『穎才新誌』は、明治10年に小学生向けに発刊された週刊の雑誌で、日本でもっとも早く刊行された児童向け雑誌です。 その『穎才新誌』に、明治20年になって「俳句欄」が登場します。 俳諧や俳句などの俳文芸は、明治中期までは社会的にも程度の低い文化として認知されていたと考えられています。ですから、俳文芸が教育の場に登場するのはかなり後になってのことなのです。 一般に、俳句が近代文学として認知されるようになるのは、正岡子規の俳句革新によってのことだと言われています。けれど、教育を基本理念とするはずの『穎才新誌』に俳句欄が設けられたということは、そのとき、すでに俳句についての社会的認知が高まっていたと考えることもできるのです。 小学生向けの雑誌として創刊された『穎才新誌』ですが、その後、読者層はかなり上がっていったとも言われていますが、一般の読者に比べれば、その年齢は若かったに違いないのです。 また、明治20年と言えば、点取俳諧が全国的に大流行した年です。子規の俳句革新直前、当時の若い俳句愛好家たちは、どのような作品を発表していたのでしょう。 『穎才新誌』に俳句が登場した明治20年の作品346句を読んでみましょう。 |
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515号 | 海となる清水もいわのしつくかな 横浜 眠 牛 卯のはなや雪と見まかふ垣つゝき 東京 魯 堂 ふねてたく烟からひくかすみかな 常陸 桂 里 むかしめく今めく雛のすかたかな 埼玉 海 造 のとかさや雲につかゆるおきの船 丹後 竹 陰 とし古りてやしろたふとし夏木立 同 人 白雲のゆくゑやはなのやまつゝき 同 人 人馴れた様になきけりほとゝきす 安房 菱 洲 暮れかねてまたも茶にする春の雨 常陸 佐 藤 |
516号 |
鷺程になってひさしやのこるゆき 美濃 鳳 來 結はるも解るもかせのやなきかな 東京 魯 堂 ひと呼へはさきの首のす青田かき 美濃 鳳 來 月なくて暗につやあるゆふさくら 埼玉 静 堂 卯の花やくれのこりたるひと重籬 美作 わたる 月の戸を声のもれけりほとゝきす 同 人 芥子散るや只雲かけのはしるにも 同 人 なつか敷啼くや深山のほとゝきす 東京 駒 雄 川はたやひとさわかしき初ほたる 安房 菱 洲 折/\にせみ啼くいほのはしら哉 美濃 鳳 來 こつせんと梅のこすえやふゆの月 美作 わたる ほとゝきす月は梢えにありなから 東京 艸 操 |
517号 | 妻恋ふるこゝろ焼野のきゝすかな 南総 勝 倉 うつ蝉のこゑもすゝしや夏木たち 同 人 卯の花はとなりにしらぬ月夜かな 東京 春 樹 うれしさも折手にあまる初わらひ 同 人 ひはりより下やうこかぬ根なし雲 出雲 森 田 落かゝる月にこゑしてほとゝきす 同 人 月はかり松にのこりてほとゝきす 紀州 自 守 てる月もとふらぬ森やほとゝきす 同 人 なくこゑも高し雲間のほとゝきす 埼玉 不 知 見て廻るうちに散りけりけしの花 同 人 ゆくほとになかれふとりて夏の川 壽 山 こゝろなく鳥の立けり散るさくら 三河 了 証 てふまふや春に負う子の夢わらひ 越后 理 啓 つきはれて気味よきこゑや啼河鹿 東京 艸 操 ひとつ啼くふたつ啼く田の蛙かな 同 人 手まくらにくせのつきけり啼く蛙 北総 戸 田 芥子咲くやけふもふりける小糠雨 尾張 含 英 |
