなす外胚葉細胞は盛んに増殖してその数を増やしながら、胚盤の外胚葉成分と内胚葉成分との間に進入し、胚盤内の第三の胚葉成分(胚内性の中胚葉)の形成にあずかる。

脊索:原始結節から索状の細胞集団が胚盤の内胚葉と外胚葉の間を頭方に向かって伸び出したもの。やがて脊柱が形成される。

胎膜および胎子付着物

羊膜:胚盤の周囲で外胚葉が袋状に隆起して羊膜を形成する。羊膜は正中で接し、羊膜縫線が形成される。羊膜縫線が融合して羊膜腔を形成する。その中には羊水が充満している。羊水は胎子を振動から守り、胎子に羊膜が癒着するのを防ぎ、胎子の運動を可能にする。

絨毛膜:胚盤胞の最初の外側の膜。栄養膜細胞の増殖によって絨毛が出現し、胎盤胎子部の主体となる絨毛膜が形成される(一次絨毛)。絨毛膜は中胚葉によって裏打ちされ、中胚葉組織が絨毛内に入って絨毛の心となる(二次絨毛)。後にこの絨毛の芯に血管が形成される(三次絨毛)。絨毛膜の役割は栄養の吸収、老廃物の排出、交換を行うことである。

卵黄嚢:内胚葉によって形成される。胚盤側の胚性内胚葉が腸管の元となる原腸となる。循環器系の基礎となる血島が最初に卵黄嚢腔内に発生し、原始生殖細胞が形成される。

尿膜:尿膜は卵黄嚢の胚子部(後腸)の部分から形成される。

臍帯:尿膜、卵黄嚢を中に包み込む中胚葉由来の胎子結合組織で構成される。中には臍動・静脈を含み、一括して羊膜に包まれる。胎盤の絨毛膜板につながる。

胚葉の分化

外胚葉からの神経管と神経堤の形成

 脊索が形成された後に、胚盤の頭側端付近の外胚葉肥厚により神経板の形成が始まる。神経板は次に胚内に陥入し始め、胚の長軸に沿う神経溝が作られる。神経溝の外側壁部分を神経ヒダと呼び、この部分はやがて神経堤と呼ばれる突出構造を示す。

 神経溝が深くなるのと同時に両側の神経ヒダの癒合が起こり、このために胚の正中線上で神経管が作られる。

 神経管は中枢神経系の原基となる。神経管頭側端が拡張し前脳胞、中脳胞、後脳胞となるが、残りの部分からは脊髄が作られる。神経管形成時に取り残された形の神経堤に含まれる細胞はやがて脊髄の後根神経節、脳神経所属の知覚神経節、自律神経節などの形成にあずかるほか、シュワン細胞、副腎髄質細胞、メラニン産生細胞、甲状腺のカルシトニン内分泌細胞、胃腸管の内分泌細胞などにも変化する。さらに頭・頚部のすべての間葉細胞要素が神経堤に由来すると考えられている。

 胚盤を形成する外胚葉のうちで、神経管や神経堤に取り込まれなかった部分からは角膜上皮、水晶体上皮、内耳の膜迷路上皮、表皮とその変形物(爪、毛、汗腺、脂腺、乳腺)、口腔と鼻腔・副鼻腔の粘膜上皮、歯のエナメル芽細胞、脳下垂体の腺細胞、耳下腺、肛門管下半の粘膜上皮、体表に近い生殖管および雄性尿路末梢部分の粘膜上皮などが発生する。

中胚葉

沿軸中胚葉

正中線の左右に位置する。これが分節化し、体節となる。後脳胞の部位より胚子の尾端に至る、約43対(人)の体節の形成が行われた後に各体節の内部で椎板と皮筋板の分化が起こる。椎板からは様々な支持組織への分化を示し、脊柱の骨、軟骨と靭帯、さらには頭蓋底の一部などの形成にあずかる。

