東京の蕉風 其角系一覧

                    無界坊淡水編『俳諧千々の友』(明治36年刊)より



 芭蕉→其角→老鼠肝→曾湖十→風湖十→昇江左→螺鼠肝→

[老鼠庵 永機]  晋 永機 80歳

 東京市芝公園

 其角の系統。其角には晋子という別号があった。機一に寶晋齋を譲る。明治36年で80歳だった。

 尋ね残す花やあしたの初桜
 いつを寝て宵暁のほととぎす
 闇の影いく夜かさめてけふの月
 小窓から鳥打雪の伏家かな


 芭蕉→其角→湖十→永機→湖十→江左→鼠肝→永機→

 [宝晋齋・其角堂 機一]  田邊 機一

  東京市本所区向島三囲社内

  当然のことながら其角の系統。寶晋齋は其角の別号でした。

  はつ花や咲て見たれは古なしみ
  魂は五尺にあまれ菖蒲太刀
  名月や空もはれ着のひとつ紋
  浅草の師走聞ゆる宵寝哉


 芭蕉→其角→(五代略)→晋永機→

 [晋雪庵柳崕]  田中茂稻

  晋柳崕 蕉窓 晋柳子 柳の本    (老鼠堂晋永機のあとを継ぐ)

  明治33年、[?]風一派を樹立。「俳諧百人一首」を刊行し、天覧の栄誉を受けて門下生が増大した。

  東京市本所区松坂町二丁目五番地(墨田区両国二・三丁目あたり)

  夕暮は花にもあるか鐘の声
  待し夜はあやなしは啼時鳥
  さざ波や黄金ちらして秋の月
  山姫のもすそに似たりたひら雪


 芭蕉→其角→湖十→永機→湖十→江左→鼠肝→永機→機一→

 [螺舎 一堂] 小林猶右衛門

  東京市本所区向島中之郷町(墨田区向島三丁目~押上一・二丁目)

  其角の系列。永機 - 機一 - 一堂と続く。もともと螺舎は其角の別号でした。

  こんな山唐にもあろか朝の華
  螺子酔て鯉屋尋ねけり初鰹
  歙川の硯洗や于魯の墨    (さすが其角の流れ。よくわかりません。だれか意味を教えてください。 敏)
  酒の外合薬なき寒さ哉    (かなりふざけた句調ですね。一筋縄ではいかぬしたたか者だったに違いない。)


  芭蕉→其角→湖十→永機→湖十→江左→鼠肝→永機→機一→一堂→

 [深窓 秋光女] 小林ミツ子

  東京市本所区向島中野郷町(墨田区向島三丁目~押上一・二丁目)

  初虹や五色の外の筑波山  (「五色墨」を想っているのでしょうか。だとするとかなりうがっています。)
  復習の窓にほたるの夕べ哉
  蕣や誰かわすれたる策の先
  程にせよ着ればきるほど寒いもの


  芭蕉→其角→(五代略)→晋永機→晋柳崕 

 [柳糸園 柳糸]  布施田 繁次郎

  東京市浅草区馬道町一丁目十八番地

  其角の系統。晋柳崕の門。和歌も柳崕に学びたしなむ。

  麗や悠然として鳥の舞う     「麗」とか「悠然」とか概念的ですが、それが新しかったのかもしれません。
  夏断して無念の時ぞ生仏
  鳴やみて淋しうしたり蟋蟀    雰囲気がありますが、考えればあたりまえとしか言いようがありません。
  ささ鳴や雨のひと日も油断なき 教訓調です。 


  芭蕉→其角→(五代略)→晋永機→晋柳崕→

 [阿月庵 柳波]  鳥山 波五郎

  東京市神田区新銀町十三番地

  其角の系統。晋柳崕の門。

  小さうてしかも振よき柳かな    素直でそれなりに面白いのですが、人に喩えそうで怖い。
  身はいつか神代の人よ富士詣
  秋も未だ梢に蝉の暑さ哉      素直な良い句だと思います。明治の旧派の代表句のひとつにしても良い。
  極楽の夢見てねむる炬燵哉    


  芭蕉→其角→(五代略)→晋永機→晋柳崕→

[梅崕亭 梅崕] 酒井 徳蔵

  東京市下谷区谷中三崎町25番地

  其角の系統。晋雪庵柳崕の門。

  今朝は又色まさり見ゆ春の山
  風過る日も捨て難き団扇哉      ほとんど川柳の世界です。
  朝顔にせつかれて結ふ垣根哉   客観を主観に託して詠んでしまうという不思議。
  寝た親にそつと着せたる布団哉   これぞ明治の教訓調月並俳諧。