519号 | 担台にはなしの寄るやなつのつき 下毛 笠 村 いそかすとさくら見て行け帰る雁 美作 風 來 青くさき茶を呑む朝やほとゝきす 下総 如 水 あめとのみあるや五月のたひ日記 東京 松 井 三日月もともにすくうて白魚くみ 東京 艸 操 松 からはつるも見て居る田植かな 愛媛 旭 晴れかけて又も降り出すつゆの雨 大坂 蕉 窓 夜は花もしつまりかえるやしろ哉 伯耆 竹 庵 村雨のかゝらぬもりやほとゝきす 横浜 放 牛 夕顔のたなやひさしのかけつくり 銚子 亀 玉 水うちてみやひのつきし小庭かな 東京 敬 洲 きゝなれてきかぬもさひし閑子鳥 美作 風 來 みやこにもあきはあるなり暮の鐘 同 蚊のはりもきかずなりけり露の音 同 月に邪魔しておもしろきやなき哉 同 かすみから生れるようや来る帆影 常陸 竹 成* すたれには風の見ゆれとあつさ哉 同 川風のやまふきとうすせみのこゑ 同 東 海 三日月のほそきもあきの寒みかな 下総 直 明 |
520号 | おして来る浪にこゑあり遠ふ千鳥 美作 水 月 ものゝ音もひゝく様なり芥子の花 同 早乙鳥のくちにふくみしなつの風 阿波 菱 洲* 用なきもまわりて見たき青田かな 信州 似 水 はつかりのないて来にけり夜の雨 美濃 耕 園 しらくもはやまにのこして冬の月 同 野辺の橋まて出て見たりなつの月 播磨 昭 麟 ひる顔や明日はふるかと見せし雲 同 愛 洲 なく声は暗きにも似すほとゝきす 土佐 東 渓 鐘の音もまたすきとふる月夜かな 群馬 酔 狂 たけの子やきはたつて居る五月雨 磐城 竹 窓 ゆあかりの手拭すゝくなつのつき 在京 囂 齋 竹椽はいかにすゝしやふみこゝち 在京 亀 泉 降りかゝる雨にいよ/\田唄かな 同 草 操 月すゝしきぬたにまじる杵のうた 美作 風 來 散りそめて盛りなりけり芥子の花 同 |
521号 | 四五ほんの竹に奥あるおほろつき 東京 梅 月 里ありとおもへととふし鹿のこゑ 上総 雄 堤 茶ふきんのかはく間はなし五月雨 同 竹 陰 五月雨にゆふめしはやき山家かな 同 とりとひし跡見る芥子の盛りかな 東京 林 雨 あつき日のあまりや夜の人とふり 上総 雄 月 せきもりの際までつゝく青田かな 下総 竹 雄 また月のとゝかぬ山てしかのこゑ 同 木の間もるかけもすゝしや夏の月 埼玉 静 堂 おや竹にまさる今年のてたちかな 越後 理 啓 たけ植る日なりころなり軒のあめ 東京 朝 光 田から田へ植送らるゝかはつかな 美作 水 月 山の端に月かたふきてほとゝきす 播磨 昭 麟 とりゐから四五丁くらき茂りかな 相模 壽 山 くさの戸にさいても花の富貴かな 上総 小 島 すゝしさや木陰にもるゝ月のかけ 東京 松 井 なみおとも涼しき須磨の浦家かな 同 花 月 やみの世をてらしてわたる螢かな 同 米 子 なつくさや水ありそうな風のたつ 同 椿 年 かこにのる人になりたし春のかせ 徳島 秀 翆 山つたう水も田うゑのとうくかな 同 香 霞 水おともふかき木の間や風かをる 愛媛 旭 吉 見て甲斐の無空見たりほとゝきす 伯耆 竹 庵 |
