村山秀樹の辛口名盤紹介 (Part 2)

April 16, 2001 Last Up Dated


No.17. Out To Lunch / Eric Dolphy (Blue Note)

2002年4月15日投稿

ジャズの輸入盤が買えるということを知ったのは、高校生になってからである。それまでは専ら生活圏(即、埼玉)の一般レコード店にしか行ったことはなかった。雑誌などで都内のジャズ専門店の広告を見て、また、ジャズ友達からの情報で、都内の店に顔を出すようになった。

当時、高校生の身で、勿論お金は無く、高い輸入盤新品は買えず、ほとんど中古盤を漁っていた。中古盤は、数寄屋橋阪急内にあったハンター(数寄屋橋ショッピング・センターに移るのは後)、新宿はオザワ、トガワ、マルミ、渋谷のミヤコ堂、上野の蓄晃堂などであった。DiskUnion がお茶の水にできたのは大学生も高学年になってからであったと記憶。新品はもっぱら銀座のヤマハや山野楽器店で買ったが、財布との相談であった。

初めて買った輸入盤がはっきり思い出せない。当時、前衛的なジャズに凝っていて、Albert Ayler や John Coltrane などのNew Wave In Jazz (Impulse) や Eric Dolphy の Out To Lunch (Blue Note) は早かった憶えがある(これらは当時の新譜で、新品で買った)。前衛がカッコ良いと思っていた時代で、難解なものほど素晴らしいもののはずだ、と思っていた。中身は何もわからず、カッコつけていた時代である。

そんな身にも Out To Lunch の音は衝撃的であった。現在、Dolphy はイモだと悟ったが、悟った今聴いても Out To Lunch は新鮮である。 Anthony Williams, Freddie Hubbard, Bobby Hutcherson,Richard Davis の作り出す音の何と新鮮だったことか。Dolphy は今聴くと、(彼独特の)手くせ/指くせと奇声(馬のいななき?)を発するだけの人で、心に響くものは無い(感受性の問題だ、と言わばえ!)。Dolphy なんてジャズのマスコミが作り上げた幻影で、人が言う程の才能は無い。Last Date の終わりに録音されていた例のセリフが彼の仮想の姿をつくりあげてしまったのだろう。

それにしても、Anthony のリズム・センスと、Milt とは全く異なる(と私には思えた)Hutcherson の金属的な音や斬新なハーモー、Freddie の切れ味鋭いフレーズ、それにからむ Richard Davis の奇怪な(?)音。新しい時代のジャズが産まれつつある現場にいるような気持ちにり、ワクワクしたものである。当時の Blue Note は、新しい胎動を感じさせる作品が多く(いわゆる、新主流派)、一作一作が待ち遠しかった。

曲は5曲とも Dolphy のオリジナルで、Dolphy にしてはなかなか良い曲である。なぜ、他のアルバムではこのような緊張感のある曲を提供できなかったのであろうか? Blue Note というレーベルの魔力か、はたまた共演者の影響か? 曲そのものは、スタンダードとは正反対の、情緒なんて入る余地のない曲ばかりであったが、これらのメンバーにはピッタリの曲であった。変拍子の曲も、Brubeck のブンチャカ・パターンものとは違って、新鮮で緊張感の高いものであった。

この録音のためにどの程度のリハーサルを実施したのであろうか。ただ、どう考えても練習を繰り返すことは、このピリピリした緊張感を薄めてしまうことにしか作用しないようにも感じる。一発録りの緊張感がこの一触即発の状況を生んだのだろうか? とにかく、この1枚は Dolphy の異色盤で、もしかしたら Dolphy は才能豊かな演奏者だったのではないか、と誤解させる程のできではある、と思う。

当時 Blue Note は海外プレスを許していなかった。即、Blue Note は輸入盤(アメリカ原盤)でしか手に入らなかったのである。あの分厚いボール紙に Blue Note 独特の(ほとんどの場合、1色刷りの)ジャケット・デザイン(それにしても、この Out To Lunch のジャケットは秀逸であった)。中を開ければ、カタログ代わりの中袋、輸入盤独特のあのにおい、彫りの深い溝をもった分厚いレコード盤。日本盤のペラジャケと薄いフニャフニャした盤に比べて、何もかもが素晴らしく思えた。輸入盤の中でも全てにおいてこれだけの質を保持していたのは実は Blue Note だけだった、ということは程無く知ることになる訳だが。



Vol.16. The Best Of Modern Jazz / Prestige(日本編集オムニバス盤)