皮筋板からは皮板ち筋板が分離する。皮板は皮膚における真皮および皮下組織の形成にあずかる。筋板は骨格筋の分節性成分を作る。

中間中胚葉

中間中胚葉は沿軸中胚葉と外側中胚葉との間に介在するものであり、左右の体側における泌尿生殖器系形成の母体組織となる。

外側中胚葉

胚内性の中胚葉のうちで最も外側の位置を占め、胚外性の中胚葉とのつながりを示すのが外側中胚葉である。この組織の外側端は壁側葉(外胚葉に伴行)と臓側葉(内胚葉に伴行)とに二分する。その結果生じる隙間が胚内体腔である。壁側葉からは胸膜、腹膜が形成される。臓側葉からは内臓および血管の結合組織、平滑筋、心臓、心膜、副腎皮質、脾臓、血球、血管内皮の形成をなす。

胚内性の中胚葉が作り出すもの:平滑筋、骨格筋(随意)、心筋、軟骨と骨を含めたあらゆる種類の結合組織、血管および血球、リンパ管およびリンパ組織、関節腔および滑液包の滑膜、副腎皮質、泌尿生殖器

内胚葉

内胚葉から由来するもの:口腔の奥から肛門管上半までの消化管の粘膜上皮とその上皮に由来する腺(甲状腺、上皮小体、胸腺、肝臓、膵臓など)の実質細胞、呼吸器の粘膜上皮、耳管および鼓室の粘膜上皮、膀胱と尿道の粘膜上皮、精嚢腺、尿道球腺、前立腺の実質細胞、および膣んも粘膜細胞。

各論

消化器の発生

口腔、咽頭

第一咽頭弓:上顎隆起と下顎隆起に分かれる。上顎隆起は上顎骨を形成する。下顎隆起は中にメッケル軟骨を含み、これはツチ骨とキヌタ骨になる。三叉神経支配。

第二咽頭弓:アブミ骨を作る。顔面神経支配。

第三咽頭弓:舌骨に変化。舌咽神経支配。

第四〜第六咽頭弓:第四および第五咽頭弓軟骨は甲状軟骨を作り、第六咽頭弓は輪状軟骨、披裂軟骨、気管軟骨となる。迷走神経と副神経支配。

食道、胃、十二指腸とその付属器官

食道の発生

前腸のうちで咽頭に続く狭い管をなす。心臓と横隔膜が下降する時期に食道の長さは急に増す。

胃の発生

前腸の紡錘状拡張部分として胃の原基が出現する。

十二指腸の発生

前腸のうちの最尾側部分と中腸のうちの最頭側部分が十二指腸に変化する。

肝臓の発生

前腸の最尾側端部分から内胚葉細胞が腸管外に伸び出して肝臓を作る。

膵臓の発生

前腸の内胚葉細胞が増殖して腸管外にまで達することにより背側膵芽と腹側膵芽が形成され、これらが膵臓原基をなす。

空腸、回腸、大腸

十二指腸の尾側半は胎生期の中腸に由来するが、それに続く小腸のすべての部分と大腸のかなりの部分も同じ中腸に由来する。左結腸曲、下行結腸、S状結腸、直腸、上半部肛門管は後腸から発生する。

呼吸器の発生

肺芽を作る内胚葉の管とその周囲の臓側中胚葉より肺のすべての組織が発生する。

心臓の発生

 卵黄嚢壁、尿膜壁および結合茎をなす中胚葉組織内の細胞要素が増殖を開始し、血島と呼ばれる特殊な細胞塊を多数作り出す。各細胞塊の辺縁部をなす細胞は扁平化して原始的な血管の内皮細胞となり、中心部にある細胞は個々の血球成分に変化する。そのような血球成分相互間の間隙はやがて血漿成分で満たされる。多数の血島におけるこのような変化の産物が互いに連なり、一つの毛細血管網が作られる。