522号 | 木枯らしや島根に残るなみうねり 茨城 桂 里 垣越しになみも来さふな青田かな 常陽 竹 成 夕かせに吹きくつさゝる蚊遣かな 石 琴 植人よりうたにきはしき山田かな 美濃 耕 園 今朝見れは富士の高根に足もなし 埼玉 静 堂 声はしてかすみに見ゆる雲雀かな 同 かはつなくこゑもしめりて五月雨 磐城 壽 助 ゆふたちや晴れる方から蝉か啼く 在京 囂 齋 水に浮くかけから青むやなきかな 愛媛 旭 吉 いつる日も入る日も花の木の間哉 東京 梅 司 おもうほど田に水ありて月すゝし 安房 翆 雲 月 すゝしふうりんの音夜もすから 美作 風 來 ほころひし岩間を縫うや苦しみつ 栃木 笠 村 露のひる間も気つかはし芥子の花 紀州 自 守 ふくとなき風にもなひく糸やなき 南総 勝 倉 越せは山越せは山なりかんことり 出雲 百 花 おちかゝる月に一こゑほとゝきす 同 楽 水 雨のおとかとおもはるゝこほれ椎 東京 魯 堂 世をいとふ身に友もなし月のあき 美 山 くもすゝしはれてつやあり夏の月 大坂 蕉 窓 すすはきやなふられて居る竹夫人 美作 一 貫 ふる雨をわか物にして啼くかはつ 尾張 枕 流 きき直す声なかりけりほとゝきす 美作 鱗 |
523号 | あをめえておちるしつくや春の雨 ふかま芳水 すゝしさや岩かとあらふ水のおと 北総 竹 陰 おとなへとたゝ犬はかり田植とき 横浜 放 牛 若風をとなりへこほすやなきかな 同 椿 年 むら雨か遠音にしたりほとゝきす 東京 蕉 陰 つきかけと別にひやつく若葉かな 同 琴 石 わかたけの葉ことにやとる夏の月 埼玉 静 堂 雑魚網のやふれつくろう長夜かな 同 稼 軒 越して来るかもや尾さきの月明り 美作 水 月 清水あるかたへなひくやくさの風 名古 喜 晴 さしよせて柳のしたのふねすゝみ 大坂 蕉 窓 |
524号 | ふうりんもねむるようなり五月雨 南越 半 痴 となりから秋を打ちたすきぬた哉 播磨 昭 鱗 水よりも好き風おこすわかはかな 同 人 あきさむし野末のつゆに月ひとつ 在京 囂 齋 あきの来て大きく見ゆるやまの寺 同 人 まつかせのやわらかになる夏木立 北総 戸 田 豆の葉ははやいろに出てあきの風 同 春 子 とうやまはまた暮れきらて雪明り 同 人 あをやきのかけもなかれて水青し 埼玉 静 堂 吹くかせに波の寄り来る青田かな 同 人 すゝしさは月にこそあれ夏のよる 播磨 類 子 ひとつ家の灯かけになれてなく蛙 下総 雄 月 夕立にひるのあつさをなかしけり 浅草 みゆき あおやきの風にみたるゝほたる哉 尾張 樵 叟 朝夕に見てこゝちよきあお田かな 播磨 愛 洲 降る雨の最中と見へしせみのこゑ 埼玉 稲 雲 村雲を呼ひおこしけりせみしくれ 北総 飯 高 地しめりも牡丹ひとつの日影かな 東京 蘭 梁 見をる間にまたくもりけり秋の空 同 耕 村 |
525号 | 春東風や笠ほとのくもはこひ来る 銀座 聿 水 灯ろうのかけほそなかき雨夜かな 同 ふる池に月を蹴て啼くかはつかな 南総 麗 水 雲のみねやふれて二度の入日かな 埼玉 牛 二 わかたけにちらりと添し三日の月 同 植仕舞う田にこゝちよき小雨かな 安房 やす子 顔見たきこゑや田植のうしろかさ 同 菱 洲 野から来る風をまくらや夏さしき 同 むさし野や名はさま/\の草の花 東京 亀 泉 すすしさや川へひろかるはなし声 相模 壽 山 雨あしを啼き降らしけり枝かはつ 北総 竹 陰 夕たちやおもては晴れてうらは雨 南総 吐 表 夏もまた浅きおほろや鵜のかゝり 東京 聿 水 すゝしさや木の間をもるゝ月の影 同 紫 光 |
