いい人でいたいと思っていた。
良い友達で、話のわかる奴で、気の合う友達。
そして、できることなら一生つき合える親友。
そう奴に思って貰えるように、俺は仮面を被り続けてきた。
物わかりの良い同僚のふりをして……。
だが、その思いが俺を苦しめ、俺を追いつめる。
これが恋なのか愛なのか、考える余裕もなく、俺は自分の気持ちを押し殺し、仮面の顔で笑うだけだ。
爆発しそうな思いと、暴走しそうな感情を抱えたまま、毎日が過ぎていく。
友達という名の他人のままで……。


BE Working


「うーん…………もう少し……」
俺の朝はいつも携帯の音で始まる。
「うるさいなぁ〜……え? もう朝かよ……何時だぁ? げぇ! 七時過ぎてる! やべぇ〜!! あ、携帯と……」
俺の名前は、工藤亮介 二十七歳 (株)ミサワコーポレーション勤務
「携帯……携帯は何処だ〜?」
俺は、朝にはからっきし弱かった。
「はい……もしもし」
寝ぼけながら電話に出ると、電話は、いつものように同僚の;佐伯からだった。
『こらぁ、工藤! いい加減で起きれ!』
「なんだ……佐伯かぁ……」
『なんだじゃない。毎朝毎朝、小学生じゃあるましい、お前は一人では起きれないのか?』
佐伯は、朝起きれない俺のために毎朝モーニングコールをしてくれる。
入社以来の付き合いだが、面倒見の良い奴だった。
『早く嫁さんを貰え』
「いやだね。女房は煩いし面倒だ」
俺が半分マジに答えると。奴は呆れたようにぼやいた。
『本当にみんなはこんな男の何処が良いんだか……。うちの女子社員が工藤のことをなんて言っているか知っているか?』
「なんて言っているんだぁ?」
『社内では寝てみたい男NO1だって言っているんだぜ』
「そりゃぁそうだろう。俺は男前だもの」
『いくら男前でも性格が悪かったら最低なんだよ』
「性格も良いだろうが? 優しいしな」
『何処がだ?』
「知らないのか? それなら佐伯、一度俺と寝てみるか? ベッドの中ではとっても優しいぞ」
俺がそう言うと、奴は電話口で喚く。
『朝っぱらからそんな冗談を言っていると、明日からはもう二度と起こさないからな!』
「わりぃ、わりぃ、愛しているよ、佐伯」
『いっぺん死んでこい〜!』
怒った佐伯は電話をいきなり切る。
「ちぇ、つれない奴だよな……」
俺は苦笑してベッドから起きあがった。
(さぁて……会社へ行くか……)
俺はコーヒーを一杯だけ飲むと、急いで着替えて家を出た。
 
駅へ行く途中、道沿いの桜は満開で、今を盛りに咲き誇っていた。
(今日はさぼりたいなぁ〜)
おっと……「今日は」じゃない、「今日も」だ。桜の花は風に揺れている。
こんな良い天気の日は、桜を眺めながら昼寝をしたらどんなに気持ちが良いにだろう。
(仕事なんかしていられるかぁ……)
俺は公園の中へ入っていくと、上着を脱いで寝転がり、満開の桜を眺めたのだった。
桜の下には至る所にシートやロープが張ってある。
多分、夜桜見物のための陣取りだろう。
俺はその一つに寝転がった。
(ふわーっ……)
あまりの気持ち良さに、俺はだんだん眠くなり大あくびをした。
すると……
「おい、そこは俺の場所だ」
見上げると、いかにもうさんくさそうな男が立っていた。
「どけよ」
「うるさいな、あんたはどうせ夜桜見物だろうが」
俺がかまわず喚き返すと、男は気弱な奴らしく、愛想笑いを浮かべる。
「そんなことを言わないでどいてくれよ。かわり良い物をやるからさ」
「ん……?」
男はポケットから小さな小瓶を取り出した。
「なんだ、それは?」
「大きい声じゃ言えないが、彼女にそれを使ってみろ。彼女はメロメロになるぜ」
(メロメロ……?)
どうやらそれは淫乱剤らしい。
(しかたがないなぁ……起きるかぁ)
俺はありがたくそれを頂戴して、そこから立ち上がった。
別にそのクスリが欲しかったのではない。やっぱり会社へ行こうと思ったからだ。
(さぼったら佐伯が煩いからなぁ……)
「さぁ、今日も頑張ろう!」
俺は気持ちを切り替えると会社へ行った。
 
