天保の三大家 代表句

 

天保の三大家と言われる、成田蒼虬、桜井梅室、田川鳳朗の
句を読んでみましょう。それぞれの家集から選んでみました。
正岡子規に月並と呼ばれましたが、なかなかうまいものです。

 成田蒼虬 なりた そうきゅう (1761~1842)

 芭蕉堂・南無庵・対塔庵

  梅の花ものにかくれぬけしき哉
  杖に手を重ねて見るや春の月
  東風吹やぶすぶすけむる田中の温泉(ゆ)
  子を持ぬ蜑が家はなし春の風
  春の海浅きとまでに思ひけり
  燕子花ひらくや松のひと雫
  ぬくもりは臥猪のあとか郭公
  時鳥夜も物喰ふ神の馬
  紫陽花と同じ色なり筑波山
  しほからきものの喰たき蓮見哉
  犬も尾をきりりと巻てけさの秋
  吸がらの道にけむるや今朝の秋
  朝顔に夫婦の杖をならべけり
  大文字やはじめにぽつと一けむり
  しばらくは膝にたまるや月の霧
  鈴ひとつ鋏につけて冬ごもり
  水鳥と同じうねりの丸太かな

 『訂正蒼虬翁句集』(梅通編・弘化4年)より

桜井梅室 さくらい ばいしつ (1769~1852)

 元日や鬼ひしぐ手も膝の上
 忘井(わすれい)にちらちら浮やわかな屑
 梅さくや旅人山へかけのぼる
 梅かつぐ一人にせまし渡しぶね
 山深く来て海苔の香はまさりけり
 太良より次郎がさきに衣がえ(へ)
 ほととぎす鳴くや手ぬるき斧づかひ
 里見えて牛もはしるや秋のかぜ
 萩の花一本をればみなうごく
 寺入の子の名書たる西瓜かな
 蛼やまださめきらぬ風呂の下
 菊の香に一坐しばらく黙りけり
 義仲寺のふみ濡て来る時雨かな
 沖見ゆる障子の穴もしぐれけり
 雪花をまぶたにつけてみそさざい

 『梅室家集』(自選・天保10年)より

 
田川鳳朗 たがわ ほうろう(1762 -1845)

 元日の日のさす肩のあはひかな
 己が影さすや蛙の咽の下
 ふりかへる時雲となるさくらかな
 一おろし蚕に来たり山の冷
 みじか夜やうたた寝の森ほど近し
 蚰(げじげじ)のさわぎにうせしうちはかな
 夕風や牡丹崩れて不二見ゆる
 朝風を畳にこぼす若葉かな
 夏草を花さくものとしらざりし
 殻になる無常もありて蝸牛
 鹿子(かのこ)はや峯に立(たつ)事覚えけり
 秋立やまとまりかねて少しづつ
 蝉といふせみ蜩に成にけり
 狼の子を祝はるる小はるかな
 物しばし匂ふて止みぬ枯野原
 積にけり消る力のなき粉雪
 くらがりを面の見て居る神楽哉
 ふと買て無用な笊や年の市
     
 『鳳朗発句集』(西馬編・嘉永2年)より