526号 | 戸にあたる風や青田をなてゝ来る 越後 理 啓 雨の夜はきゆるかと見る飛ほたる 下野 ゆき女 若竹やあめのしたゝる葉のおもみ 東京 蕉 村 蓮の葉に雨しるゝ夜のあけやすき 同 梅 司 打ち水をしてからまたん夏のつき 同 ふうりんの鳴る時すゝし夕すたれ 同 囂 齋 ひる顔やひと雨ほしきくも見せて 尾張 樵 叟 うこきなき君か御代をは小田に鳴 大隅 定 吉 くさの葉のつゆに玉あり秋のつき 蒲城 奇 雲 松かけのうつる坐しきや月すゝし 東京 蕉 村 夏きくやくはりかねたる朝のうち 越後 皓 月 いねかねてはなしのふえる暑かな 南総 勝 倉 五月雨の晴るさへおそき山家かな 北総 戸 田 夕立やはれてすゝしきせみのこゑ 下毛 耕 村 けしちるや無分別なるきねのおと 東京 魯 堂 |
527号 | はるかせや白帆うみ出す夕けむり 横浜 放 牛 よもすからふりて音なしはるの雨 同 人 すゝしさの一と目にあまる青田哉 上来 森 田 なみたゝぬ水のおもてや雲のみね 讃岐 琴 石 青田ふくかせこゝちよしけさの秋 尾張 枕 流 あけかたの鐘のひゝきや薄こうり 伯耆 泰 山 さひしさもなかねはしらす閑古鳥 羽前 楽 山 波つくるかせや青田のゆふけしき 讃岐 碧 水 波おとにゆられて舟のすゝみかな 同 人 青やきのえたしたゝりて月すゝし 播磨 愛 洲 日かくれてのちこそ秋のこゝち哉 埼玉 紫 浪 とりも友しとふこゑなり秋のくれ 伯耆 竹 庵 八月もほとゝきす聞くやま家かな 信濃 鳳 儀 寝こゝろのよき夜なりけりはつ蛙 出雲 錦 海 日くらしや山半ふんは日の暮るゝ 同 日のつまる影を散り出すやなき哉 上総 林 荘 のほらるゝ道ありけなり雲のみね 東京 聿 水 |
529号 | 目のよくに少し添たしつきにくも 埼玉 牛 二 若たけの戦き出しけりまとのつき 下野 芳 泉 まつのせに汗をとらせて昼寝かな 同 すゝしさやしら帆の走る虹のした 同 おやたけをぬけて戦くや今年たけ 相模 芳 年 蝉啼くや河原のいしもわれるほと 同 見定めて居る間に暮れつ秋のやま 下総 竹 雄 虫鳴やそとにおとなく夜のふける 同 降ぬきしそらの青みやほとゝきす 神奈 染 治 蚊やりくす掃くやあさ日を箒さき 石成 石 涯 火うつりのおそい附木やなく水鶏 同 月すむや江にさわ/\と汐の来る 同 房 峯つくるくものあつさよせみの声 美作 風 來 つきすゝし滴たるようなそらの色 同 はり揚た帆に力らなきあつさかな 下野 笠 村 うちみつや草の匂いをかせおくる 長野 似 水 やまてらも隠るゝほとの茂りかな 同 さひしさの昼にもあれやはきの音 下総 耕 雨 寝支度をして見に出たりなつの月 播磨 愛 洲 はなしするまもおき兼ぬる團扇哉 東京 みゆき 又ひとり来て永うなるすゝみかな 可 笑 更るまてまちて聞けりほとゝきす 同 いつ見ても朝景敷ありかきつはた 同 みつおとも高くなりけり青すたれ 石見 碧 山 松ひと木にはの風情やなつのつき 上野 醒 狂 みつ口のあいてひときわ青田かな 同 更て行かけもすゝしやなつのつき 尾張 松 濤 すゝしさや青田をわたるかせの音 同 あさかおや花の出る間にひと烟草 埼玉 稼 軒 竹巻たくさの実あかしわたるかり 安房 静 軒 |