ホールで偶然佐伯と一緒になった。
「よう!」
「工藤、おはよう。間に合ったな」
「まぁな、誰かさんのラブコールのおかげでな」
俺がそう言うと、奴は少し赤くなって喚く。
「誰がラブコールだ!」
「冗談だってぇ〜、裕貴のいけず〜!」
「馬鹿言ってんじゃないよ」
佐伯はぶつぶつ文句を言っていたが、二人してエレベーターが降りてくるのを待った。
「遅いなぁ〜」
「あぁ、そうだな」
エレベーターはどういうわけか今日に限ってやけに遅かった。
「そう言えば、工藤は今度の金曜日の夜にある親睦会はどうする?」
「あれ、今度の土曜日だったっけ?」
「そうだよ。部長が言っていただろうが」
「土曜日かぁ……」
土曜日はゲームをするつもりだった。
(後、少しでクリアなのに……)
「俺は土曜日はちょっと用があるから、行けそうにないな」
俺がそう答えると、佐伯は嬉しそうに言った。
「俺も土曜日から法事で実家に帰るから、不参加なんだ」
「何だ、そうか」
(佐伯が参加しないんじゃ、行っても意味がないな)
やっとエレベーターがきた。
俺たちはエレベーターへと乗り込んだ。
「なぁ、佐伯、この前お前が見たいと行っていたビデオを借りたぜ」
「本当か?」
佐伯は嬉しそうに聞いた。
「お前、何処へ行っても貸し出し中だって言っていただろう」
「そうなんだ。ビデオ屋を何軒回ってもレンタル中で駄目だったんだ。見終わったら貸してくれよ」
「いいけど。なんなら一緒に見ようか?」
「そうだな。あ、今度の週末は駄目だったんだ」
とても残念そうに佐伯は言う。
「金曜日の夜はどうだ?」
「あぁ、それならOKだ」
「じゃ、金曜日の夜にビデオを持って、お前のマンションへ行くから」
「悪いな、工藤」
「良いって、その代わり夕飯はお前持ちだ」
「あぁ、お前の好きな肉じゃが作ってやるよ」
「良し、肉じゃがで手を打とう」
佐伯は料理が得意だった。和食から中華まで何でも作る。
「じゃぁ、金曜日にな」
「あぁ」
俺は金曜日が待ち遠しかった。
エレベーターは俺たちの部署のある七階で止まった。
 
「ちよっと工藤君」
開発室へ行き、朝の挨拶をしょうとしたら、三浦加奈子は深刻そうな顔で言った。
「部長が呼んでいるわよ」
「部長が、俺を?」
「そうなの、工藤が出社してきたら、直ぐに俺の部屋へ来るように言ってくれですって」
(部長が……?)
「工藤、何をしたんだよ?」
「わからん」
部長に呼びつけられるようなミスをした覚えは無かった。
「早く言った方が良いわよ」
「あぁ」
三浦に言われて、俺は部長室へと行った。
佐伯は心配をして付いてこようかと言ったが、ガキじゃないんだからそんなみっともないまねはできない。
 