2002年4月1日投稿

皆さんは自分で初めて買ったジャズのアルバムというのを憶えているだろうか? 私は、ジャズということでは、Benny Goodman At Carnegie Hall が初めて買ったLPで、これは良い出会いであった。Modern Jazz のLPということでは、The Best Of Modern Jazz というたいそうなタイトルのついた Prestige の日本編集のオムニバス・アルバムであった。ジャズが何物かも良く分からない頃で、今考えると、このLPとの出会いは本当に幸運であった。もう40年も前の話である。
これには、下記の8曲が入っていた。ほとんどが Prestige レーベルの名演と言われる演奏である。

Sonny Rollins : Moritat
Miles Davis : 'Round About Midnight
MJQ : Softly As In A Morning Sunrise
Thelonius Monk : Smoke Gets In Your Eyes
Stan Getz : There's A Small Hotel
Clifford Brown : Lover Come Back To Me
Horace Silver & Milt Jackson : Opus De Funk
John Coltrane : Russian Lullaby

ほとんどが解説の必要の無い、誰でも知っている有名な演奏であろう。ジャズのLPを数枚しか持っていなかったこの頃、本当に良く聴いた。全曲、アドリブまで一緒に歌えるほどである。

Moritat は Rollins のユーモラスなソロも、Roach の(今考えるとあまり面白くない?)生真面目なソロも憶えてしまった。Miles Davis の 'Round About Midnight には、当時の身の回りのPops とのあまりの違いに戸惑い、ソロに入る前のブレイクのアレンジに驚嘆し、これが本家と信じ込んだ(CBS が本家らしい)。MJQ の Softly はあまりに聴きすぎて、ジャムでこの曲のベース・ソロが回ってくると、必ず John Lewis のソロ(らしきメロディ)を引用してしまう。Coltrane にはぶったまげた。中学生にとっては刺激が強すぎた。Monk の Smoke Gets In Your Eyes は2管とピアノが交互にメロディを弾くアレンジで、Monk の調子っぱずれの音と共にその摩訶不思議な世界に引き込まれた。Brownie のラバカンのソロは、Brownie のベスト5に入るのでは
ないかと今でも信じている。確かライオネル・ハンプトン時代のヨーロッパ録音(Metronome 原盤)である。Art Farmer がつまづいている様子も懐かしい。

LPは擦り切れてボロボロになってしまっているが、捨てる気にはなれない。本当に愛着がある。当時のペラジャケもその時代を思い出させる道具立ての一つとなっている。これらの演奏は今やほとんどCDで持ってはいるが、その思い出故にLPをそのままMDに落として聴いている。やはり名演はいつまでたっても名演である。この出会いは本当に幸運であった。ほとんど白紙の状態の時に良い演奏と出会えた、というこの出会いが、現在まで途切れることのないジャズとの付き合いの切っ掛けの一つである。そう言えば、当時、ライナーノートをどんなに貪り読んだことか。最近、CDの解説書なんて読む気にならない、これも年のせいか。

皆さんが初めて買ったジャズのアルバムはどんなものでしょうか?


Vol.15.  Book of Ballads / Carmen McRae (Kapp/MCA)

2001年11月25日投稿

ヴォーカルで1枚、と問われれば、ほとんど躊躇することなくこの1枚を挙げる。これは、LPで3回購入し、今はCDをMDに落として繰り返し聴いている。本当に素晴らしい。

この頃の McRae は、後期のようなくどさは無く、声は多少金属的ではあるが、その表現力は抜群である。何より、言葉がきれいで歌詞を大事にするその丁寧な歌い方は、まるで聴き手の英語聴取能力が数段上がったのではないかと錯覚させるようなクリアな歌い方である。中学高校の英語を学んだ方なら、単数複数も現在過去も、3人称単数か否かも間違いようの無い、さらに、r も l も、v も b も確実に識別できるであろうきれいな言葉である。ある意味で、これを聞いてしまった人は不幸であると思われるような、歌詞がこんなにも素晴らしいものだったと思わせる歌い方である。曲によっては多少ドラマティックな表現のものもあるが、Nancy Wilson のようなくどさは感じさせない。伴奏陣は、ストリング入りのオーケストラを中心に比較的大きな編成のものから小編成のものまで、3種類程度に分かれているようである。いずれも出過ず、McRae の歌を良くサポートしている。

アルバム全12曲、有名スタンダードに混じって、Do You Know Why? などの渋めの曲も入っている。How Long Has This Been Going On? や Please Be Kind、Something I Dreamed Last Night の3曲では丁寧に Verse から歌っている。