531号 | 影させと植た木にありあきのこゑ 讃岐 烟 外 すみ/\に月のとゝかぬ青田かな 同 赤 水 月の出てけしきとゝなう青田かな 同 同 なつの夜やねこゝろ涼し雨のおと 同 碧 水 つきの出て一ときは高しむしの声 一 宇 竹植てほとよきあめをきく夜かな 同 青東風のふくやすゝめのあさ機嫌 安房 けい子 かせ筋のさわりなく来る青田かな 常陸 竹 成 柳さへそよかぬ日なりくものみね 東京 艸 操 つきはれて笛の音すゝしなつ神楽 同 木枯のあらしにさへるふゆのつき 武蔵 静 堂 一枝のまつにおくあるおほろつき 同 何にとなく物おもわしむ秋のあめ 下野 笠 村 そらよりも湖水の上や今日のつき 月 雪 雨の鹿よるのさひしみかさねけり 上野 東 鳴 今朝も又晴れるしらせやあけ雲雀 下野 畊 村 今朝迄も見へし野山もく■のうち 秩父 浅之助 か■清くつき好き今日の涼みかな 東京 紫 光 ゆふ立におちつく顔やうゑきうり 大坂 春 湖 みやこにもあきは来にけり雁の声 埼玉 静 堂 |
533号 | 菜の花のなみにゆられて生駒やま 紀伊 自 守 きしなくや雨になりそな山のもや 同 あける夜の外にいろなし萩すゝき 水戸 旭 雅 ふるあめの中に淋しやきり/\す 同 ゆふたちや一つのやまを二つ分け 伯耆 竹 庵 しら浪のよせくる様な蕎麦はたけ 武蔵 静 堂 夜はつゆの力らに明くる草家かな 千葉 小 島 いりふねも出ふねもいそく夕晴間 土佐 喜之介 天の川晴れて木の間のしつくかな 隅州 丹 水 なにとなく水きはたつやあきの月 東京 鈴の屋 あき雨とこゝを言うにや日くれ前 水戸 梅 雅 月さへてきく音もかなしきぬた哉 紀伊 城 謙 ひらくたひ薫りけたかし梅のはな 下毛 畊 村 |
535号 | たま川のつきもふけゆくきぬた哉 常陸 竹 成 はすひらくそとにおとなき庵かな 大坂 春 湖 きぬた搗おとさへ渡るあきのかせ 尾張 樵 叟 むらさめにあきを呼たす杵のこゑ 南越 半 痴 みゝ底にすむやいそへの遠しくれ 米沢 渡 邊 きくかねも身にしむ秋の夕へかな 南総 勝 呂 小半合の酒買ひにゆくしくれかな 山口 雨 珠 うつくしき花のなかにも毛虫かな 同 川きりをくゝりてなかすいかた哉 豊後 愛 山 あめ二日たいくつらしや乙鳥の子 東京 梅 庵 ひるも見し石におとろくおほろ月 秩父 浅之助 霜ふかみ鳴むしの音も枯れにけり ふくとなきかせの姿をやなきかな 南総 小 島 夕影をのせてつなくやはないかた 越後 皓 月 |
536号 | 夕たちに追はるゝ様なしら帆かな 下総 耕 雨 うす/\と烟る木の間や初さくら 上毛 銀 堂 降りそうてふらぬ空なり花くもり 米沢 眠 花 今朝秋と知るや紙帳のかせあたり 越後 一 樓 かもなくや弓はり月のうすあかり 尾張 枕 流 腹つゝみたゝくたぬきやあきの月 讃岐 碧 水 からさきのまつから明て初あらし 越後 雲 外 今朝うえし松から出るやあきの風 東京 紅 於 みちきつた汐嵩たかしつきのあき 讃岐 碧 水 月すむやおとなくそよく川やなき 同 赤 水 雉子なくやむかし砦のありしあと 常陸 竹 成 真清水を料理につかうやま家かな 日向 蝶 睡 橋の上もてはやしけりなつのつき 北総 竹 陰 五月雨の晴てさわかしすゝめの子 群馬 東 鳴 |