部長室へ行くと、部長はしかめっ面で俺を待っていた。
「失礼します。おはようございます、部長」
「おはよう、工藤君」
(俺、部長を怒らせるようなことを、なんかやったっけ?)
「朝からなんだが、君に話がある」
「は……はい……」
俺は緊張して部長の傍へ行った。
「実は……」
いつになく厳しい顔で部長は言葉を言いよどんだ。
普段は竹を割ったような性格で、白か黒かしかないような人だというのに珍しいこともある。
何かよほどのことに違いなかった。
俺はジッと部長の言葉を待った。
「いや……どうも、俺は駄目だな。回りくどい物言いはできない」
そう言って部長は苦笑する。
「はっきり言う。『Dプロジェクト』のデータが社外に持ち出されている形跡がある」
「何ですって!」
俺は驚いて部長を見返した。
『Dプロジェクト』とは我が社が社運をかけて開発中のプロジェクトで、俺たち開発部二課が中心になって開発中のプロジェクトのことだ。
「それは本当なのですか?」
「間違いない。誰かがデータを持ち出した形跡があった」
(そんな……)
「それはいったい誰なのですか?」
データを持ち出すには社員のIDが必要なはずだ。社員は皆各自IDを持っている。
「そこでだ、工藤」
 部長は辛そうに言う。
「俺は自分の部下にそんなことをする奴がいるとは思いたくない。だが、データが持ち出されたのは間違いない。で、履歴を調べたところ、そのIDは佐伯の物だった」
(え!!)
「まさか……部長……。佐伯はそんな奴ではありません」
「俺もそう思いたい。だが……IDは間違いなく佐伯の物だ」
(そんな、馬鹿な……。まてよ、そう言えば……?)
俺はふと三日ほど前の出来事を思い出していた。
それは三日ほど前のことだった。
その日、取引先から会社に戻る途中、俺は偶然、佐伯を見かけたのだ。
「何でこんなに渋滞しているのかなぁ……。まいっちまうぜ」
ぼやきながら何気なく外を見た俺は、反対側の喫茶店から出てくる内藤商事の田尻専務を見つけた。
(田尻さんだ……)
内藤商事というのはあまり評判の良くない会社だった。
いわゆるヘッドハンターを請け負っており、目をつけた社員を汚い手を使ってまでも強引に引き抜くと噂をされていた。
有名人だったので、俺も顔だけだが見知っていたのだ。
ところが、田尻さんが出て行った後、喫茶店の中か佐伯が出てきた。
(佐伯……?)
佐伯は明らかに田尻さんを気にしている様子で、彼が車に乗り込むのを確かめてから、その場を離れた。
俺はその時、嫌な予感がしたのだ。
俺が会社に戻った後、直ぐに佐伯も帰ってきたが、さりげなく俺が尋ねると、奴は曖昧に誤魔化してそれ以上はそのことにふれようとはしなかった。
それで、まぁ、俺も聞かなかったわけだ。
だけど、もし奴が田尻さんに狙われて、何か困っているのなら心配だから、ビデオを口実に奴のマンションへ行くことにしたのだ。
だが……
「だから、君にこんなことを頼むのはもうわけないが、それとなく佐伯の様子を見ていてくれないか?」
「俺に佐伯を見張れというのですか!」
「そうじゃない。彼がもしデータを持ち出したとしたら、何かよほどの事情が合ってのことに違いない。君は彼とは社内でも一番親しいだろう。それとなく彼が悩んでいないか、相談に乗ってやって欲しいのだ」
「部長……」
「もし、彼がデータを持ち出したとしても、私は彼を信じている。あの佐伯が理由もなしにそんなことをするとは考えられない」
「……」
「私が直接尋ねても良いが、そうなると事を内密にするわけにはいかないし、彼も素直に話してはくれないだろう。だから、工藤、君に頼むのだ。仮に、佐伯がデータを持ち出したと君に告白をしても、後は私が何とかするから、よろしく頼む」
「部長……」
「私は、佐伯の将来を考えればできるだけ音便にすませてやりたいと思っている」
「……」
「やってくれるな、工藤」
「……わかりました」
俺は承諾して部長室を出たのだった。
俺は開発室へ戻ると、直ぐに佐伯を探した。
だが、奴は自分のデスクには居なかった。
「あれ……佐伯は?」
「佐伯君なら、資料室じゃないの」
「そうか……」
「ねぇ、ここを片づけるのを手伝ってくれない?」
「え? 俺は急いでるんだよ」
「手伝ってよ」
(手伝わないと三浦さんは煩いからな……。)
俺はしかたなく三浦さんの手伝いをして、段ボールを片づけた。
「これでよしっと……。あ、工藤君、このロープいらないから戻してきて」
「あぁ」
三浦さんからロープを押しつけられた。
(急いで、佐伯を探そう)
 
資料室へ入っていくと、佐伯は俺が入ってきたことにさえ気づかずに、何かを探しているようだった。
「おい、佐伯」
俺が声を掛けたら、奴は酷く驚いて手にしていた資料を落とした。
「工藤……」
「何をしているんだよ」
見ると、それは『Dプロジェクト』に関する資料だった。
佐伯は慌てて足元に落ちた資料を拾い上げようとする。
「お前……どうするんだ、それ」
「ちよっと、気になったことがあったから」
「気になった?」
「何が?」
「いや、もう、良いんだ」
「おい、佐伯、お前なんかおかしいぞ」
「何でもないんだ!」
 佐伯は、そう言うと、拾い集めた書類を元の棚に戻して、急いで資料室を出て行った。
(なんなんだよ……あいつ?)
俺はわけがわからなかった。
 
開発室へ戻ると、佐伯は戻っては居なかった。
「あれ? 佐伯が戻ってこなかった?」
三浦さんに尋ねると、三浦さんは呆れたように言った。
「まだよ。資料室へ行くと言って出てっいったきり戻ってこないけど。何、君たち喧嘩でもしたの? さては工藤君が浮気したんでしよう〜」
「何だよ、それ……。馬鹿言ってんじゃないの」
俺はとにかく佐伯を探すことにした。
 