 各中胚葉細胞塊から内皮細胞が分化して心内膜管原基が作られる。最初、左右の心内膜管からなるがやがて2本が合わさって正中部における1本になる。

 1本の管状構造をなす原始心臓は拡張部とくびれにより心球、心室、心房、静脈洞ができる。心球および心室の長さが急速に伸びる時期にU字型の心臓管ループが始めに形成され、次には心房が心室の背側方に位置するような複雑なS字状のループとなる。

 左右の心房の高まりがやがて互いに癒合することにより中間中隔がつくられるために1つの房室口が左右半ずつに分けられる。一次(心房)中隔が原始心臓の天井から生じ、一次孔と呼ばれる空間を残す。これはやがて閉じる(その結果、左右心房に分かれる)。一次中隔の中央部分に二次孔が生じる。

 次に右心房から一次中隔方向へ二次中隔が伸び出して、一次中隔と二次中隔の間に卵円孔を形成する。卵円孔は胎子期において後大静脈から右心房に達した血液を直接左心房に導く役割を果たしている。生後は左心房内の血圧が上昇し、これに伴い一次中隔は二次中隔に向かい押しつけられて、ついには両中隔が癒合する(卵円孔の閉鎖)。かくして左右の心房の完全分離が成立する。胎生期に卵円孔であった部位は卵円窩として名残をとどめる。

胎子期の血液循環

 胎子では肺、腎臓、消化器などが機能していないために酸素や栄養分を母体側血液から受け、炭酸ガスそのほかの代謝老廃物を母体側血液中に放出する。母体側血液と胎子側血液との間での成分交換の行われる場が胎盤である。胎盤と胎子をつなぐ臍帯には2本の臍動脈と1本の臍静脈が存在している。

 臍静脈血は酸素飽和度80%、栄養分のほかに抗体やホルモンも含む。臍静脈は肝臓に向かって静脈管にはいる。そこから後大静脈を通って右心房に入り卵円孔を通って左心房にはいる。そこから左心室に入り、大動脈に駆出される。

 一方、右心房から右心室に達した血液は肺動脈に向かうが、大部分は動脈管を経由して腹大動脈内にいく。静脈血は左右の臍動脈を経由して胎盤に運ばれ、そこで物質交換を受ける。

泌尿器系の発生

前腎

頚部の中間中胚葉の細胞が作るが、消失する。

中腎

胸部と頚部の中間中胚葉の細胞が作る。内側端が毛細血管の塊(糸球体)により押し込められた形の尿細管が多数集まった構造を示す。中腎における個々の尿細管は1本の管、すなわち中腎管(ウォルフ管)に開口する。

後腎

これが存続性の腎臓となる。中腎管からの新たな枝分かれとしてできる尿管芽と下腰部かた仙骨部にかけての高さの中間中胚葉が作る造後腎帽子が後腎を作る。

ウォルフ管の変遷

 中腎管下端近くからの枝として尿管芽が生じ、これが完成した個体における尿管、腎盤、大・小腎杯、および腎臓の集合管を作る。

 雄では中腎管の上端は中腎細管(精巣輸出小管となる)を解して精巣と結合し、残りの中腎管部分が精巣上体管精管、射精管となる。

 雌では中腎管の大部分が消失する。雌における中腎管下端部分の遺残物はガルトナー管とよばれる構造を作る。

生殖器系の発生

 原始生殖細胞は発生のきわめて初期に尿膜よりの卵黄嚢壁部分に出現する。原始生殖細胞は背側腸間膜を経て移動し、中腎よりも内側の体腔上皮下に達する。原始生殖細胞は増殖を始める。その結果生じた上皮細胞は生殖索を作る。

雄:生殖索が内部に向かって索状突起を伸ばし髄索(一次性索)を形成する。これが精巣性索に分化し、精細管に達する。

雌:生殖索は生殖隆起の表層で増殖を続け、皮索(二次性索)を形成する。皮索は将来、卵胞になるべき細胞と卵祖細胞から構成される。

ミューラー管(中腎傍管)

雄では退化し、雌では卵管、子宮および膣を作る。
 

Presented by Hiroshi Douguchi, Dept. of Vet. Anatomy, NVAU. 1998


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