538号 | 鴫たつやつきかけゆれる水あかり 上総 悟 幹 すゝ風を産出しなみのうねりかな 出雲 潮 雲 すすかせを孕みて行くや帆かけ舟 同 ふくなりにすこし崩れて雲のみね 花 月 寝返るや蓮の実とひしみつのおと 越後 理 啓 斧の柄をふりあけかねし秋のやま 東京 笑 翁 てりつゝく雲のゆるみやおほろ月 雲を出てゝいよ/\匂う梅のはな ものことに調子つきけり年のくれ 東京 梅 庵 なみの音しつかになりて鴫のこゑ 同 竹二郎 昇るほとます/\たかし初日の出 北信 武 夫 ひと霜ににしき織り出す紅葉かな 上総 麗 水 ひとつ宛わけてきゝたし蟲のこゑ 下野 歳 彦 |
539号 | 折られては都ににほふ野うめかな 大坂 愛 山 しら萩やすかして見たる■きつ手 同 つきかけも傾むくはかりきぬた哉 南総 勝 倉 かりて来た様なつき夜や鹿のこゑ 尾張 含 英 あめの夜のひと際さひし遠きぬた 同 とふなりと風にまかするやなき哉 大坂 一 笑 夜のあけるように暮けり今日の月 土佐 東 渓 をく露やその葉/\のちからほと 同 |
540号 | おこたりし鳴子に肥るすゝめかな 千葉 葉山 つゆはかりむしはかり野は秋最中 同 青鷺の羽かせにそよくさなえかな 紀伊 自守 ゆくかりの羽音もさひし秋のそら 大隅 一州 小にはにも遠近のあるむしのこゑ 大阪 春湖 さきすきてさひしくしたり帰り花 相模 寿山 おくしものなかに香たかし水仙花 同 あきさむく水田につきの澄む夜哉 下野 花薫 こからしの跡やおちつく茶の手前 東京 愿吉 よしきりも耳になりけりわたし守 大阪 春湖 |
543号 | 三日月の影ありなからしくれかな 東京 汲古 ともし火の穂さきうこくや秋の鐘 横浜 鶴陰 ひや/\と川風に散るやなきかな 東京 竹二 一拍子ぬけしひよりやあきのてふ 大阪 春湖 白つゆの玉をく?たやむしのこゑ 埼玉 稼軒 松かせのみつにお?けり池のつき 大阪 寄太郎 はたうつや見て居る老の志あん顔 東京 笑翁 八重咲のうめのかほりや遠くまて 同 梅庵 |
544号 明20.12.3 |
くも間なる月を打出すきぬたかな 南総 勝 倉 ふゆ川やちいさき月のてりあまる 紀伊 自 守 みつ打おしあとやすゝしき虫の声 北総 竹 陰 かせ誘ふあめこほれけり神無つき 讃岐 碧水 きれ/\になかるゝおとや冬の水 同 蓮いけに降るおとたかしよるの雨 北総 巨 舟 ついそこに見えても高し秋のそら 東京 竹次郎 くらへてもおよふ花なきさくら哉 神奈 常 夫 |
546号 明20.12.17 |
くもふんて来たこゑらしゝ明の雁 千葉 徳 次 山里やかゝしの見えてひとちから 同 竹 陰 寝た家の外からしろしふゆのつき 大阪 春 湖 葉さくらや花からつゝくあさ気色 竹友 片とうけ越間にくるゝこはるかな 相模 寿 山 鳩一羽ふかれて居るやふゆこたち 同 目のとゝくかきりはみえて桜はな 蒲生 奇 雲 糸柳のかけもやせけりあきのつき 同 みそさゝゐ啼や小雲のあけほのに 武蔵 東 圃 みき迄は撓まぬゆきのやなきかな 信濃 水 音 時雨かとおとろく夜半の落葉かな 尾張 含 英 菊のはな手入とゝ来てさかりかな 出雲 錦 海 とこまても匂ふて行やむめのはな 東京 永 石 |