屋上へ行くと、佐伯が深刻な顔で居た。
「佐伯、どうしたんだ?」
「何でもない……」
そう答えた佐伯の顔は青ざめていた。
「お前、具合でも悪いんじゃないのか?」
「何でもないって。ほっといてくれ!」
「佐伯!」
佐伯は、喚いて行こうとする。
そんな奴を俺は慌てて止めた。
「待てよ、佐伯。何か悩んでいることがあるのなら、俺に話してみろよ。俺じゃぁ頼りないかもしれないけど、一人で考え込んだってはじまらないぞ」
「え……」
佐伯は、ちょっと躊躇ったようだった。
「佐伯! 友達だろ」
「友達……か」
奴はポッリと呟いて、自嘲したように笑う。
俺はそれを見てムカッときた。
「佐伯!」
俺は思わず奴を睨み付けた。
佐伯は辛そうに眼をそらした。
「いい年して、友達ごっこなんておかしいだろう」
「お前、本気でそう思っているのか? それがお前の本心なのか?」
「あぁ、そうだ! 悪いか!」
俺は唖然として奴を見返していた。
俺は奴のことを一番大事に思っていた。
奴も俺のことを少しは大事だと思ってくれていると信じていた。
ちゃらんぽらんな俺だけれど、奴に対してだけは真面目なつもりだった。
それなのに……。
奴に取って俺は何だったのだ?
悔しくて、はがいくて、俺は悲しかった。
その程度の男だと思われていたなんて……。
情けない。
(どうして何だ……!)
俺は、必死に押し殺していた、「理性」というの名の枷がボキッと俺の中で折れるのを感じていた。
「佐伯、本当にそう思っているのか?」
「そうだ」
奴は間髪を入れずに答えた。
俺の中で醜い感情が吹き出してくる。
それは俺を覆い尽くしていく。
悲しかった。
俺の思いは行く場のないやりきれなさに暴走し始める。
「俺にかまうな」
佐伯は冷たくそう言って屋上を出ようとする。
俺は……そんな奴をジッと見ていた。
佐伯が屋上のドアを開けようとしたとき、俺は奴にできるだけ明るい声をかけた。
どす黒い欲望が形をなしていく。
「佐伯、例の書類なんだが」
佐伯は振り返る。
「書類……?」
「そうだ。あのな」
そう言って俺は奴に何喰わぬ顔で近づいた。
そして、耳打ちするようなふりをして奴を引き寄せた。
「なんだ?」
怪訝な顔で佐伯は尋ねてきた。
そんな奴の腕を俺はグイッと力任せに引き寄せる。
「工藤! 何を!」
驚いて喚くのもかまわず、奴をコンクリートの上に引きずり倒した。
「うわーぁ!」
不意を突かれた佐伯は悲鳴を上げて倒れ、コンクリートの床で頭を打つ。
「う……うぅ……」
俺は呻いている奴の傍に屈みこんだ。
「すまん、大丈夫か?」
声を掛けると、奴は頭を打って朦朧としているようだった。
俺はそんな奴を抱き起こして、さっき公園で男に貰った催淫剤を無理矢理飲ませた。
「ほら、これを飲むと痛みが取れる」
「あ……うぅ」
佐伯はむせりながらも素直にそれを飲んだ。
意識の朦朧としている佐伯は普段と違って素直で可愛らしかった。
俺の中で最後の迷いがすっぱりと消えていく。
そのまま俺は奴の上に馬乗りになり、はぎ取るようにしてスーツを脱がせた。
佐伯は喚いて嫌がったが、かまわず裸にすると、さっき三浦さんから押しつけられたロープで奴を後ろ手に縛り上げた。
奴はようやく意識がはっきりしてきたらしい。
「工藤、お前……気でも違ったのか……? はずせよ!」
「あぁ、おかしくなっているのかもな」
俺はせせら笑って奴を見る。
奴の身体はしなやかで張りがあり、男にしては色白で、毛深く無く、ペニスに絡みついている産毛もそれほど濃くはない。
「工藤!」
「俺とお前は友達ではないんだろう。それなら何をしたってかまわないだろうが」
俺はけらけら笑いながら奴にそう言った。
「工藤……」
奴が息を飲んで俺を見る。その眼には恐怖が浮かんでいた。
お前が悪いんだ。俺が必死の思いで封じ込めていた醜い欲望を、お前はたった一言で解き放ったのだ。
「今、俺に何を……飲ませた……?」
どうやらクスリの効果が出始めてきたらしい。
「気持ちが良くなる薬さ」
俺はそう答えて、ロープで縛り上げた奴をコンクリートの上に転がしたままで、ポケットからタバコを取り出し、ゆっくりと吸い始めた。
空は青く、天気は良かった。
俺の吐き出した煙が、空に向かって流れていく。
佐伯は次第に呻き始めた。
「あ……あっ……うぅっ……」
眼が潤みだし、額には汗が噴き出してくる。
