東京の蕉風 伊勢派系(五色墨白雄系・北陸・京系)

                    無界坊淡水編『俳諧千々の友』(明治36年刊)より

五色墨・白雄系


芭蕉→乙由→柳居→鳥酔→烏明→


   白雄→碩布→逸淵→西馬→

[春秋庵三木雄]  三森 幹雄 74歳

 東京市深川区冬木町10番地 (江東区深川二丁目~冬木)

 春の草昨日は今日の昔かな
 空にみちあとこそ見えね時鳥
 名月や竹になりたる今年竹
 真白な山のうへまで小春哉


   (鳥酔)→烏明→左明→坐来→兀雨→雪彩→

 [対岳堂箭浦] 小崎由兵衛

  東京市日本橋区濱町二丁目一番地

  うちよせる波も隙ある霞かな
  起たれはつれのありたる午睡哉
  猿啼てかなしくしたり后の月
  朝かけや冬田へ下りる山からす


  白雄→西馬→幹雄→

 [楓山居清雅]  松本七五郎

  東京市日本橋区吉川町六番地(東日本橋二丁目あたり)

  散際のそもいさきよき桜かな
  是ほとの野に鳥も見ぬ暑さ哉
  初あらし柳はかるき木なりけり
  月花の友なつかしや冬籠


  白雄→道彦→護物→見外→

 [菊守園 菊外]  猪爪 素吉 61歳

   東京市浅草区猿屋町九番地(台東区浅草橋二~三丁目)

  鶯や念なく念をいれて鳴く
  野鼠の葎出けり青嵐
  秋の月鴦の足掻きの見えにけり
  掻きわけし匂ひの煙る落葉哉


  白雄→爐扇→漣々→富水(初代芙蓉庵)→富水(二世芙蓉庵)

[芙蓉庵文禮]  岡部 長直

   東京市外大森駅南羽田浦新渡り

  鶯や初音の枝も極た顔
  今昇る末三日月や時鳥
  掃き寄て綺麗や萩の花斗り
  花の咲まてと着古す紙子哉


  (白雄→護物→)田喜庵(二代・詩竹)→

[松月庵 詩琴]  小澤七五郎 60歳

  東京市深川区黒江町六番地(江東区永代二丁目~福住~門前仲x町あたり)

  二代目田喜庵詩竹の門下。明治36年で60歳。かなりの実力者とお見受けします。
  明治36年「はたちしう」刊行。松月庵編、研斎老人序、東京大学総合図書館蔵。

  摘草や思ひ思ひのひとり言     (この句は少し面白いと思います。草の一人言にもとれる。 敏)
  涼しさに流れて居るや都鳥
  紫陽花のからひる音や秋の風
  風になり風に成りして時雨かな


  鳥酔→白雄(ママ)坊→斗莚→乙彦→月朶→松雄→

 [玉塘庵 在我]  安藤 稲蔵

  東京市神田区松枝町二十番地(千代田区岩本町二丁目あたり)

  一月や梅も流石の太郎咲
  泥足の猫しかる時沓手鳥
  灯籠や吉原出れば能い月夜
  箕和田の鯉の使ひや寒四郎


 (白雄)→道彦→護物→見外→菊外→

 [松麗園 菊哉]  石川石蔵

  東京市神田区南乗物町15番地

  麦林舎乙由の系統。春秋庵白雄-金令舎道彦-田喜庵護物-菊守園見外-菊守園菊外-菊哉

  蝶々や何うれしうて高あかり
  沫のたつ汀の音や雲の峰
  穂明りのしては夜に入る芒哉
  結構な日和を山の落葉哉


  (白雄)→道彦→護物→見外→菊外→

 [松月園 菊良]  伊藤 福松

  東京市深川区富岡門前町

  麦林舎乙由の系統。春秋庵白雄-金令舎道彦-田喜庵護物-菊守園見外-菊守園菊外-菊良

  言の葉の枝も素直やとしの花
  早かりし露のなじみや麦芒
  何事も揃へば見よき踊哉   (俳句がこうなってしまうのが怖いわけです。)
  なす事も心ゆりをの師走哉