この中で1曲と言われれば、When I Fall In Love であろうか。1語1語噛み締めるように歌うその丁寧な歌い方、語尾までクリアに発音しており、その歌詞への思い入れが伝わってくる。前半メロディに忠実に歌って、後半素晴らしいフェイクを交え、独自の世界を展開し、歌詞の Or I'll Never Give My Heart の Never を4回繰り返し、それぞれ異なる表現をする個所など圧倒的である。

もう1曲、Angel Eyes では、エンディングのコーダを、Excuse Me でバサッと切り捨てて、While I Disappear の歌詞を歌わずとも、その場には最早居られない、と去らざるを得ない悲しさを見事に表現している。

ドラマティックな歌い方の代表は最終曲の Something I Dreamed Last Night であろう。現実を認めたくないという気持ちが切々と現われているVerse から始まり、コーラスは淡々と歌い始め、徐々に感情の高まりを見せ、ついに想いと現実がごちゃ混ぜになり、それまで夢だと自分に言い聞かせてきたものを、歌詞の最後で No, I Wasn't Dreaming Last Night と現実に戻って、その時の感情を一気に吐き出すように歌い終えるその表現力、ドラマティックさが少しも嫌味に聞こえない。この曲は、最後の一言で結論を出して曲を終わる展開という意味で、Guess Who I Saw Today と同趣向の曲である。その曲の McRae もとても素晴らしい(別のアルバムですが)。

Kapp/Decca 時代の McRae はどのアルバムを聴いても素晴らしく、がっかりすることは決して無いであろう。この時代近辺で McRae のもう1枚、と言われれば、After Glow であろうか、いや、When You're Away であろうか、はたまた、Something To Swing About であろうか、By Special Request であろうか。この時代の McRae、素晴らしいアルバムが多過ぎて、とても絞り切れない。


Vol.14.  Up with Donald Byrd (Verve)

2001年11月16日投稿

私の聴いた限りで、Jazz Rock(Fusion でも Cross Over でもない)で最もカッコ良いアルバムは、Byrd のこれと、Stanley Turrentine の Rougu 'n' Tumble (Blue Note) である。これは、コーラス入りのアルバムであり、この時期 Byrd は Blue Note のアルバムでこの種の試みを盛んにしたようであるが、このアルバム以外は良く聴いていないので、そっちの方はコメントのしようが無い。

このアルバムの最大の貢献者は Herbie Hancock である。どの曲を聴いても素晴らしく、わくわくしてしまう。1曲づつはコメントしないが、そのリズム・パターン、コードの音の積み重ね、タイミング、何もかもが素晴らしい。Hancock はサイドマンとしてこの手の Jazz Rock アルバムに参加した時が正に本領発揮というか本性を出すというか、これほど手のつけられない存在は無いのではないだろうか。勿論、そんじょそこらの安手の Jazz Rock ピアニストとは一線も百線も画す演奏である。リーダーの Byrd 自身は平凡、強いて誉めれば、シンプルさの美。

では、以下に全9各曲の寸評を。
Blind Man, Blind Man: Hancock の Blue Note 盤でお馴染みの1コードの曲の女声コーラス入り版である。このアルバム中ではまあ平凡。アドリブのバックでの(おそらくはコーラス隊による)合いの手が愛嬌。Boom, Boom: 5−4で終わる女声コーラスによる Blues。Burrell のソロがこの手のセッションにピッタリ。女声コーラスもカッコいいことこの上ない。House Of The Rising Sun: Hancock のリフが抜群。Byrd は退屈。女声コーラスはバックでの効果音的なオープン・ハミング。See See Rider (C C Rider): 女声コーラスがめちゃくちゃカッコいい。こんなカッコいいのはめったに聴けない。Burrell のソロも抜群。Cantaloupe Island: Hancock のお馴染みの曲のハミング・コーラス入り。何とギロつきですぞ。Turrentine も Grant Green もちょっと勝手が違う様子。Bossa: カッコいい5−4の Blues。Turrentine やっと本領発揮。Hancock はバッキングもソロもカッコいい。Green は今一。Sometimes I Feel Like A Motherless Child: 素晴らしいコードがついている。このコードなら、メロディをきれいに吹くだけの tp にバックをつけるだけでも満足しそう。普段は聞かれないきれいなサビがついている。混声コーラスも美しい。You've Been Talkin' 'bout Me, Baby: トニックとドミナントだけの2コードだが魅力的なコーラス付き。中に Byrd によると思われる誠にエロティックなハミング付き。My Babe: 3コードの変形の曲でコーラス付き。歌詞が意味深なのではないかと思われるが良くわからず。アドリブのバックの合いの手がカッコ良い。


Vol.13. Undercurrent / Bill Evans & Jim Hall : United Artists

2001年8月23日投稿

もしそのセッションの Alternate Take があれば、是が非でも聴いてみたい、と思うアルバムがいくつかある。私にとっては、Parker の全ての演奏と、この Undercurrent はその筆頭であった。