ゾクリとするほど妖艶な顔になっていく。俺はそんな奴をジッと見ていた。
「工藤……あ! こんなことをして……ただですむと思うな……うっ!」
やるせなさそうに息を吐きながら、奴はそれでも喚いた。
「わかっているよ」
俺はそう答えて、吸いかけのタバコを奴の目の前にグイッと近づけた。
佐伯は煙を吸って派手にむせる。
苦しいのか涙を流しながら咳き込む奴に、俺は冷ややかに命令した。
「どうだ、真っ昼間、誰が来るかもしれない会社の屋上で、素っ裸で縛り上げられている気分は?」
「てめぇ……!」
佐伯はぎりぎりと歯を噛みしめて俺を睨む。
その眼には憎悪が浮かんでいる。それでもクスリの影響か目元は赤く潤み、顔にはゾクゾクするような色香が漂っていた。
「そんな顔で睨んだって駄目だぜ」
俺は苦笑して、ロープが食い込んでギュッと盛り上がった、奴の乳首を指の先でピンとはじいた。
「や……止めろ!」
悲鳴を上げて佐伯は喚く。その声には甘い喘ぎが混じっている。
「いいねぇ。良い声だ。女にもそんな声を聞かせるのか?」
「……」
奴は答えない。悔しそうに俺を睨んでいる。
「見ろよ、今の声だけで、こんなになっちまった」
俺は苦笑して、奴に見せつけるように自分のジッパーを引き下ろした。
俺の息子はすっかり感じて猛りだしている。
引き出すとそれはグイッと角度を上げて固くなる。
「こいつがお前に可愛がってくれってさ」
苦笑して俺は奴の髪を掴んで引き起こした。
「い……痛い!」
佐伯は悲鳴を上げる。
「さぁ、オシャブリしろ。いつもお前が女にして貰っているだろう」
「嫌だ……」
奴は嫌がった。
俺はそんな奴の横っ面を無言で叩いた。
「う……うわーぁ!」
悲鳴を上げて奴は床に倒れる。そしてすすり泣きを始めた。
「工藤……何でこんな事をするんだ……俺が悪かった。謝るから、止めてくれ」
「もう、遅い」
そう、遅いのだ。
俺は泣きじゃくる奴をもう一度起こす。
「さぁ、しゃぶれ。噛んだらだだじゃすまないからな」
佐伯はすすり泣きながら、おそるおそる口を開いて、俺を銜える。
それでも銜えた物のどうして良いかわからないらしく、困った顔で俺を見上げた。
「何だ、女にして貰ったことは無いのか? アイスキャンディを嘗めるようにしゃぶるんだよ」
俺がそう言うと、奴は頷いてぴちゃぴちゃとしゃぶり始めた。
佐伯が肩で荒く息を吐くたびに、俺のモノはさらに猛ってくる。
奴のフェラは経験がないせいかお世辞にも上手いとは言えなかったが、俺にはそれで充分だった。
そのうち奴は一生懸命しゃぶり始めた。
静かな屋上に、奴の息づかいと、ぺちゃぺちゃとしゃぶる音が卑猥に流れている。
俺が呻くたびに奴は嬉しいのか熱心に舌ですきあげる。
ますます俺のモノは勃起し始め、熱がそこに集中してくる。
そして俺は低く呻いて奴の口の中へ一気にはき出した。
「く……くうっ!」
佐伯はそれを全部飲み込めずに吹きこぼれた物を顔に受け、悲鳴を上げた。
「う……うわ!」
俺は荒く呼吸を整えながら奴を見ると、奴は戸惑っているようだった。
奴のペニスも感じたのか白い蜜が吹き上がっていた。
「悪い奴だな、自分もいくなんて」
俺はせせら笑って奴のグニャリとなったペニスを突いた。
途端に佐伯は身体をくねらせて喘いだ。
「よ……止せ!」
「痛いか?」
「うるさい……!」
言い返した奴の目は誘うように潤んでいた。辛そうに肩で息をする。
そのたびに髪の毛が揺れて、汗が辺りに飛び散った。
クスリが効いてきたのか、奴は辛そうに身体をくねらせていた。
ペニスも今いったばかりだというのに、直ぐに勃起し、先端から蜜が吹き出している。
亀頭の先を弄っただけで、奴は辛そうに眉をしかめて俺を見る。
「いきたいか?」
からかうようにそう聞くと、ムッとした顔で唇をギュッと噛みしめた。
もっと、泣かせたい……。もっと……。俺を煽る。
心を得られないのなら、憎まれた方が良い。
俺を憎んで憎んで、一生忘れられないほどに憎ませてやる。
「もう……許してくれ……工藤……もう、助けてくれ」
奴は呻きながら俺に許しを請う。
それなのに奴のペニスはビンビンにそそり立ち、勃起していた。
「お前にマゾっけがあったとはな……」
俺は苦笑して奴の髪を掴んで強引に俺の方を向かせた。
奴は涙と汗でグシャグシャになっている。その眼は恐怖と憎しみが浮かんでいた。