 (白雄)→道彦→護物→見外→菊外→

 [松柏園 菊彦]  田邊 利吉

  東京市深川区小松町七番地(江東区佐賀一丁目・永代一丁目あたり

  乙由の系統。菊外の門下。

  よろこびの色を咲けり福寿草
  素黒野に風の色もつ卯月哉
  白菊や太平楽に日の匂ふ
  行年は松の間を通りけり


[種玉庵斗大] 矢田斗大 73歳

 東京市京橋区木挽町一丁目十四番地

 白雄→道彦→大梅→卓朗

 梅あれば月も澄かとおもふ庭

 声かけて上手になける早苗かな

 山に酔う程は登らし木の子狩

 初冬や花も実もある河原草


 道彦→斗莚

    →乙彦→松雄→在我

             ↓

    ↓月朶→紫紅

[十時庵 梅雄] 杉本宗吉

  東京市日本橋区本町一丁目九番地

 散る花や扇かさせば袂にも

 打水やひら\/蝶の高上がり

 蚊遣丈け遣ふ団扇や露の宿

 紅葉にも菊にも降るや初時雨


  碩布→逸淵→西馬→幹雄

[知守庵 為谷]  木村喜太郞

 東京市下谷区二長町三十三番地 (台東区台東一・二丁目あたり)

 蜘の網をとるに群来る巣蜂哉

 涼しさやたつた一つの月の出て

 幸に口なし色そ女郎花

 善不善とちらも出来す冬籠


 道彦→乙彦→松雄→梅雄→

 [静月軒 榮松] 山木栄吉

  東京市本所区花町七番地 (墨田区緑四丁目あたり)

 鶯の声に起よき旦かな

 松柏に雨はまた乾す夏の月

 月能さに更すや袖の濡る迄

 時雨るや塒へ急く鳥は何


  道彦→孤山→卓郎→山月→菊外→

 [風光堂 一我]  伊藤六三郎

  東京市浅草区瓦町二十八番地(浅草橋一丁目~柳橋二丁目あたり)

 若草や不意と気のつく道しるべ

 親切に蝶もさはらすけしの花

 漸寒う有明のある外山哉

 遠余所に水田明りや野は枯て


  大蕪→秋爪→文路→蕉鹿→蕉露(同名)→  

 [蕉露庵 蕉露]  竹谷三次郎

 東京市浅草区西仲町二十六番地(台東区雷門一~二丁目)

 這ふ梅や今にも雲へ乗さうな

 かる\/とした朝にして更衣

 紅茸や只取迄の美くしみ

 猿も来よ幻住庵の初時雨 




北陸・京系


  芭蕉→凉菟→乙由→希因→闌更→梅室→為山→

[梅之本 耆山]  津田重胤  前夜半亭七世宋路改め

  東京市芝区今入町四番地

  月之本為山が梅之本を開く。

  月と梅来ぬ夜の友を惜しみけり
  流すのは心の塵か御秡川
  朝寒や明る障子の内と外


[秋萩庵 瓢居]  中谷作三

  東京市麻布区市兵衛町二丁目三十二番地

 鶯や花に百歩の桑畑

 白芥子にしはしこたへる夕日哉

 来る空は翌日もあろうに雨の雁

 いく時雨果は日暮て磯の波


 芭蕉→北枝→希因→闌更→立左→篤石→   <北陸・京系>

[水薦園 流左]  寺内安能

  東京市本所区緑町一丁目三十七番地

 怒り立つ簑毛いさまし鶏合

 眼もつらし是を火宅と夕蚊遣

 灯籠や明るう過きて猶寂し

 時雨るゝや沖の小島の見え隠れ


  芭蕉→北枝→希因→闌更→蒼虬→蘆風→   <北陸・京系>

 [石蕉庵 羅風]  三村政二郎

  東京当時行脚

 仏壇は目出度せまし花の春

 詫住の宵寝をたゝく水鶏かな

 身独りの憂にはあらす秋の暮

 乞食にいつそならひて破紙衣