 芭蕉→其角→(五代略)→晋永機→晋柳崕→

 [樵仙居 雲崕]

  東京市浅草区北富坂町18番地

  其角の系統。柳崕の門。

  淡雪の淡き命や水の上      良い句ですが、 「命」と言い過ぎてしまうのが明治の月並。
  葉柳の茂りにくらき堤かな     これはすなおな佳句でしょう。
  散さうに見えて盛や稲の花    過剰に主観的ですが、対象をよく見ている句です。
  母のつぎし足袋頂てはきにけり  どうしてもこのような句を載せないと気が済まないのは編者の方かも知れません。 


  芭蕉→其角→老鼠肝→風湖十→曾湖十→木江左→螺鼠肝→晋永機→

 [皓々舎 松塢]  松平 東園

  東京市本所区相生町3丁目30番地

 浪先を明和らげる柳かな

 隠れ家や蚊遣に曇る山の月

 露丈は月の居て八重葎

 水舩に音のして降る時雨哉


  其角→湖十(老鼠肝)→湖十(霜柱庵)→湖十(風窓)→湖十(木者庵)→鼠肝(螺窓)→永機(老鼠堂)→指直(桃支庵)→

  (明治31年3月5日付「都新聞」の「俳諧十傑」で指直は18,892票で10位。

 [桃支庵 雪斎]  田中 康敬  70歳

  東京市芝区西久保明舟町十七番地

 一二件家も見ゆるや梅の花

 入雨晴やほろりと落し竹の皮

 行秋の見え透く空の高さ哉

 清らかな月乗せてある氷哉


 桃支庵指直→

 [舎魚堂 春涛]  芳川 俊雄 66歳

  東京市麹町区大手町二丁目一番地

 見積つた炭に余寒の長さかな

 夏山や月より上に灯の見ゆる

 静かなる風に賑はし稲の花

 手の届く棚は新し冬籠


 芭蕉→其角→湖十→永機→指直→

 [黙坐庵 楽之]  秋山 政同  66歳

  東京市牛込区赤城下町五十七番地

 雫して家根に音なし春の雨

 花御堂仏の坐てふ草もあれ

 須磨の月十六宵は又明石にて

 初雪のさら\/と賦に書つもり


  永機→指直→

 [凌霄庵 花雪] 内山金太郎

  東京市本郷区元町二丁目四十番地

 よしや又寒くも明けよ梅の窓

 玉の汗袂も邪魔な日なりけり

 明月や今年も旅と思ふ間に

 煤掃やはや一とゝせの夢の塵


 芭蕉→其角→→湖十→永機→湖十江左→鼠肝→永機→機一→一堂→

 [桐堂 一鳳]  野呂卍寿太郎

  東京市日本橋区富沢町三十番地

 里問はまた程遠し呼子鳥

 算盤の三度違ふた暑かな

 朝寒や不意に親父の咳払

 こからしの空拭ひけり吐月峰


 芭蕉→其角→湖十→永機→湖十→江左→鼠肝→永機→機一→一堂→

 [螺堂 一舟]  岩船銀治郎

  東京市本所区向島中之郷町百五十三番地

 梅二輪はるの寒は堪えよし

 国も其こゝろて守れ印地打  (季語は印地打で夏。五月五日の行事)

 蝶よ\/汝計の秋ならす

 親なきや子なきや雪の鉢叩


  其角→→→桃支庵指直((矢部楨蔵 )→

 [明月庵 真照] 青地伊三郎

 東京市浅草区片町四番地(現在の位置不明。台東区松ヶ谷周辺か

 川添や柳かくれの家ひとつ

 来て見れは水の上なり飛ほたる

 浪音も淋し殊さら須磨の秋

 黒潮や落葉一ひら歌の友


  芭蕉→其角→湖十→万和→漁千→禾木→春湖→採花→

 [皎雪庵 梅郊]  佐藤梅次郎

  東京市浅草区旅籠町二丁目二番地

 引鶴の旭に光る羽裏かな

 雨程の雫こほれて藤の花

 水ふくむ様に桔梗のつほみ哉

 手にさけて戻る小春の羽織哉