最大の理由はあの My Funny Valentine にある。正規のレコーディング終了後に偶然始められた Valentine を、エンジニアがたまたまスイッチを切っていなかったがために記録された、と報じられたあの1曲(そうではなかったと後程判明するが)。レコーディングを意識していなかった、打合わせのない自発的演奏があそこまでのスリリングな演奏をつくりあげた、と報じられたあの1曲である。せーので始めて何と素晴らしいスリリングな演奏をするのだろう、とてつもない人達だ、と思った。録音後20数年経って、Valentine のAlternate Take が発売されたことで、この伝説はフィクションであった、と判明するが、それでもこの Valentine 自体の価値が少しも揺らぐものではない。

2人のすさまじいばかりのコラボレーション、その間をぬって繰り出される複雑なリズムを伴った非常に緊張感の高いフレーズ、やがてそれが緊張の頂点で収束する時のスリルは、Miles Davis のバックでの、Hancock と Tony Williams が結託した複雑なリズムでのバッキングが、頭で一致した時の快感に似ている。そして、Jim Hall が4ビート・カッティングに入るその時のスリル、いまでも鳥肌が立つような興奮を覚える。
この Master Take の印象が強過ぎたせいか、Valentine の Alternate には、期待ほどの感激は無かった。勿論、Alternate だけを聴いていれば、それはそれで Master に近い感激を味わったのであろうが。Bill Evans が左手で(?)ベース・ラインを弾いているのが Master Take と大きく違う点であろうか? Jim Hall の4ビート・カッティングと比べると、非常に常識的であったのは意外だった。

上述の伝説は、Valentine 以外の5曲がすべてバラードであったがために、なお更信憑性を持って伝えられたのであろう。本来はバラード・アルバムとして企画されたが、予定外の Valentine がその素晴らしさ故に収録された、と。

残りの曲であるが、演奏内容としてはどれも素晴らしい。いずれも美しいメロディを持つ曲を、通俗的な表現であるが、インタープレイかくあるべし、と言うべき、2人の感情移入が見事になされた演奏である。個人的にはDream Gypsy と John Lewis の Skating In Central Park が好きである。どちらもきれいなワルツである。I Hear A Rhapsody, Romain, Darn That Dream, そして Alternate 発売時に追加収録さた、I'm Getting Sentimental Over You, Stairway To The Stars, いずれも聴き惚れてしまう演奏である。

これもどうしてもオリジナル盤が欲しかった。理由はジャケットである。当時の United Artists 共通のモノクロの写真、水に浮かんだ下着姿
の女性のミステリアスな姿、ちょっと凹凸のある厚手の紙を使用したダブル・ジャケット。当時、この質感は日本盤では出せなかった。これは、
当時新宿西口にあったオザワで買った。Time の Booker Little と同時の購入であった。



V0l.12.  ジャズ詩大全

2001年8月16日投稿

この所、夢中になって「ジャズ詩大全」を読んでいます。現在3巻目です。この本は15巻+クリスマス編、全16巻あり、私の近所の図書館には、全16巻そろっています。全巻で5万円程度は買うにはちょっとつらいですよね(その価値はありますが)。

この本は本当に素晴らしい。著者・村尾陸男氏は元プロのジャズ奏者(ギター及びピアノ)で、滞米経験もあり、翻訳も生業としており、音楽普及の仕事もしていたようです。

各巻40曲ほどが収められており、それぞれの曲に、
1)曲自身についての解説、作詞作曲者についての解説、時代背景、作詞作曲/演奏の経緯、歌手/レコード/映画/ミュージカについての解説など。
2)原詞(英語):Verse 及び Chorus の両方。異なる歌詞があればそれも、歌詞の男女差があればその両方も掲載されている。原詞と対比したその日本語訳(主に意訳)。
3)補遺として、この曲を歌うことに関する著者の見解など。あるいは、歌詞内容や音楽的な面からの解説など。
4)注として、詞の中で使われている英語の解説、各種例の提示。他の曲での使用例との比較解説。歌詞を変えて歌っているなどの提示。歌詞の男女差の解説。言葉の引用元(古典や聖書など)についての解説、その他、文法的解説など。
5)時々、追加の解説として、あるジャンルの音楽に関する解説、音楽家に関する解説、時代背景の話、言語学的な解説、等々。
など、話として読んでも非常に面白いものです。

