Art Pepper 「TOKYO DEBUT Art Pepper first live in japan」


  出来事という意味で言えば、これほど分かりやすい録音も少ない。
  何しろペッパーが日本に初来日できたってこと自体が大きな出来事だったんだから。
  でもそんな状況的なことだけじゃなくて、音楽的な面からも興味ある演奏になっている。
  まず、なぜかペッパーの初来日が、カル・ジェイダーというかなり軽い乗りのグループの
 ゲストという形で実現したってことが重要だ。それはペッパーが有名なヤクのビョーニンだっ
 たので、当局が入国許可を与えるかどうか寸前まで不明で、そのためにプロモーターがとっ
 た賢い策だったのだけれど。
  それと、日本の聴衆が、カルのグループよりはるかに人生論的に深いところでペッパーを
 待ち受けていたという点が重要だ。

  CDにあるペッパーの奥さんのノートによれば、カルのメンバーは、音楽に関してかなり
 ナーバスなペッパーが事前に作った演奏のメモを無視したようだ。その理由は「簡単」だか
 ら。つまり、カールのグループとはそういうグループなのだ。
  ラテンリズムが得意で、軽く明るい乗りのこのグループは、アメリカではかなり人気があ
 る。演奏も編曲もできるベテランと、いきのいい若手が組合わさり、自信たっぷりなのだ。
  そうした技量に誇りをもっている若手からしてみたら、ストレートライフがどんなに快速
 であろうとそんなことは大した問題ではない。
  でも音楽っていうのはそれでおしまいっていう程度のものじゃない。もうちょっと何かが
 ある。
  something else ていうやつ。アートはそこを問題にしてきたプレイヤーなのだ。
  カルのグループもすごい人たちだ。ただ音楽というもののとらえかたが、ちょっとアート
 と違うんじゃないかという気がする。彼らにとって音楽はスタイルなんだ。
  スタイル----それは決して侮れない問題だ。形式と内容は紙の裏表だと誰かが言っていた。
  アートにはそれが分かっている。スタイルが重要だということは当然として、しかし、そ
 のスタイルを本当にすごいものにするには何が必要かということを考え続けてきたんだ
 から。スタイルをすごいものにするのはスタイルじゃない。もっとほかの何かだ。形式に
 対して内容。でも、音楽にとって内容って、いったい何なんだろう。

  さて、肝心の演奏だが、オーソドックスなチェロキーの演奏から始まる。格調高いハード
 バップのコード展開である。バックの方もそれなりにオーソドックスだ。特にベースはかな
 りきちんと60年代のコードをきざんでいるように聞こえる。この録音は、すでに来日5日
 目のもので、すでにユニットとしてはかなり慣れてきているはずなのだが、やはりこの日最
 初の手合わせということもあって、やや堅い。でも、アドリブの展開が進んいくと、アート
 はいつものようにフリーキーな音を出し始める。かっこいい。
  やがて The spirit is here に移り、ラテンのリズムが加わって雰囲気はかなりリラッ
 クスする。カールとアートの共通するコンセプトは何と言っても「ラテン」である。二人と
 も昔からラテンが好きなのだ。カルはラテンを常に新しいサウンドに作り替えてきたし、
 アートは軽いラテンに魂を吹き込んできた。
  3曲目の Here's that rainy day はすごい。アートがすごいのである。キーボードの
 クレア フィッシャーは、編曲の才能の方がすごい人だけあって、ときどきすごいコードを
 付けているような気がするのだが、この曲はもうアートにお任せという感じだ。だって、人
 生の苦しみ方がちょっと違うからね。

  次が問題のストレートライフ。何で自分が大切にしてきた曲をこんな快速でやるのかとも
 思うが、軽々とバックを付けてくるリズム隊も確かにすごい。
  しかしこの曲もアートがすべて。
  次は ラテンで押しまくる Manteca 。こうなるとみなさんすごい。こういうリズムって
 日本人はなかなかだせません。
  10分の3あたりからのアートのバックでEから半音ずつ下がっていくキーボードがなん
 ともいい雰囲気だ。アートも軽いリズムできちっとプッシュしてくる。
  でも、出てくる音の重さがやっぱりちがう。
  アンコールになって Mannha de carnaval と Felicidade。こういう曲だとますますサ
 ウンドの形を作るだけの人と、音に意味を持たせられる人との違いが出てくる。どう
 したらアートのように吹けるのだろう、と思ってしまう。
  ほとんどロック風のギターだった Bob Redfield という人が、突然ウエスモンゴメリー
 もどきのオクターブ奏法を始める。うまい。なんでもできるんだなあ。情緒もあるし。
  でも、やっぱり深さが違う。 

  このツアーの後、カールがかなり不機嫌だったという説がある。日本でのアートの人気が
 圧倒的だったからだ。
  ありそうな話である。カールの音楽はサウンドが今風だし、少なくともペッパーよりは新
 しい。だから、アメリカでは人気の高いグループだった。そのカールにしてみれば「なぜな
 んだ」というところであろう。
  そうじゃなくて、カルが音楽について悩み始めたんならすごいんだけれど。  
  でも、そんなうわさ話の真偽はどうでもよい。興味があるのは、この後、カールのサウン
 ドに変化があったかどうかだ。つまりスタイルをすごく見せる何かを手に入れたかってこと。
  ぼくはカールの追っかけではないので、それがよくわからない。だれか知ってたら、教え
 てほしい。

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