「足を開け」
俺に向かって素直に足を開く。
袋はせつなそうに揺れていた。指の先でアナルを弄ると、辛そうに呻く。
まだそこは固くすぼんでいた。
「ここに誰かをくわえこんだことは?」
「あるわけ無いだろう!」
「バージンか……」
佐伯は身体を強張らせた。
指で閉じている襞をほぐすように一つ一つ丁寧にのばしていく。
「あ……止めろ……! あぁ……」
クスリが効いているせいか、痛みは感じていないようだが、理性が奴に嫌だと言わせているようだ。
(直ぐにわからなくしてやるさ)
俺は、そんな奴の醜態を見ながら思った。
「やぁ……! もう、駄目だぁ……!」
弄れば弄るほど佐伯はやるせなさそうに肌を震わせる。
誘うように腰が揺れ、その目は艶っぽく潤み、何回も唇を舌で嘗めた。
ゾクゾクするような艶やかさだった。
淫らにゆれる肢体。息も切れ切れに言葉では俺を拒みながら、その目は俺を煽る。
そのうち頑固に俺を拒んでいたそこはほぐれだしてきた。
二本の指でさらに中をかき回す。
「あ……うっ!」
奴が呻くたびに、俺の指をキュと締めつける。
そんな奴の反応が楽しくて、俺はさらに指を三本にして、中をほぐしに掛かった。
「やぁ! もう……嫌だぁ……止めてくれ……工藤……い……やぁ!」
奴はすすり泣きながら俺に嫌だと訴える。
その姿はさらに俺を煽った。
ゾクゾクするような快感が俺の全身を駆け抜けていく。
だが、このままねじ込むわけにはいかない。
奴も辛いが俺も辛い。
ねじ込んだは良いが、抜けなくなって救急車のお世話だなんて、良い笑い話だ。
再び充分に勃起しだしたペニスを掴むと、奴ははじかれたように身体を仰け反らせた。
「く……工藤!」
奴のペニスは爆発寸前まで撓っていく。
佐伯はガマンできずにすすり泣き出す。
とうとう理性を手放したらしい。
「あぁ……んっ!」
「気持ち良いか?」
わざと聞いたら、泣きながら頷いた。
奴のペニスは撓りだし、俺の手の中で固くなり始める。
それがグイッと力を漲らせるたびに、アナルも開いていく。
だが、まだ、ねじ込むには早い。
俺はゆっくりとそこを扱きながら、感じて赤く浮き出した奴の乳頭を口に含んでしゃぶった。
「あ……あぁ!」
佐伯は我を忘れて喘ぐ。その声は艶やかだった。
全身でよがるその姿は淫らで美しい。
普段はストックで禁欲的にさえ見えるというのに、乱れる姿は別人のように妖しげで綺麗だ。
(もう、そろそろかな?)
俺はわざと外して弄らないでいた、前立腺を指でグイッと付いた。
瞬間、奴は甲高い声を上げて身体を痙攣させあっけなく上り詰める。
「あ〜!!」
いったものの奴はそんな自分の身体の変化が信じられないらしく、戸惑ったように瞳を揺らした。
俺は、奴の肢体から力が抜けた一瞬を見逃さなかった。
心が手に入らないのなら、いっそ俺を憎ませたいと思っていても、奴の涙を見るのは辛い。
惚れた弱みだ。
そのまま奴の足をグイッと胸に押しつけて、そこに俺の猛ったペニスを押しつけた。
気づいた奴が嫌がって暴れるより早く、俺は強引にねじ込んだ。
「う……うわー!!」
絶叫して奴は身体を強張らせる。
だが、そこは俺にしっとりと絡みついてきた。
「う……ううーっ……!」
「力を抜け!」
奴の尻を力任せに叩く。その度に、中は緩やかに開いていく。
俺は激情のまま、一気に全てを捻り込んだ。
そして、暴れる奴をギュッと抱きしめた。
「く……っ……うぅ……!」
佐伯は痛いのか、焦点の合わない目で俺を見る。
涙でグシャグシャになったその顔は、とても綺麗で、それが俺のせいだと思うと、俺をさらに高揚させる。
「佐伯……ごめんな」
聞こえたのか奴は微かに微笑んだ。
奴の中は焼けるように熱く、俺を貪るように締めつけてくる。
少しでも腰を引こうとすると、絡みついて俺を離そうとはしない。
最奥を突くと、奴は嬉しそうに歓喜の声を上げる。
俺は奴を乱れさせたくて、さらに激しく動いた。
「や!」
声にならない声を上げて、佐伯は身体をくねらせ、俺はそんな奴を激情のままに揺らした。
「うぁ〜!」
俺の荒い息づかいと奴のすすり泣きだけが、屋上に充満していく。
力の限り奴を責め立て、俺はいつしか自分の欲望のままに、奴を犯していた。
そして、俺がいっそう深く奴の中へ突き立てたとき、俺はそのまま奴の中へはき出していた。
佐伯は、その瞬間気を失った。
 
