東京の蕉風 嵐雪系(雪門)一覧

                    無界坊淡水編『俳諧千々の友』(明治36年刊)より


 芭蕉→嵐雪→吏登→蓼太→完来→対山→椎陰→鳳州→梅年→

 [吏登齋碧海]  植村 清八

  東京市本所区菊川町2丁目39番地

  人に染ぬ色や浅黄の桜花
  鐘涼し鶏すゝし明境
  名月や水にも見ゆる秋の隈
  降積は暖とき雪の庵哉

  初め蓬來庵。雪中庵梅年の門下。


 蓼太→宜麦→青蛾→岱阿→雀志→

 [老鶯巣 葵陽] 亀田 一恕

  東京市駒込郵便区丸山新町41番地

  朧夜のそれからそれや朝霞
  筑磨鍋出雲の評議きかまほし
  煎豆も味のある夜や鹿の声
  花の色はうつり替りて枯野哉 

  老鶯巣蓼太(三世雪中庵)の系統。雪中庵雀志の弟子。六世老鶯巣。


 芭蕉→嵐雪→梅年→碧海→

  [在中庵 紫明]  荒井  浩

  東京市本郷区湯島一丁目十八番地

  嵐雪の系統。吏登齋碧海の門。元は田喜庵詩竹の門。

  若日やまた名もつかぬ色配り
  見返れは月はかりなり時鳥
  虫聞かぬ夜はなし庭は狭くとも
  其意地か人にありたし雪の竹


 蓼太→寥松→丁知→

 [抱甕舎 松舟]

 東京市神田区南甲賀町八番地

 汐入の池に舟あり春の月

 影引くや若葉の下の小灯籠

 戸の外は露けき夜半そ秋の[虫厨](かや)


  嵐雪→吏登→蓼太→完来→素雲堂曾云

                  ↓対山→椎陰→鳳州→梅年→

 [素雲堂 素白]   広川 範治

  東京市京橋区越前堀一丁目十番地

 分別もなく初花に逢ふ日かな

 玉苗やふり分け配る朝の月

 白菊や染る秋には片寄らす

 虎杖の花咲残るしくれかな


  蓼太→寥松→禾葉→氷壺→如白→麗玉

 [双雀庵 麗玉]  瀬戸 兼吉

 東京市小石川区初音町十三番地

 鶯も此処に宿借れ梅に月

 花掃た箒も寂て蝸牛

 約束は降らぬつもりの月見かな

 軽\/と無意風外の落葉哉


 対山(五世雪中庵)→宜稲→富草→

 [秋養斎 実阿] 鈴木三郎助

  東京市日本橋区本銀町一丁目十六番地

 接木には恥た木振りて有りにけり

 念いれて見入れはゆるゝ牡丹かな

 十六夜の光りあまりそ草の露

 心してきくへき庭の時雨哉


  芭蕉→嵐雪→梅年→碧海→

 [蓬莱庵 百年]  福田伊兵衛

  東京府下南葛飾郡亀戸町大字本所松代町四丁目十四番地

 元日の柱に古し檜笠

 求めてはきかれぬものを時鳥

 蓑虫の露にもぬれて今日の月

 寒からぬ色や小春の杜若



 以下、『俳諧千々の友』に掲載のない宗匠を、松村唯一編『明治俳豪の俤』(霞吟場・明治45年)により補う


 芭蕉→嵐雪→吏登→蓼太→完来→対山→椎陰→鳳州→梅年→雀志(九世)→

 [雪中庵 宇貫]

  住所不明

 面白や雪舞ふ中に梅の花

 鶯や和らき渡る枯尾花

 薄日さし雨うち灑く若葉哉

 五月雨の天補はむ石もかな

 露も実の入りし丸みや月の秋

 白菊やくらへものには不二の雪

 花やある木立護れる冬霞

 伐株の菊に芽さしや霜柱


 梅年(二世吏登斎)→

 [一鷹庵 碧海] 安政2年、三河国生まれ

 東京市本所区菊川町二丁目三十九番地

 蓬莱や浜の真砂の精米

 干して揉む袴の土や梅の花

 花のちる雨の降る夜の蛙かな

 風涼し葵祭の夕つかた

 椎にふる雨聞きなから夏書哉

 ふと近う見ゆる筑波や今朝の秋

 斯う雲の無いもめつらし月今宵

 坂下りてはつたり暮るゝ紅葉哉

 風絶えてひと降かゝる時雨かな

 大年や更けて見に行く市のさま