はじめての量産品・・・(H社の自動車電話)

つぎに担当したのは、今はN社を抜き業界2位となったH社の車にはじめて搭載された自動車電話の開発でした。
当時のH社は、自動車業界としてはまだ異端児?的な存在でとてつもない発想での製品開発の仕事が舞い込んできました。
いまとなってもこんなもの・・・というような玩具のような電話機には思わず笑ってしまいます。

本題に戻りますが、量産品を開発するまでには、いろいろな過程をふむわけで、まずはプロトタイプの試作からはじまります。
 プロトタイプは、既存の製品の改造から始まりました。簡易成形モールド(樹脂ケース)とブリキ?の板金加工で全部が手作りです。
もちろん、組み込まれる基板の回路も改造をおこないます。

そんな、プロトタイプは壊れやすく手荒く扱うと「バキッ」っと音をたててすぐ壊れるのがオチです。
プロトタイプの出荷前にお偉いサンが見に来て「こりゃおもしろい」といって、いじりまわされて「バキッ」とやられることもたまにあります。そんなときは、プロジェクト全員が真っ青になり徹夜で作業するハメになります。
お偉いサンも責任を感じてか、そばで一緒に徹夜してますが邪魔なだけでプロジェクトのみんなから無視されています。(爆)

プロトタイプの評価をお客にしてもらうと、最終的な製品としての改良仕様が出され、本設計が始まります。
完全に量産を意識した設計なので手が抜けません。あらゆる環境、使用条件を考えて設計します。もちろん、工場で組立てるときのことも考えて設計します。このへんは、ほんとに緻密にあらゆる条件を想定しなければならないので楽しい時期でもあり、辛いときです。
使用部品の供給性と低価格、極寒の地から高温の車内でも動かなければならない信頼性、組立のし易さを全て満足しなければならないので、大変なのです。

回路、基板、機構設計が終わり、最初に行うのが量産試作です。
最初は20台ほど作り、量産時の組立上の問題、環境・信頼性動作のテストをおこないます。もちろん、お客のところにも納めて評価してもらいます。
まだこの段階では、いろいろ問題が出てきて設計者は対応に追われます。設計者いわく「よくこんなテストするもんだ・・・・」と思いながらも対策方法を考えます。市場にでるともっとすごい使い方をされるので、本当は手ぬるいところもあるのです。
いろいろおおかたの問題が片づいたところで、量産本番の改良設計をすすめていくことになります。
この時期は、新製品の出荷時期を遅らせるわけにもいかず、そうかといって変な物も世の中に出すわけにもいかずの状態の中で、右往左往してる時期でもあります。

やっとのことで量産が始まると、こんどは工場で大騒ぎがはじまります。「組立がわからない」「検査がわからない」「動かない」・・・・
毎日が工場とのやりとりで本来の設計者の作業どころろではありません。あちこちで説明したり、謝ったり・・・・・気が滅入る毎日が続くのです。
設計にまずいところがあると、「設変」といって「設計変更の通知」をだすのですが、そんなものを出そうものなら工場のおじさん達は、大騒ぎで「そんなもの(通知)うけとれねーよ!!」と怒鳴られる。でも、「そんな設計不良品作っても売れねーよ」というのが本音(言えません)で説得にあたります。そんな、すったもんだで量産品の1stロットが立ち上がります。
この1stロットの量産(せいぜい200〜300台位ですけど)さえ乗り越えるのが大変なのです。

でも、実際には新規に開発した製品が落ち着くのには1年位かかるもので、その間には細かな設変がはいり改良が加えられています。だから、世の中に出回っている新製品というものは、本当は1年間は買わないで様子を見た方が無難なのです。
とくに、H社の製品は「設変」が多く製品の完成度がたかまるのは1年どころじゃないような気がします。


これが、私が入社2〜3年目で最初に手がけた量産品の開発でした。

最後に、やはり、自分の設計した製品はあまり使わない方がいいと今でもおもうこの頃です。
このように思うのは、何処のメーカの設計者もみなおなじみたいですね・・・・あはは。
 
 
 
 

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