 
その後、俺は佐伯の具合が悪いから送っていくと三浦さんに断って早退し、まともに立っていられないほど疲労した奴をつれて、佐伯のマンションへと行った。
三浦さんは佐伯を見て、病院へ連れて行った方が良いと勧めたが、俺は曖昧に頷いて会社を出た。
「俺は謝るつもりはない。憎みたければ憎め」
開き直った俺に佐伯は辛そうに顔を歪ませた。
「工藤……」
「じゃぁな」
息苦しさに耐えられなくなって、帰ろうとした俺を佐伯は呼び止めた。
「Dプロジェクトのデータを持ち出したのは部長なんだ」
「何だって!」
俺は驚いて振り返った。
「工藤は部長に心酔しているから、どうしても言えなかったんだ」
「嘘だろ……」
「嘘じゃない。俺の上着のポケットに入っているFDを見てみろ」
(そんな……馬鹿な)
「佐伯……」
佐伯はまた疲れたように眠りだし、それ以上話そうとはしなかった。
奴の上着を調べると、奴のいうとおりFDが一枚入っていた。
俺はそれを持って佐伯のマンションを出た。
そのまま自分の部屋へ戻り、FDの中身を調べた。
そこには……。
「畜生……!」
佐伯の言うとおりだった。俺はDプロジェクトにアクセスした履歴が歴然と並んでいた。
そして、それに使われているIDコードは部長の物だったのだ。
Dプロジェクトのデータを持ち出したのは他でもない部長だった。
だが、それでも俺はまだ信じられなかった、
そのFDを持って部長を問いつめてみようかとさえ思った。
だが……。
部長は佐伯が持ち出していると言ったのだ、もし部長が自分で持ち出したのなら、このFDを突きつけても、認めようとはしないだろう。
俺はもっと証拠が欲しかった。
それを佐伯に言うと、佐伯も納得して、部長の周辺を調べてみると言った。
それで俺は部長には佐伯の事を見張っているようなふりをして、佐伯と二人で部長の行動に注意するようになった。
そんなある夜、
佐伯から電話があった。今、中州にあるバーにおり、部長が田尻さんと会っているらしい。
俺はすぐに行くと言って、アパートを飛び出した。
バーの中は薄暗く、俺は部長達に気づかれないように注意をしながら、それとなく二人の様子をうかがった。
二人は何やらひそひそと親密そうに話をしている。
そんな二人を見て、俺は信じていた部長に裏切られたという怒りよりも、虚無感の方が強かった。
(そう言えば佐伯は……?)
二人をつけていたはずの佐伯の姿は店内には無い。
店の外にも佐伯らしい姿は見なかった。
(あいつ何処へ行ったんだ?)
不信に思っていると、部長達が店を出て行く。
その時、田尻がカウンターにいた男に軽く目配せをした。
男は、嫌な笑いを浮かべると、店内の奥の方をあごでしゃくって頷く。
二人はそのまま出て行った。
俺はなんとなく悪い予感がして、トイレに行くふりをして、男が示した方のドアを開けた。
そこは通路で、どうやら従業員の為の部屋につながっているらしい。
(何処にいる!)
更衣室を通り過ぎて、一番奥の倉庫に行ったとき、微かではあったが人のうめき声が聞こえてきた。
(佐伯!)
俺は勢いよく倉庫のドアを開けた。倉庫内は薄暗かった。
目をこらしてみると、佐伯は数人の男達に押さえつけられていた。
佐伯は背後から羽交い締めにされ、奴のシャツは破れ、下半身はむき出しで、足を大きく開かさせられていた。アナルには男のペニスを捻り込まれ、別の男が佐伯の頭を押さえつけるようにして、自分のペニスを奴の口に銜えさせている。佐伯は苦痛に呻いていた。
その目からは涙が流れ落ちている。
俺はその光景を見て、カッと頭に血が上り、我を忘れて、怒鳴った。
「てめぇら、そいつから離れろ!」
一斉に男達が俺を振り返る。
だが、それより早く、俺は倉庫の中へ飛び込むと、男達に向かってなぐ掛かった。
不意打ちを食らって男達は悲鳴を上げて倒れる。
俺は夢中で奴らを次々と殴り倒すと、佐伯を羽交い締めにしていた奴に、強烈なパンチを食わせた。男は呻いてひっくり返る。
「く……工藤……」
「大丈夫か?」
助け起こすと、佐伯はホッとして、そのまま俺の腕の中へ倒れ込んだ。
俺はそんな奴を急いでそこから連れ出した。
佐伯のマンションへ行き、傷の手当てをしていると、奴は意識を取り戻した。
「お……俺は……!」
佐伯は恐怖を思い出したのか、俺にしがみついてきた。
俺はそんな奴をそっと抱きしめて何回も、「大丈夫だ」と囁いた。
しばらくしてようやく佐伯は落ち着いた。
「部長達が何を話しているのか知りたくて近づこうとしたら、いきなり……あの倉庫に連れて行かれたんだ。奴らに気づかれていたらしい。それで俺……滅茶苦茶に暴れたけど、勝てなくて……」
佐伯は悔しそうに唇を噛みしめた。
「もう、大丈夫だ。これで部長がデータを持ち出したのだとはっきりわかった」
「工藤……」
「後は、上層部の判断を仰ごう」
「すまない。助けてくけてありがとう」
「いや、良いって」
俺がそう言うと、佐伯はポッリと呟いた。
「俺……この前、お前にロープで縛られて犯られた時は、こんなに怖くはなかった」
「佐伯……」
「嫌だったけど、今日みたいに死ぬほど恐ろしくはなかった。それに……嫌じゃなかったし……」
「お前……」
「見るな! 俺を見ないでくれ……」
「佐伯、お前」
「俺は……俺の身体は汚い」
「馬鹿、なんて事を言うんだ。佐伯は綺麗だよ」
「嘘だ! 俺は見ず知らずの奴に犯されたんだぞ。俺は……」
辛そうに呻いて佐伯はギュッと両手で自分の身体を抱きしめる。
その目は赤く潤み、不安げに揺れていた。
「お前は綺麗だ」
「工藤……」
そんな奴に俺は言い聞かせるように言った。
「お前は少しも汚れちゃいない。ココで感じたか?」
そっと布団をめくって奴のアナルにふれる。
「違う!」
「怪我をしたのと一緒だ。わかるな」
「工藤……」
佐伯は泣きながら俺にしがみついてきた。俺はそんな奴をギュッと抱きしめて囁いた。
「怪我は直ぐに治る。良いな」
佐伯は泣きながら頷く。
「俺、あの時、ずっとお前に助けて欲しくて、夢中でお前を呼んでいた」
「佐伯……」
「俺のことを強姦するような最低の奴なのに……俺は……俺は」
俺の肩に顔を押しつけて、佐伯は泣きじゃくりながら喚く。
「お前が助けに来たとき、すごく嬉しかった。俺……嬉しくて、嬉しくて……。好きだ……工藤」
「え?」
驚いて奴を見ると、佐伯は真っ赤になって俯いた。
「お前……良いのか? 俺で」
聞き直すと、ムキになって言う。
「好きなんだよ、工藤が!」
「佐伯!」
俺は夢中で奴をそのままベッドに押し倒した。
「好きだ! 俺もお前が大好きだ!」
「工藤……」
佐伯はそっと目を閉じる。そんな奴に俺は貪るように口づけたのだった。
 