著者がプロのジャズ奏者だっただけあって、音楽的な解説も誠に的を得たもので、上記解説に至っては、良くここまで調べたものだと感心する内容である。また、英語の知識も大変なものであることは容易に想像でき、歌詞内容の解説は非常に興味深いものである。文章に関しては、その姿勢の誠実さが読みとれる丁寧なものである。私にとっては、初めて知ることが多く、中には、やはりそうだったのか、という、私が世間とは異なる解釈をしていたものが一致していて安心したり、などと得るものが多いこと、この上無い。

歌手、あるいは歌手を目指す方、一度は目を通すことをお勧めします。新曲としてレパートリーに加える時に、あるいは手持ち曲について、それらの曲についてだけでも読んでみてはいかがでしょうか?自分で全巻買うにはつらいという方は、図書館でも覗いてみてはいかがでしょうか?代ナルあたりにでも、1セット店に置いてもらえると、ヴォーカル・ジャム参加者などにとって非常に役立つのでしょうが.....


Vol.11.  Sonny Stitt Plays / Roost

2001年7月12日投稿

世の中で一番好きなアルバムは、と聞かれたら何を挙げるだろうか?
一番好きなプレイヤーは、と聞かれれば即座に Parker と答えるが。好きなアルバムは多すぎて自分でも困るが、折りに触れて聴く、いつ聴いても快感、何度聴いても飽きない、プログラムの素晴らしさ、共演者の素晴らしさ、勿論リーダーの素晴らしさなどで、私に取っての一番はこの Roost レーベルの Sonny Stitt Plays ではないだろうか?

Roost の Stitt というと、日本では、このアルバムの兄弟アルバムのWith New Yorkers や Pen of Quincy ばかりがもてはやされているが、どっこい、Stitt 自身のできではこの Plays が一番ではなかろうか?Hank Jones という相性の良いバック(New Yorkers も Hank であるが)を得て、1ホーンで、しかもアルトのみを吹きまくっている。

プログラムも、歌物あり、循環あり、Blues あり、それもアップ・テンポからバラードまで、キーもマイナー/メジャーあり、で、全く飽きさせない。ほとんどアレンジ無しかヘッド・アレンジ程度で、時々打ち合わせ不足によると思われる乱れもあるが、気にならない。56年という時期は、Parker も亡くなって、Stitt としては安心して(?)アルトを吹ける時期だったのだろうか?ホントに屈託のない、溌剌とした演奏である。

この中で1曲を挙げろ、といえば、If I Should Lose You か Another You だろうか? Stitt の歌物/バラードは大好きである。この2曲はバラードと言うより、ミディアム・スローとミディアムであるが、楽々と倍テンでこなしている。Stitt は時々倍テンの一本調子と言われるが、どうしてどうして、無駄なフレーズは一つもない。全てが考えられたフレーズである。楽器を吹き切るという観点では、Stitt は Parker 以上ではなかろうか? 話はこのアルバムからはそれるが、Stitt は Parker 以上に Any Key OK なのではなかろうか? 途中転調でどんな難しいキーに入っても、それを一切感じさせずに、すべてのフレーズを吹き切ってしまう (With New Yorkers の Cherokee など)。こんな人も希有である。

Yesterdays も My Melancholy Baby も Nearness Of You も、歌物の演奏はかくあるべき、という演奏である。他には、アップ・テンポとスローの Blues が1曲づつと循環である。これらがまた、堪らない。どんなアップ・テンポでも泣きの有るフレーズが出るのがたまらい。Parker のようなミステリアスな部分はほとんど無く、明快そのものである。見方を変えれば、欠点でもあるのであろうが。

Stitt に加えて素晴らしいのが Hank Jones である。正に玉をころがすような、一切の無駄の無いきれいなフレーズの連続である。循環など、途中で裏コードから入るフレーズも交えて、誠にスムーズに弾いている。この頃の Hank は本当に好きだ(いつの Hank でも好きであるが)。Peterson が唯一頭が上がらない、という理由もわかる。

このアルバムには思い入れもある。学生の頃、オリジナル盤を銀座ヤマハで入手した。サラリーマンの初任給が3万円台くらいの時代に、2,500円はしたろうか? Roost 特有の分厚いボール紙のジャケットの中から、あの外盤特有の匂いと共に、ブルーのオリジナル・ロゴの盤が出てきた時は思わず笑みが出てしまった。盤質は、その当時の外盤一般にもれず、質の良くないものであったが、その盤を何度聴いたことか。ほぼ全曲のアドリブまで憶えるまでになってしまった。

60年代初頭は、こうしたオリジナル盤がリアル・タイムで入手できた。今から思えば、飲み代/生活費を節約しても、もっと沢山買っておけば良かった。でも、確かに当時、レコードは高価な贅沢品であった。


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