幕末の江戸三大家・京都の芹舎 代表句

 

幕末の江戸三大家と言われた、関為山、鳥越等栽、橘田春湖と
京都の八木芹舎の句を読んでみましょう。

関 為山 せき いざん (1804-1878)

 関為山は桜井梅室の弟子で、江戸の左官職でした。
 初め渉壁千輅と名乗っていましたが、渉壁は左官職だったからでしょう。
洒落てますね。

 月のさす岸の筏や藤の花         千輅
 蠟燭もつかひ切たる入梅かな      千輅
 道よけて濡牛とほす新樹哉        千輅
 二三人残る寺子や垣つはた(燕子花) 千輅
 赤らめはわつかになりぬ庵の柿     千輅
 明るみてまた降雨や薄原         千輅
 日のさして一日寒し垣のうら        千輅
 冬の月となりといふもはたけこし     千輅

 八雲東溟編・渉壁千輅校『俳諧今人五百題』(天保12年)より


 とりしまりなき木の間より初さくら     為山
 湯桶なときのふのまゝやちるさくら    為山
 春風のさそふゆきゝや袖袂        為山

梅の本為山編『俳諧今人五百題 三編 春』(嘉永4年)より

橘田春湖 きつた しゅんこ (1815-1886)

  外宮
 すこしちる桜のもとや風の宮       春湖
  那智の滝
 暮たれば滝ばかりなり那智の空     春湖
  雲井の御所(香川県)
 白峰はあはれ一つの若葉かな      春湖
  道後
 ふらぬ間も薬あふるゝ湯げたかな     春湖
  二神山
 たか千穗の合点もゆきぬ青嵐      春湖
  阿蘇
 夕だちの持てもゆかず阿蘇の雲     春湖
  耶馬溪羅漢寺
 涼しさやから絵に畳む山と水       春湖
  但馬国
 但馬路を人にかたらば夕もみぢ     春湖
  三河国牛久保
 にし東空ふりかへて冬籠          春湖

 以上『雲鳥日記』(安政2年(1855)の名古屋発の旅日記)より


 初日かけ匂ふやさらに山かつら     春湖
 元日やむかふところに有磯海 春湖
 淡雪や青くて清き自在竹          春湖
  「五月三日訓導拝命」
 あふかはや扇も添て道の風        春湖
  教林盟社説教開講に
 梅か香もはやし教への林より       春湖

以上、橘田仲太郎編『春湖発句集』(橘田かめ・明治25年)より

 
鳥越等栽 とりごえ とうさい (1805-1890)

 一月と見るや思ふや松に雪        等栽
 寝覚めよき屏風の梅も睦月哉       等栽
 子を連れて鹿の見て居る小川哉     等栽
 行水のあや見せて飛ぶ蛍かな       等栽
 思いかけなき蚊処や隅田川        等栽
 見て思ふほと暑からぬ野道かな      等栽
 朝かほや日遣り大工の起ぬ内       等栽
 柿店の灯のほのくらき夜寒哉        等栽
 あゆむかと田螺見て居る小春かな     等栽
 羽織着た落穂拾ひや小六月        等栽

 井上玄岱編『佳峰園等栽発句集』より

八木芹舎 やぎ きんしゃ (1805-1890)

 客二人来て押合ぬ冬こもり         芹舎
 こからしの吹すくめたる小家かな      芹舎

  以上『泮水園句集』(元治元年)より

 手を打てはやかて落来る花火哉      芹舎
 しら露や朝日に遠き草の原         芹舎
 あさかほや露より出し花の色        芹舎
 あさ顔の咲て古ひぬことし竹        芹舎
 宿ぬしの顔今見たり榾明り         芹舎
 はつ雪や消ぬかたへと人のゆく      芹舎

  以上、『泮水園句集 後編』(明治18年)より