その後、俺達は上層部にFDを差し出し、部長が田尻と会っていたことを報告した。
部長は会社から追放され、俺たちはめでたく恋人同士となった。
社内では相変わらず友人のふりをとおしてはいるが、休日はいつも一緒に過ごしている。
「工藤、遅い〜!」
「悪い悪い、車が混んでいたんだ」
「早くしないと、映画が始まるぞ」
「あぁ、急いでいくか」
手を繋ごうと奴の手を握ったら、佐伯は真っ赤になって怒鳴る。
「馬鹿! 何をするんだ」
「いいじゃん、へるもんじゃなし」
「へるんだ!」
怒って喚いた奴の顔はとても可愛かった。
 
 終わり
 

 

TOMORROWへGO!

 

宮川ゆうこさん

 もう、お馴染みリーフ出版の「オオカミさん・シリーズ」の生みの親。
 あの水瀬さんのおかぁさまです。

 只今(この時点で)その水瀬さんの呪いに、嵌っている管理者ですが(爆爆)、もうたまりません!(それにしてもプログラムが組み上がらんっ)
 呪われても、あなたに憑いて行くわ〜〜〜(・・・・・。ウソヨ、カズミチャン)

 このHPに掲載されている「BE Working」は、宮川さんが個人的に造って遊んでいるゲームの元話だそうです。
 「なんのゲームをつくってんの?」って言う突っ込みは無しにしてね!>お嬢様方
 このサウンドノベルゲームは宮川さんのHPで、体験版を出していますので、ちょっと体験してみるのもいいかもです(^^)


2002.04.10掲載

 

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